人気鮮魚店『角上魚類』の小平店で手に入れた(東京では)聞き慣れない4種の魚で、今夜の魚のサカナを考えます! 強力な助っ人は、ごはん同盟のおふたり。即興レシピはしらいのりこさん、合わせるお酒はシライジュンイチさんが提案します。フードライターの白央篤司さんと一緒に、今夜は魚のサカナでパーっといきましょう!
なじみのない魚も大丈夫。基本の調理法でごちそうに!
お寿司屋さん仕込みの
簡単保存テクニックも炸裂
「きれいな色だねえ」
「そうだねえ…」
イシガキダイのサクを前にして、ごはん同盟のおふたりがため息まじりの声を上げた。黒い水玉模様の皮の下に、こんなきれいな紅色が隠れていたとは。白身との対比も美しい。
「うん、タイよりも歯ごたえがしっかり!」とは味見をしたのりこさん。食感を活かそうと大ぶりに切り始めた。使わないサクには軽く塩をふるんだな。
「においも取れるし、ほんのり下味もついて長持ちもするんです。この状態でクッキングペーパーで巻き、さらにラップで巻いて保存するといいですよ」
お寿司屋さんで学んだテクらしい。
「あ、刺身もいいけど軽くマリネして水菜とかと和えたらおいしそうじゃない…?」
思いつくなり水菜を刻み始める。
「昆布じめにしてもいいかも」「いや、今日はいいかな。器はどうする?」とご夫婦でつまみ談義がどんどん広がる。聞いてるだけで食欲、刺激されるなあ。
なじみのない魚だって
ひらめいたら実践、の精神で
あっという間にイシガキダイがすだちで軽くマリネされて1品出来あがった。味見をしたジュンイチさん、「おろしたばかりなのに、ちょっと寝かせたような味わいですね。うま味が強いので酒はあっさりいきましょう」と言って、ふるさとである新潟の酒『麒麟山 伝統辛口』を奥の部屋から取り出してきた。
のりこさんはウシガンコの唐揚げに取りかかる。これは自分でさばいてみようと丸のまま買ってきたのだった。帰宅途中の車でも、動画サイトで検索して“さばき予習”を熱心にされていた姿、忘れられない。包丁を入れつつ「骨が強い!」と声がもれる。身質がしっかり、さばきにくいという意味のよう。だからガンコの名がついたのか。
魚の臭みをとってうま味UP
気軽にできる和食の技も!
おや、オーブントースターからいい香りが。「オオモンハタの皮つきのアラ、あぶっておくと臭みも取れて香ばしさも出るから。『焼き霜』という和食の技法です」。鍋の仕込みの一端だったか。そういえば、帰宅するなり土鍋に出汁昆布を入れて水を張っていたっけ。「時間のかかる作業は最初に」が徹底されているな、やっぱり。
「そんな大したもんじゃありませんよ」と笑いながら里芋をむき出した。
「マトウダイのムニエルに添えたらいいだろうなと思って」。ああ・・・魚のうま味を吸った里芋、確かにうまそうすぎ。ジュンイチさんは卓でお燗の準備をし始めた。
「先の『麒麟山』を温度差で楽しもうかなと。刺身は冷酒で、ムニエルはお燗で、唐揚げはソーダ割り。お鍋はどれでもお好みで」
何それ最高じゃんとか仕事と立場を忘れて叫びそうになった。部屋の中には魚が焼かれ、煮られ、揚げられた、ものすごくいい香りが満ちている。のりこさんは生わさびまでおろし始めた。ああ、もうたまらない。そろそろ飲み始めましょう!
今夜もパーッと行きましょう!
魚のサカナでカンパーイ
「かんぱーい」の声が響く。オオモンハタ鍋の汁をひとすすりしたのりこさん、顔が苦悶ならぬ“喜悶”の表情になっていた。
「最高すぎる~・・・さっぱりしてるんだけど、うま味が深くてコクがあって。オオモンハタ、怖い子!」
おふたりが「鍋といえば欠かせない」というかんずりがまたいい薬味だった。唐辛子を発酵させて作られる新潟特産のもので、まろやかな辛みが特徴。魚の出汁を存分に吸った白菜にちょんとのせて巻いて食べると、これがたまらない。
「ウシガンコの唐揚げもうまいね、ソーダ割り、おかわりしようかな」
「ムニエルは醤油バターが大正解! お燗との相性もすごくいい…」
食の喜びを全身で絶妙に表しつつ晩酌されるふたり。そばにいるだけで幸せな気持ちに包まれてくる。
おいしい魚料理を楽しむ
最初の一歩を踏み出して!
「おいしい魚のおかげですよ。魚ってね、とても料理しやすいんです。意外でしょうが、火入れしすぎても硬くならないし、生臭いイメージがあるかもだけど簡単な処理で大体取れます。ハードルが高いのは分かるんですが、最初の一歩をどうか踏み出してほしいですね」と、のりこさん。
「あっ、イシガキダイの刺身をおろししょうがと米油で和えたら絶対おいしいと思う」と言うなり台所へ駆け出した。ひらめいたらすぐ実践がのりこさんのライフルール。しかし卓の上にはまだまだ肴がいっぱい。いつも何時ぐらいまで晩酌されるんですかと訊(き)いたら「どっちかが寝ちゃうまで」と、ジュンイチさんが笑って言った。
ほかの魚でも代用可能!簡単&絶品【魚レシピ4品】
【魚レシピ1品目】イシガキダイのお刺身マリネ
〈のりこさんお調理メモ〉
プリッとして心地よい歯ごたえをもつイシガキダイ。白身の魚ですが、『角上魚類』のウッシーさん(編集注:牛山さんのこと)によると「噛む力が強い魚で、貝でもなんでもバリバリ食べちゃうから磯の香りが強め」だそう。お店でサクの状態にしてもらって、シンプルなお刺身はもちろん、磯魚のクセがあるぶんマリネしていただくのもオススメ。そぎ切りにすると食べやすいかも!
〈作り方〉
(1)刺身8切れに塩少々をふり、オリーブオイル大さじ1、にんにくすりおろし少々わさび少々を混ぜる
(2)4cmの長さに切った水菜と和える。今回は、みょうがの細切りも一緒に和えて、最後にすだちをひと搾り
〈アレンジのヒント〉
グリーンフレーバー系のオリーブオイルはわさびと好相性。わさびの代わりに青唐辛子や酢を加えても◎。ナンプラーでマリネしてもおいしい。オリーブオイルとにんにくの代わりに、米油大さじ1、しょうがすりおろし小さじ1で和えても美味。しょうが×米油のしょうがオイルは、お刺身マリネの鉄板の組み合わせです
【魚レシピ2品目】オオモンハタのあら汁鍋
〈のりこさんの調理メモ〉
オオモンハタは、ウッシーさんが「鍋で!」と力説したので鍋に。三枚おろしにしてもらったときに出たアラで鍋の出汁を取ります。一尾だと2 人で食べるには多いので、半分を鍋に使って残りは次の日に唐揚げにしたら、ふっくらしていて絶品でした
〈作り方〉
(1)鍋に水1.5L、昆布5cm 角を入れ、30分ほどおく。水の量は鍋の大きさに合わせる
(2)アラに塩を強めにふり、15分ほどおいたあと、水気をふき取ってグリルで10分ほど焼き色がつくまで焼く(焼き霜)
(3)オオモンハタの身は大きめのひと口大に切り、塩少々をふる。白菜1/4 株は3cmの長さにざく切りに、長ねぎ1本は2cm幅の斜め切りにする。しいたけ4 枚は石づきを外し、ひらたけはほぐす
(4)(1)に酒1カップ、(2)を入れて中火で熱する。沸騰したら火を弱め、白菜の茎の部分を入れて煮る。白菜の色が変わったら残りの具材を入れる。塩で薄く味を調える
〈アレンジのヒント〉
お好みのポン酢でどうぞ。かんずりをつけていただくとさらに美味。豆腐、えのきたけなどを入れてもOK。〆はぜひ雑炊で
【魚レシピ3品目】ウシガンコの唐揚げ
〈のりこさんの調理メモ〉
とにかくビジュアルが特徴的なウシガンコ。皮にぬめりがあるうえに厚くてさばきづらいので、お店でさばいてもらうのが吉。初めての魚の食べ方に困ったときは、唐揚げにするとたいていおいしく着地できます。ちなみに、骨も揚げてみたけれど硬すぎて食べられませんでした・・・
〈作り方〉
(1)3枚におろしたウシガンコの身を大きめのひと口大に切る
(2)ボウルに醤油大さじ1、酒大さじ1、しょうがすりおろし小さじ1 を合わせて、(1)を入れて軽く揉む
(3)片栗粉を②にたっぷりまぶし、170℃の油でカリッとするまで3~4分揚げる
〈アレンジのヒント〉
フライにしてタルタルソースでいただくのもおいしいですよ!
【魚レシピ4品目】マトウダイのムニエル
〈のりこさんの調理メモ〉
今回はムニエルにしましたが、唐揚げもおいしかった! 大きな魚は半身ごとに鍋にしたり、ムニエルにしたり、残ったら次の日に揚げもの、味噌漬け、幽庵漬けなどにすれば何段階も楽しめますよ。購入した日に薄く塩をふっておくと日持ちします
〈作り方〉
(1) 3 枚におろしたマトウダイの身をさらに3等分にそぎ切りにする。塩、こしょう少々をふり、薄力粉をまぶす
(2)フライパンにオリーブオイル大さじ1、薄切りにしたにんにくを入れて弱めの中火で熱し、にんにくがカリッとしたらいった
ん取り出して、皮目を下にして(1)を並べる。2分ほど焼いて皮目がパリッとしたらひっくり返し、さらに1分焼く
(3)バター10gを入れ、バターが溶けたら、醤油小さじ1 を加えて全体にからめてなじませる
〈アレンジのヒント〉
清蒸魚(チンジャンユー、蒸した魚に白髪ねぎとしょうがをのせ、高温に熱した油を回しかけていただく中華料理)、煮つけや昆布じめもGOOD!
PROFILE
■案内人・料理■ごはん同盟
ごはんどうめい/しらいのりこ(写真左、調理担当・料理研究家)、シライジュンイチ(企画担当・ライター)夫妻による炊飯系フードユニット。ともに新潟県出身、「ごはんの友は酒の友」が合言葉。近著の『ごきげんな晩酌 家飲みが楽しくなる日本酒のおつまみ65』(山と溪谷社)は、速攻系からひと手間系まで縦横無尽に家飲みを充実させる、楽しいレシピが満載
しらいのりこさんのInstagram
シライジュンイチさんのNOTE
COOKING/NORIKO SHIRAI PHOTO/TAKANORI SASAKI WRITING/ATSUSHI HAKUO
※メトロミニッツ2023年12月号に加筆して転載