第36回 恋する歌舞伎は、「日本振袖始(にほんふりそではじめ)」に注目します! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。
恋する歌舞伎:第36回「日本振袖始(にほんふりそではじめ)」
【1】毎年美しい女が生贄に・・・歴史を変えるべく、ある作戦が動き出す
太古の昔、ここは有史以前の出雲の国。この土地では「生贄を差し出さねば八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の祟りがある」という言い伝えがあり、毎年若く美しい女性が犠牲になっている。今年は地元の有力者の娘・稲田姫(いなだひめ)がその美貌ゆえに、生贄に選ばれてしまったのだ。
彼女には素戔嗚尊(スサノオノミコト)という恋人がおり、彼はヤマタノオロチと過去にある因縁がある。そこでスサノオはオロチを退治するべく計画を立てる。まずは、毒酒を入れた八つの大きな瓶を村人たちに用意させた。そして稲田姫に剣を授け「オロチは酒を好むので、その隙をついて弱点である顎をこの剣で刺すように」と伝えたのだ。
【2】嵐の前の静けさ。恐ろしい大蛇は美しい女の姿で舞い踊る
とうとう生贄を捧げる日。稲田姫は自らの命を守るため、またこれまで苦しめられてきた村を救うため、スサノオの言葉を信じ一人オロチが現れるのを待っている。
やがて夜が更け雷鳴が鳴り響くなか、妖しい雰囲気をまとう女性・岩長姫がやって来る。この女の正体こそ、変身する前の悪蛇・ヤマタノオロチなのだ! 彼女は早速、生贄である稲田姫に襲いかかろうとするが、置かれている八つの瓶に気がつく。覗いてみると酒の芳しい香りがするので、酒に目がない岩長姫は凄まじい勢いで瓶の酒を次々と呑み干していく。すべての瓶を空にすると満足した様子で、月明かりの下、踊り始めるのだった。
【3】蛇の本性を現し、恐ろしい姿に。祈りは届かず姫は腹の中へ・・・
舞に興じる岩長姫は、次第にその本性をみせ始め、八つの頭をもつ大蛇の姿へと変わっていく。稲田姫は目の前の恐ろしい様相におののき、八百万の神の守護を願い一心に祈り続ける。しかしとうとう岩長姫に見つかってしまう! 躊躇することなく襲い掛かり、さすが蛇というべきか、稲田姫を一口に飲み込んでしまうのだった。
【4】愛のパワープレイで悪蛇を退散!村に平穏が訪れる
そこへ駆けつけたのは稲田姫の恋人・スサノオノミコト。彼は昔、自分が仕えていた帝の宝である十握の宝剣(とつかのほうけん)をオロチに奪われた過去があったのだ。スサノオはその宝剣を取り戻し、今こそ汚名をそそぐべく、大蛇の姿となった岩長姫に勇敢に立ち向かう。
激しく争う両者だが、スサノオが優勢となり、さらには丸のみにされた稲田姫が、スサノオから授かった剣でオロチの腹を裂いて脱出に成功する! 姫は求めていた十握の宝剣も見つけ出し、二振の剣で力を手に入れたスサノオは、とうとうヤマタノオロチを退治するのだった。
「日本振袖始(にほんふりそではじめ)」とは
近松門左衛門作。享保三(1718)二月大阪竹本座初演。近松は日本書紀や古事記などにある八岐大蛇退治を、別の伝説に登場する岩長姫と結びつけ全五段の浄瑠璃にした。一段目では岩長姫が、帝と妹・木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)の仲を妬んで宝剣を奪い取り、自ら悪蛇と名乗る場面が描かれる。その昔稲田姫が熱病にかかった際、スサノオが脇開けをして熱を放出させ、病を治したという。そのエピソードが「日本振袖始」というタイトルに結びついている。
監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。
イラスト/カマタミワ
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