移住した地で活躍する人にフォーカスする当連載。大阪から東京、ヨーロッパを経て、相模湖近くのかつての宿場町で国産初の”アマーロ”を造る「伊勢屋酒造」の元永達也さんを訪ねました。
地元になじみながら、世界に届く薬草酒“ アマーロ” を造る
緑深い山々と相模湖を有する相模原市北西部。伊勢屋酒造がある緑区小原は、江戸時代には日本橋と甲府、下諏訪をつなぐ甲州街道の宿場町「小原宿」として重要な役目を担っていた地でもあります。
イタリア語で「苦い」の意味を持つハーブリキュール、アマーロ造りには、築100年の古民家を活用。大阪府出身の元永達也さんがこの地にやって来たのは、東京でのバーテンダーを経てヨーロッパの旅へ出ていた中、コロナ禍で急遽帰国し、勤め先だったバーオーナーの父親の実家に借り住まいさせてもらったことがきっかけでした。
「山も湖も畑もあって、ヨーロッパの薬草酒の醸造所みたいな立地。空き家にしておくなんてもったいないと言ったら、『ほな、お前やってみぃ』ということになって(笑)」と、自ら醸造所を営むことになったのです。
アマーロ造りに肝心のボタニカル(草根木皮)は、耕作放棄地を活用して自身で育てたものが中心。1800年代のレシピをもとに、生のボタニカルで仕込みます。2021年には国産初のアマーロ “スカーレット”が流通開始し、高い評価を受けました。
今や、一部海外への輸出も始動し、元永さんの躍進は止まりません。今年はニューヨークで開催された世界最大規模のお酒の催事に出展しました。
「アメリカには幅広い移住者がいて、日本ではまだマイナーなアマーロというお酒も受け入れられやすい環境があります。会場で『うまい!』と評判になると、すぐに『買いたい!』という反応があり、新たにチャレンジする可能性を感じました」
海外ばかりでなく、元永さんは地元のコミュニケーションも大事にしています。「ご近所づきあい然り、地元活性化の会議や地域おこし協力隊の活動にも参加しています。大きく見ると、暮らしている街の人づきあいがアマーロの質や魅力にもかかわってくるのです」
アマーロ造りのための収穫や果実の皮むきには、年間200人以上のボランティアがやって来ます。移住から約5年。酒造りを通して、伊勢屋酒造はローカルと都会をつなぐ場所となり、極小規模ながらも世界に向けて“ほんまもん”のアマーロを発信する場所になっています。
伊勢屋酒造代表
元永達也さん
1986年、大阪生まれ。モルトバーの渋谷「Bar CAOL ILA(カリラ)」で約10年働いた後、ヨーロッパを中心に約70カ所の蒸留所・醸造所を巡り、酒販店でも経験を積む。19年、コロナ禍で急遽帰国し、「Bar CAOL ILA 」の恩師の実家の古民家に借り住まいする。20年、耕作放棄地を活用してハーブを育てながら、アマーロ造りを始動。21年、国産初のアマーロ “スカーレット”を流通開始。22年、母と妹を大阪から呼び寄せ、一緒にアマーロを生産する
\元永さんの相模原市お気に入りスポット/
ソースも手作りの
欧風家庭料理
1983年、相模湖畔での創業時から、手作りをモットーに手をかけた欧風料理を提供。橋本久美子さんと、料理を担当する千佳さんの母娘で切り盛りします。ソースやピザ生地もハンドメイド。皮目をパリッと焼き上げた鶏のソテーの粒マスタードソース1430円は、3日がかりで取るフォンドボーの豊かな旨味が広がります。2020年に相模湖駅前に移転しリニューアルオープンした今も、「食べた時の小さな感動」を変わらずに大切にしています。
Cafe de Vivier
電話/042-684-2006
住所/神奈川県相模原市緑区与瀬本町11
営業時間/11:00~15:00(14:00LO)、17:00〜21:00(LO20:00) 金・土は~22:00(21:00LO)、土・日・祝は通し営業
定休日/火、第1・3水
BBQ& 釣りで
相模湖を満喫!
相模湖畔に建つ全9棟のレンタルコテージ(キャンプ)。日帰り利用が可能で、雨天にありがたい屋根付きスペースでのBBQやレンタルボートでの釣りが愉しめます。釣りは夏ならブラックバス、冬はドーム船でのワカサギ釣りを。ファミリーやサークル仲間、企業の懇親の場にうってつけです。オーナーの山﨑勇貴さんいわく、「大切な休日を過ごすにふさわしい特別な時間を過ごしていただけたら」。喧騒を逃れたひと時を満喫できます。
SAGAMIHARA CITY DATA
人口:723586人(2024年10月1日時点)
面積:328.9㎢
東京からのアクセス:小田急小田原線約35分(相模大野駅⇔新宿駅、快速急行)、JR中央線約55分(相模湖駅⇔新宿駅、中央特快)
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/YUMIKO NUMA
※メトロミニッツ2024年12月号「この街と5年」を転載