毎回案内人をお招きし、思い入れのある場所を教えてもらうこの企画。今回は酒場雑誌『古典酒場』の創刊編集長で、全国の酒場を飲み歩く倉嶋紀和子さんが自身の原点となった西荻窪をご案内。倉嶋さんが長年通う愛しの酒場6店を巡って、はしご酒を楽しんで。
西荻窪では昼から飲み歩き。はしごするからこそ楽しい、酒場の魅力にあふれた街
これまで日本各地のさまざまな酒場を巡ってきました。改めて思うのは東京にはやっぱり、いい酒場が多いこと。中央線沿線だけを見ても、中野、高円寺、吉祥寺などの街ごとにカラーがあり、土地に根付いた酒場がいくつもある。酒場好きにはたまりません。なかでも西荻窪は20数年前から飲み歩いているなじみ深い街。南口駅前の一角には、私が大好きな闇市の風情が残っています。今では貴重な光景ですね。
私は、仕事以外は基本ひとり飲み。加えてはしご酒するのがお決まりのパターンです。まずは闇市の面影が色濃い南口駅前の横丁にある「やきとり戎(えびす)」へ。ここは昼から営業。陽が高いうちから飲むお酒は最高においしいですからね。魚類も自慢で調理法は和洋さまざま。社長がスペインで買い付けてくるワインも手頃で、自由気ままに飲んで食べられます。
2軒目以降は胃袋と肝臓と相談しつつ、4~5軒はしごすることも。「珍味亭」は台湾料理店ですが、ぜひセロリを頼んでいただきたい。お皿に生のセロリが1本どんと盛られ、余白の取り方がとても美しい。紹興酒片手にセロリをぼりぼりとかじり、豚足をしゃぶるのがお気に入り。
「ハンサム食堂」はタイ料理の店。私の好物は炭火で丁寧に焼きあげるムーヤーン(豚肩ロースの炭火焼)。2階の窓辺の席に座り、路地の風景を眺めつつ、飲むのが楽しいです。
「ラヒ パンジャービー・キッチン」は、お酒とカレーが大好きだったイラストレーター・安西水丸さんが行きつけにしていたパキスタン料理店。「米に合う料理は日本酒にも合うんだよ」と、連れてってもらったのを機に私も通うように。水丸さんが推していたカレーと日本酒の組み合わせを体験してほしいですね。
「焼きとり よね田」も欠かせません。半熟卵を絡めて味わうジャンボつくねは、肉のうまみがたっぷりでボリューミー。マグロも美味で必ず注文します。
「善知鳥(うとう)」は北口エリアですが、西荻窪に来たなら立ち寄って。店主・今さんは燗酒の名手。日本酒のおいしさを改めて実感できます。手間をかけて手作りする珍味も絶品!
以上が、私がはしごで回遊する西荻窪の酒場たち。ほんの一部ではありますが。西荻窪って、安心して飲めるところで、お客さんも店の人もつかず離れずな感じ。女ひとりでも絡まれたことはないし、若い人からご年配の方までが隔てなく同じ空間で飲める。ひとりでも、仲間とでも。西荻窪はしご酒に一歩踏み出せば、そこは間違いなくパラダイスです。
今月の案内人/倉嶋紀和子さん
熊本県出身。『古典酒場』の創刊編集長、「好く呑み、好く笑い、好く酔う」がモットーの「古典酒場部」主宰。旅チャンネル『にっぽん酒処めぐり』、テレビ東京『二軒目どうする?』の出演など、お酒をテーマにさまざまな活動を行う
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PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/MIE NAKAMURA(JAM SESSION)
※メトロミニッツ2022年2月号「東京巡礼」より転載