避暑地として知られる岡山県・蒜山高原。その東に位置する真庭市・中和(ちゅうか)地区の山間の里で、「蒜山 鰻専門店 翏(りょう)」を営む村田翏さんと朋子さんを訪ねました。
山の懐に抱かれて、自分たちらしい暮らしを
「よく、料理のためにいい水を求めて移住したんですか?と聞かれるんですが、全然違うんです。縁があったこの中和村が、水に恵まれていただけで」と移住のきっかけを語る「蒜山 鰻専門店 翏」の村田翏さんと朋子さん。
東京・中目黒で「日本酒とうなぎ 翏」を営んでいた2人は、2020年春、岡山県・蒜山の中和村に移住し、昼は完全予約制の鰻店、それ以外に鰻蒲焼の通販もスタート。約5年が経ちます。
もともと、鳥取・湯梨浜町にある日本酒蔵「福羅酒造」へ定期的に足を運んでいた翏さんと朋子さんは、蒜山で自然栽培を営む「蒜山耕藝」にも惹かれ、いつしか湯梨浜と蒜山をセットで訪れるようになります。
蒜山耕藝の高谷さん夫妻と話すうちに、そう言えば以前から移住したかったことに気付いた朋子さん。2人とも生粋の東京生まれ東京育ち。
しかし朋子さんは、「自然豊かな地方に転勤したとき、稲や野菜が間近で育つ様を目にして、とてもわくわくして」、翏さんは「大学時代、キャンプの指導員として、ニューヨークの山奥で3カ月滞在したときに満喫した自由で気持ちいい空気の記憶が中和とつながって」。次第に中和に住むイメージを膨らませていきました。
そんなとき、奇跡的に見つかった空き家はなんと水温28℃の温泉が出る水道付き。鰻を泳がせてみると元気がよく、菌の生態系も豊かなのか、鰻のタレやぬか漬けの味もアップしたそう。
昨年からは、お店の目の前の田んぼを借りて、米作りも開始。「自分たちで作ることがおもしろくて仕方ない」と2人は声を揃えます。ただし、「田舎暮らしはのんびりできると考えていましたが、実際は正反対。少し放っておくと竹林はどんどん敷地に迫ってくるし、鹿には荒らされるし、やらなければいけないことだらけ」
それでも、常にどこからかせせらぎの音が聴こえてくるほど水に恵まれ、昔から住む方たちの新しいことを受け入れる風通しのよさにも魅了されています。
また、「中和らしさ」を表現することで、地域のよさを移住者目線で発信するプロジェクト「山懐(やまふところ)」の立ち上げにも尽力し、オーガニックマーケットなども開催。2人の飲食店の枠を超えた活動は、今後もいっそう広がるに違いありません。
蒜山 鰻専門店 翏
電話/なし
住所/岡山県真庭市蒜山下和1705-6
営業時間/12:00一斉スタート(完全予約制)
定休日/不定休
店舗営業日や鰻蒲焼通販出荷日は、ホームページで確認
「蒜山 鰻専門店 翏」
オーナーシェフ 村田翏さん
老舗鰻店にて13年の修業後、東京でミシュラン1つ星を獲得した鰻店を営み、移住
共同経営者 村田朋子さん
医師の仕事の傍ら店の経営にも携わると同時に、地域活性のイベントも立ち上げる
\村田翏さん・朋子さんの真庭市お気に入りスポット"/
自然と調和した
唯一無二のどぶろく
「自分たちが食べたいものをつくる」をモットーに自然栽培を営む「蒜山耕藝」の高谷裕治さんは、昨年から自家栽培米によるどぶろく造りを開始した。
蒜山を丸ごと醸す
クラフトビール
井戸水、野生酵母、自然栽培の原料を使い、クラフトビールを造る杉保志さん。野生酵母を使用しているため、ロットごとに個性豊かな味わいが楽しめる。
MANIWA CITY DATA
人口:40942人(2024年10月1日時点)
面積:約828㎢
東京からのアクセス:羽田空港から岡山空港まで約70分。岡山空港から車で約60分
PHOTO/KAZUHITO MIURA TEXT/NAOKO ASAI
※メトロミニッツ2025年2月号「この街と5年」を転載