第33回 恋する歌舞伎は、『雷神不動北山櫻鳴神』に注目します! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。
恋する歌舞伎:第33回『雷神不動北山櫻鳴神』
【1】僧侶の逆鱗に触れ、干ばつに見舞われる日々。世界を救うために派遣されたのはデキる美女
時は平安時代。なかなか世継ぎに恵まれないでいた天皇は、絶大な法力を持つ鳴神上人(なるかみしょうにん)に祈祷を依頼する。鳴神上人は、戒壇(僧侶に戒律を授ける神聖な壇)建立を条件にこの要請を受け、見事に皇太子を誕生させる。しかし朝廷は鳴神上人との約束を破ったため、これを深く恨んだ上人は世界の竜神を滝壺へ封じ込めてしまう! 水をつかさどる神である竜神を失ったために、都の人たちはたちまち干ばつに苦しめられることになる。
そこで朝廷は、絶世の美女と名高い雲の絶間姫(くものたえまひめ)に「なんとかして雨を降らせるように」というミッションを与え、鳴神上人の元へ送り込む。危険な任務ではあったが、成功すれば、かねてから想いを寄せる文屋豊秀(ぶんやのとよひで)と結婚させるという条件があったため、絶間姫は引き受けることを決心したのだった。
【2】厳しい修行に励む中、艶やかな美女が現れた!そのとき男は・・・
今日も北山の岩屋では、竜神を封じ込めた滝壺のほとりで鳴神上人が修行に励んでいる。するとそこへ、弔いの鉦を打ち鳴らしながら、美しい女がやってくるではないか。こんな山奥へ何故やってきたのかたずねると、「亡き夫の四十九日に際し、形見の薄衣をすすぎたい。しかし都は水が干上がっているため、どんな日照りにも涸れないというこの滝にやってきた」というのだ。鳴神上人は、絶間姫と夫との昔話を語るように求める。絶間はこれに応じ、亡き夫との出会いから夫婦になるまで、色っぽい仕草を交えながら語り始める。
【3】美女の色香に堕ちていくカタブツ僧侶。2人の駆け引きの行方は
絶間姫の艶っぽい話に惹かれた上人は、身を乗り出したはずみに岩屋から転げ落ち、気を失ってしまう。そこで姫は滝の水を口移しで飲ませるなどして上人を次第に誘惑していく。
昔、一角仙人が美女の色香に迷い通力を失ったという話を思い出した上人は、絶間姫も同じように自分を堕落させるためにやってきたのだろうと警戒する。これに対し姫は、「夫の菩提を弔うために出家して、鳴神上人の弟子になりたい」と言い出すので、その疑いを晴らすのだった。弟子たちに、剃髪のために必要な道具を麓まで取りに行かせ、2人きりになった上人と姫。すると、突然お腹が痛いと姫が苦しむので、上人は介抱しようとその懐へ手を入れる・・・。
【4】ついに掟を破ってしまった僧侶。しかし酔いから覚め、すべては計略だと知らされる
絶間姫はしめたとばかりにその手をたぐり寄せ、自分の胸に触れさせ、これまで女性の体に触ったことのない上人をその気にさせる。上人はとうとう戒律を破ることを決意し、姫に妻になれと荒々しく迫る。絶間姫は恐れおののくも、すぐに夫婦の盃事を始めようという。
まったく酒が飲めない上人も、姫のすすめで勢いよく盃を重ね、気分がよくなり、とうとう雨を降らせる方法を姫に漏らしてしまう。それは「滝に渡した注連縄(しめなわ)を切ったなら、雨が降り出す」というものだった。それを聞いた絶間姫は、酔って寝入ってしまった上人に気づかれないよう注連縄を切り、一目散で山を下っていくのだった。やがて目を覚ました上人は、弟子たちの話を聞き、自分が朝廷の計略にはめられたことを知る! 上人は怒り狂い、止めようとする弟子たちを投げ飛ばし、絶間姫のあとを追ってゆくのだった。
『鳴神(なるかみ)』とは
寛保二年(1742)年大阪佐渡島長五郎座初演。安田蛙文・中田万助による合作。七世市川團十郎が選定した歌舞伎十八番の一つ。初演は『雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)』の一場面だったが、大阪で好評を博し、『鳴神』のみの上演で半年にも及ぶロングランを記録する。江戸時代の終わりに八世團十郎が演じて以来、一時上演が途絶えていたが、明治43年に市川左団次が復活させ、人気作品となり現在も上演を重ねている。
監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。
イラスト/カマタミワ
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