うまいもの探偵団が、毎回東京の気になる街の気になる料理店へ突撃。一番売れているメニューを料理人にお聞きして、おいしいだけじゃない、愛されている理由を探ります。学生の街・早稲田で1周年を迎えたばかりの『ごはん屋たまり』。食べること、語らうことの喜びに満ちた、大人が憩うことのできるお店です。
【今月のお店】ごはん屋たまり(早稲田)
一番売れているメニュー:すっぽん鍋
探偵団: 冬の一番人気という、すっぽん鍋。腹側のモチモチした肉質、甲羅側のプルプルしたゼラチン質・・・、いろいろな部位があって楽しいですね。臭みが一切ないのも驚きました。
市川料理長: ストレスの少ない環境で育てた、品質のよい国産の養殖すっぽんを選んでいますからね!
探偵団: すっぽんは高級料亭や専門店でいただくもの、というイメージがありましたが、なぜ冬のコースのメインに選んだのでしょう。
市川料理長: やっぱりおいしいし、あったまるでしょ? それに珍しいものに出会った驚きとか、初めての食材を食べる喜びとか、そういうのも同時に楽しんでほしいんです。
探偵団: お出汁を吸った野菜がまたすばらしくおいしい。特に肉厚の椎茸とクタっと煮えたニラ。甘みがあって、それぞれの野菜の味が濃くて・・・。
市川料理長: 椎茸もニラも、僕らが信頼を寄せる福島県天栄村(てんえいむら)の生産者たちが作っています。天栄村は『ごはん屋たまり』誕生の原点。詳しくは社長の紅野謙介(こうのけんすけ)が説明しますね。
探偵団: 天栄村が原点なんですか?
紅野社長: もっと言うと天栄村の「お米」がきっかけです。東日本大震災の翌年、女将の金井景子(かないけいこ)が評判を聞きつけて、天栄村の吉成農園という生産者が作るお米を購入したのですが、これがびっくりするほどおいしい。聞けば米・食味分析鑑定コンクールの国際大会で金賞受賞の常連だそうです。以来、すっかり夢中になって、女将も僕も天栄村へ農業ボランティアに通うようになりました。
探偵団: 紅野さんはもともと日本近代文学の研究者でいらっしゃいますよね。女将の金井さんも同じく研究者で、現役の早稲田大学の教授。
紅野社長: 食いしん坊2人が10年近く通ううちに、天栄村を中心に東北の生産者とのつながりが増えていきました。教え子が宮城県南三陸町へ復興ボランティアに行ったご縁で漁師と知り合うことも。うちの真蛸はその南三陸から、牡蠣は岩手県の陸前高田市から仕入れています。縁が縁を呼び、市川料理長や若女将も仲間になりました。
探偵団: それでお店を開くことに?
紅野社長: 各地の生産者とのネットワークが広がるにつれて、すばらしい食材の数々を実際に食べてもらう場所を作りたい、と思うようになったんです。善意と好意だけでなくビジネスとして対等な関係性を築き、生産者を支えていけないか、と。コロナ禍で誰かと飲んだり食べたりする場所が世の中から急速に失われていくのも寂しいと感じていましたし、ちょうど勤めていた大学の定年を迎える頃で、退職金をはたいて挑戦しました。
探偵団: なんと思い切った決断!
紅野社長: 店名は、天栄村で知り合った農家の女性が、朝昼晩と田んぼの様子を見てまわることを「田廻(たまわ)り」と呼んでいたことと、人が集う「たまり場」とをかけています。おいしいものを食べて楽しくおしゃべりして。口の中が幸福になることが一番の復興支援になるんじゃないか、と思うんですよ。
ごはん屋たまり
2022年12月オープン。紅野社長、市川料理長、若女将のセルラ伊藤さん、そして女将の金井景子さんの4 人で運営する、炭火焼料理を軸とした創作和食のお店。福島、宮城、岩手をはじめとして熊本や静岡、千葉など、4人がつながりを築いてきた各地の生産者の食材を活かした料理を提供。ランチは1100円~、ディナーは5800円~(20時以降来店限定のショートコース3000円~あり)。コース料理は季節ごとに内容が変わり、秋冬にはジビエが登場することも。カウンター10席、テーブル席10席。
TEL.03-3200-0633
住所/東京都新宿区早稲田鶴巻町519 早稲田KMビル1F
営業時間/11:30~14:00(13:30LO) 17:30~22:00(21:30LO)
定休日/日・月
※火曜はランチ営業休み。ランチの予約はInstagramまたはFacebookのDM(ダイレクトメッセージ)またはメッセンジャーより連絡を
※夜はコースのみ、WEBから予約受付
ごはん屋たまりInstagram
ごはん屋たまりFacebook
【今月の探偵】編集部員:ふくだ
メトロミニッツの「大地と海の恵み」担当。具なしの塩むすびで冷酒を飲むのが好きな昼酒愛好家
PHOTO/KENSUKE HOSOYA
※メトロミニッツ2024年2月号「うまいもの探偵団」に加筆して転載