静かな住宅街で、瑞々しい美味を発信
400年以上前から続く植木の里・安行をはじめ、植木の街として知られる川口市。東京に隣接し、緑豊かなベッドタウンとして進化を遂げています。東川口駅から歩くこと10分。2021年、シェフの本岡 将さん(写真左)とドリンク担当の田代圭佑さん(写真右)が開いたフレンチ「レストラン KAM」をめざしてたどり着いたのは、住宅街の日本家屋の一軒家です。2人は3歳からの幼馴染。本岡さんの結婚を機に、妻が育った家屋を店舗とするべく移住し、田代さんと「一緒に仕事をする」という幼い頃からの夢をかなえました。
緑が茂る庭を抜けて、靴を脱いで店内へ。着席して気付くのは、庭の緑は2人が手塩にかけて育てる無農薬の野菜や果実やハーブであること。ときに、エプロン姿の本岡さんが庭に走り、ハーブや野菜をもいで再び急ぎ足で厨房へ。そう、摘みたての青い香りも料理に表現してテーブルに運ぶのです。
畑とつながったレストランで腕を磨いてきた本岡さんにとっては、自然な方法で育てた新鮮な野菜を料理に昇華するのはごくあたり前なこと。同様に庭の収穫物を活用したドリンクやワインとペアリングしながら、コース料理を味わえます。例えばある日の組み合わせは、ヒッコリーの燻香をまとったスペシャリテ「秩父産ミルクを使ったリコッタチーズの前菜」に、庭の柑橘にジュニパーベリーや胡椒を使ったノンアルドリンクを。イチジクの葉もソースやタルト生地に使うデザート「塩路さんのイチジクの瞬間タルト」には、わずかに発酵させたぶどうの酸味のあるジュースを。果皮やハーブや野菜の花や皮も、活用します。
移住してよかったことを尋ねると、「公園やスーパーなど、自分の身の丈にあった生活に必要なものすべてがあります」(本岡さん)、「結婚したことかな(笑)。治安がよくて誘惑がない分、家族との時間をゆっくり過ごせます」(田代さん)との回答。さらにこの先、店の離れをパン屋兼ワインバルにすることを計画中。「まだお店が少ないこの街に根付き、惣菜を買って帰るにもワイン1杯だけ飲むにも重宝し、“おいしい”に触れる場を増やしたい」という思いを抱きます。それが形になる日もきっと遠くありません。
レストラン KAM
電話/080-4623-0829
住所/埼玉県川口市戸塚3-1-13
営業時間/12:00~、18:00~(いずれも一斉スタート。2日前までに要予約)
定休日/月・火定休
「レストランKAM」オーナーシェフ 本岡 将さん(写真左)
1993年生まれ。南仏、バスク地方をまわり、研鑽を積む。2017年、23歳の若さで静岡に畑とつながったレストラン「レストラン ビオス」の料理長に就任。2018年、若き才能を発掘する日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35」にて最年少で準グランプリを獲得。19年に川口市へ移住
「レストランKAM」ドリンク担当 田代圭佑さん(写真右)
1993年生まれ。大学卒業後、あえて飲食の現場と異なる大手旅行会社や「ぐるなび」などで社会経験を積む。2018年より、レストラン開店へ向けてドリンクやサービスを学ぶべく、庭の自生の野草をドリンクにしたり、地域ごとの肉や魚を薪火で調理するレストラン、東京・調布「Maruta」で働く。20年に川口市へ移住
\本岡さんの川口市お気に入りスポット/
本格イタリアンの
味をカジュアルに!
40年続いた喫茶店の閉店に伴い、店主の意志を継いで、「KAM」の本岡さんが引き継ぐことに。内装はそのままに、東京・目黒「Restaurant L'asse 」の元料理長、渡邊理奈さんが料理を担うイタリア料理店として生まれ変わりました。昼も夜もパスタやカレーなど一品料理がカジュアルに愉しめ、コース6600円~(要予約)を堪能することも可能。ラビオリ(2個)935円は、4種類のチーズを包んだスペシャリテ。
川口には憩える
公園がいっぱい
緑豊かな川口市に点在する公園のひとつ。美しくのびやかな芝生広場や背の高い樹々が連なる雑木林、親水施設などがあります。休日ひと息つくのにぴったり。
戸塚中台公園
住所/埼玉県川口市戸塚3-16-16
KAWAGUCHI CITY DATA
人口:606315人
面積:61.95㎢
東京からのアクセス:荒川を越えればすぐ都内という立地で、足立区、北区と隣り合う。市の中心地である川口駅へは東京駅よりJR京浜東北線で25分
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/YUMIKO NUMA
※メトロミニッツ2024年11月号「この街と5年」を転載