第38回 恋する歌舞伎は、今回は御園座 新劇場開場記念吉例顔見世公演で上演予定の「義経千本桜 鳥居前」に注目します! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。
恋する歌舞伎 第38回「義経千本桜 鳥居前」
【1】カリスマ性が裏目に出た!?ヒーローの悲しい運命
ここは京都・伏見稲荷(ふしみいなり)の鳥居前。源頼朝の弟である義経は、壇ノ浦の合戦で平氏を滅亡へと追い込んだご褒美として、皇室の重宝である<初音の鼓>を賜った
この鼓には意味が隠されていて、「鼓は打つもの」つまり「頼朝を打て」という後白河院からのメッセージが込められていたのだ。
義経はまったくその気がなかったのだが、不運なことに周囲から「義経は謀反を企んでいる」と思われてしまう。
やがて頼朝が討手を差し向けるのだが、義経は自分の家臣たちに「彼らに決して手向かいしないように」と言い聞かせる。
【2】危険にさらしたくないから離れたい・・・恋人同士は引き裂かれる
そんな義経のもとへやってきたのは、恋人の静御前。これから西国へ向かう義経一行に、自分も同道させてほしいと頼む。が、その願いは聞き入れられない。
さらに遅れて姿を見せたのは、義経の家臣・武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)。義経は弁慶を見るなり、軍扇で思い切り打ち据える! なぜなら弁慶は、頼朝の討手の挑発に乗って、彼らをコテンパンにやっつけてしまったのだ。
こうなってしまっては、頼朝の嫌疑はいよいよ深くなってしまう。この軽率な行動を非難する義経だが、弁慶は泣いて謝罪し、また静御前の取りなしもあり、最終的には許される。
そこで自分も一緒にと懇願する静御前だが、この先は険しい旅になるだろうと判断した弁慶は義経の心中も察し、都へ戻るよう静御前に言い聞かせる。嘆き悲しむ静御前に向かって義経は、後白河院から拝領した<初音の鼓>を、自分の形見にと渡す。
【3】身動きできない美女が襲われそう!救いにきたのは異様な雰囲気の家来
それでも納得のいかない様子の静御前を、鼓の緒を使い梅の木に縛り付け、出発をする義経一行。
と、そこへ、捕手を大勢連れた頼朝方の速見藤太(はやみのとうた)が現れる。彼は縛られている静御前と<初音の鼓>を見つけ、連れ去ろうとする!
かなりピンチの状況だったが、そこへ義経の家臣・佐藤四郎兵衛忠信(さとうしろうびょうえただのぶ)が助けにくる。忠信は、打ちかかる大勢の捕手や藤太をいとも簡単に倒し、踏みつけてしまうのだった。
そこへ義経が立ち戻り、忠信の忠義と静御前を救った働きに感心し、自らの名である「源九郎」という姓名と共に、<初音の鼓>を与え、静御前の守護を命じ、西国を目指していよいよ旅立っていく。
【4】頼もしい家臣の正体は狐の化けた姿!これには理由があって・・・
形見の<初音の鼓>を携えた静御前は、義経との別れを惜しみ、悲嘆にくれている。その静御前を伴って、忠信は都へ向かおうとするのだが、どことなく怪しい雰囲気を醸し出している。
実はこの忠信は、<初音の鼓>の皮にされた狐の夫婦の子。つまり子狐が人間・忠信に化けていたのだ! 変わり果てた親である鼓を慕い、忠信の姿となった狐は、静御前を守護して、都へと向かうのだった。
『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)鳥居前(とりいまえ)』とは
「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)鳥居前(とりいまえ)」とは
二世竹田出雲、並木千柳、三好松洛の合作。延享4年(1747)11月大阪竹本座初演。翌年寛延元年(1748)歌舞伎初演。「義経千本桜」は、「仮名手本忠臣蔵」「菅原伝授手習鑑」とともに三代名作の一つに数えられる。本作は全五段のうち、二段目の口にあたる。
監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。
イラスト/カマタミワ
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