第39回 恋する歌舞伎は、十一月歌舞伎座で上演予定の『隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)法界坊(ほうかいぼう)』に注目します! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。
恋する歌舞伎 第39回
『隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)法界坊(ほうかいぼう)』
【1】お宝奪還のため奔走する人たちのもとへ、キャラの濃い乞食坊主がやってきた!
吉田家の公達・松若(まつわか)は、お家再興のため、朝廷から預かった「鯉魚(りぎょ)の一軸」を探している。今は吉田家に恩のある道具屋・永楽屋の手代として、名も要助(ようすけ)と変えこっそり詮議を続けている。ある日、大阪屋源右衛門(おおさかやげんえもん)という男が一軸を所持しているとわかり、永楽屋後家のおらくは、娘のおくみをこの源右衛門に嫁がせることを条件に、百両で買い取る約束を取り付けた。ところがおくみは要助と恋仲であるため、この縁談に乗り気ではない。とそこへ、ひどく汚い身なりの、金と色に目のない破壊僧・法界坊(ほうかいぼう)が、釣鐘建立の勧進(寄付を募ること)にやってくる。法界坊はおくみに首ったけで今日もしつこく追いかけるが、全く相手にされない。
【2】女も金も手に入れられるはずが、とんでもない羞恥をさらされて・・・
要助(実は松若)は、都に野分(のわけ)姫という許嫁を残してきた。姫は要助に会いたい一心で、荵(しのぶ)売りに身をやつして追いかけてきたのだ。三角関係が露見し、痴話喧嘩を始めるおくみと要助。と、その隙にあの法界坊がやってきて、やっとの思いで手に入った大事な一軸の中身を、なんの値打ちもない釣鐘の絵図とこっそりすり替えてしまう。しかし今度は源右衛門が、別の掛け軸とすり替えたため、結局一軸は再び源右衛門の手に…そうと知らない法界坊は、今度は二人を引き裂くため「おくみは祝言を控えているのに手代の要助と付き合っている」と暴露する。更に店の番頭・長九郎(ちょうくろう)もおくみを狙っているため、要助をおとしいれようとする。追い込まれた二人の窮地を救ったのは、昔吉田家に使えていた道具屋・甚三郎。法界坊に「証拠はあるのか」と問うと、おくみが要助に宛てた恋文がここにあるという。それを甚三郎が声に出して読むと、はじめはしたり顔だった法界坊が途中から慌て始める。なんとこれは自分がおくみに宛てたラブレターではないか!実は甚三郎があらかじめすり替えておいたのだ。皆の前で拙い愛の告白文を朗々と読み上げられ、悔しいやら恥ずかしいやらそそくさと去っていく法界坊なのだった。
【3】女は誘拐され、男は衝動殺人。若い二人の未来やいかに
これにて一件落着。と思いきや、結局百両を支払うことができず、おくみは源右衛門と祝言することになり、二人は離ればなれになる。
ここで懲りないのが番頭の長九郎。おくみを誘拐し籠に押し込めるが、今度はそれを法界坊が横取りしてしまうのだった。
そのとき要助はというと、嫌味な源右衛門に捕まっていた。「おくみを俺にとられて悔しいだろう」と迫られ、更には大事な一軸を目の前で引き裂かれてしまう!頭に血がのぼった要助は、とうとう源右衛門をバッサリと斬り捨てる。我に返り自分も腹を切ろうとするが、通りかかった甚三郎に止められ、いま源右衛門が引き裂いたのは偽物だと教えられる。更に法界坊が誘拐しようとしたおくみも無事に助け出され、甚三郎の助けで若い二人は連れ立っていくのだった。
【4】悪行の極みの末、あっけない最期。が、すんなり終わらないのがこの男。
ところ変わってここは隅田川の三囲(みめぐり)土手。突然の落雷でおくみと野分姫と要助は気を失う。それを見つけた法界坊はしめたとばかりに憎き要助を縛り上げる。女に目がない法界坊は、野分姫を口説くが相手にされないとわかると、作戦を変更。法界坊は「野分姫が邪魔だから殺してくれと要助から頼まれた」と嘘を言い、姫を殺してしまう。そこへ駆けつけたのは甚三郎。争った末、ようやく本物の一軸を手に入れることに成功する。法界坊は甚三郎に斬られ、更には自分が掘った穴へ落ちるという間抜けな死に方をする。要助とおくみは命からがら逃げていくが、甚三郎がそのあとを追おうとすると、恨みを呑んで死んだ野分姫と執念深い法界坊の怨念が亡霊となって、甚三郎を引き戻すのだった。
『隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)法界坊(ほうかいぼう)』とは
奈河四五三助作。天明四年五月大阪角の芝居初演。前半は喜劇だが、後半は殺された法界坊が執念深い亡霊となり、シリアスな場面が展開される。大詰の「双面」は常磐津の舞踊劇となり、駆け落ちしたおくみと要助の前に野分姫の亡霊と、おくみと同じ姿をした法界坊の亡霊があらわれる。
歌舞伎座百三十年 吉例顔見世大歌舞伎
監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。
イラスト/カマタミワ
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欲におぼれる悪党ながら茶目っ気とユーモアがあり、なぜか憎めない法界坊。猿之助がはまり役の「隅田川続俤 法界坊(すみだがわごにちのおもかげ ほうかいぼう)」は人気レストランの贅沢ランチととも楽しんで。
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