歌舞伎「京人形」を現代風に解説。自作フィギュア人形にハマる旦那の正体は!?

更新日:2017/12/26

第30回 恋する歌舞伎は、「京人形(きょうにんぎょう)」に注目します! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

恋する歌舞伎:第30回「京人形(きょうにんぎょう)」

【1】愛しい女性そっくりの自作人形と楽しい飲み会。奥さんまでノリノリ

彫物師の左甚五郎(ひだりじんごろう)は、女房がいる身でありながら、廓の遊女・小車太夫(おぐるまだゆう)のことが忘れられない。そこで彼女への思いを断ち切ろうと、魂を込めて太夫にそっくりの人形を彫り上げた。あまりにもよい出来に、甚五郎はその人形を太夫に見立て、彼女を身請けした気分でいる。

今日も人形を肴に酒を呑むことを楽しみに、土産を持って帰宅する甚五郎。妻のおとくは物分かりの良い出来た女房で、そんな夫を温かく見守り、甚五郎の要望で仲居になりきり酒宴の真似事に付き合うのだった。

【2】自分が魂を込めて作ったから!? 人形がひとりでに動き出す

おとくが奥へ引っ込むと、甚五郎は美しい人形をまじまじと眺めながら気分良く酒を呑み始める。すると不思議なことに、目を離した隙に人形が元いた箱から飛び出しているではないか。はじめはおとくのイタズラかと思っていた甚五郎だが、確かに人形が動いていることを確かめる。

「そうか、自分があまりにも心を込めて彫ったたために、人形に魂が宿ったのだ!」そう理解し、人形と一緒に踊り出す。しかし男の甚五郎が思いを込めて作った人形だからか、動きがゴツゴツしていてぎこちない。そこで、かつて廓で拾った小車太夫の“鏡”を取り出し、人形の懐に入れてみるとどうだろう。「鏡は女の魂」といわれるように、女性にとって重要なアイテム。その働きで心が宿ったのか、人形はしなやかに舞い始める。甚五郎も嬉しくなり、ますます機嫌よく踊るのだった。

【3】和やかにみえたこの家。実は重要人物がかくまわれていて・・・

息を合わせ楽しく舞い踊った甚五郎は、人形の懐から鏡を取り出し、元の箱に収める。と、そこへ妻のおとくが慌てた様子でやってくる。実は、この家では甚五郎が仕えるお殿様の妹・井筒姫を娘と偽り、敵からかくまっていたのだ。その姫に追手が迫っている知らせを聞いた甚五郎も慌てるが、やってきた敵方を隣家で待たせるよう取り計らい、その隙に姫を逃がすことにする。

【4】商売道具を失っても、守るべきものは守る

その計画を壊しそうになったのは、姫に仕えていた奴(やっこ)・照平(てるへい)。照平は甚五郎が味方だとは知らず、姫をかくまっていたのを見て誘拐したと勘違い。甚五郎の家に乗り込み、右腕を斬りつけてしまう!

そこへ井筒姫が現れ、事情を話したが時すでに遅し。甚五郎は仕事道具というべき右腕を負傷してしまう。しかし甚五郎は迷わず、非を詫びる照平に井筒姫を託し、一刻も早くこの場から逃れるよう促す。そして自分は残された左手だけで、敵の命を受けた大勢の大工たちと戦うのだった。

「銘作左小刀 京人形(めいさくひだりこがたな きょうにんぎょう)」とは

三世桜田治助作。弘化四(1847)年四月河原崎座初演。江戸時代初期に活躍した彫工師・左甚五郎の伝説をモチーフにした作品。日光東照宮の「眠り猫」などは、甚五郎の作とされているが、その正体は謎に包まれている。左手のみを使った、大工道具を用いて戦う甚五郎の立廻りは見もの。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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※記事は2017年12月26日(火)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります