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毎月案内人をお招きし、思い入れのある場所を教えてもらうこの企画。今月の案内人はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史さん。日韓合わせて、2000軒以上の韓国料理店を食べ歩いてきた八田さんが、韓国料理の巡礼地として新大久保~東新宿エリアを案内してくれました。本場の家庭料理からトレンドグルメまで、八田さんイチ押しの6スポットをご紹介。
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家庭料理もトレンドグルメも。いつでも最先端が集まり、常にアップロードしていく街
初めて韓国に旅行したのが1997年で、大学2年生のときでした。当時の韓国は経済的に転換を迎える前で、日本人からしたら「なにしに行くの?」というくらいの雰囲気。その後に幾度も韓流ブームがやってきて、ここ新大久保周辺が若い女性たちで賑わうなんて・・・。
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この街と本格的に関わりだしたのは、2001年の初め。韓国留学で韓国料理の魅力にどっぷりと浸かり、帰国後、新大久保にかつてあった韓国刺身専門店でアルバイトを始めたことがきっかけでした。今でこそ400軒~500軒あると言われる韓国関連の店も、当時は60軒ほど。職安通りの向こうはすぐに歌舞伎町という立地から、“新宿の果て”と呼ばれるほどのディープスポットでした。
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そんな街が大きく変わり始めたのは、ドラマ「冬のソナタ」が日本で放送された翌年の2004年。当時の僕は、フリーターとしてアルバイトを続けながら、韓国の食文化をメルマガなどで発信するも、うんともすんとも言わない日々を過ごしていました。だけど、この冬ソナからだいぶ恩恵を受けました。というのも、まだまだ韓国料理が一般的ではなかったので、僕が発信していた情報がメディア関係者の目に止まり、コリアン・フード・コラムニストとしての仕事が舞い込み始めたんです。
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以降はK-POPや韓流アイドルが注目された2010年、チーズダッカルビが流行った2016年と、韓流ブームが相次いで起こり、奥様から若い女性まで幅広い層の人たちが集まるように。急スピードで変わっていく街には驚きの連続でしたが、そもそも新大久保周辺は最先端の食とカルチャーが集まる街。
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昔から在日コリアンの方が暮らす上野や三河島、韓国の大企業が集まる赤坂といったコリアンタウンとは違い、この街はもともと韓国以外の国の人も多いですし、歴史も40年ほどと若め。だからこそ、新しいものを受け入れる土壌があるし、お店の人はトレンド料理を取り入れるのもお手のもの。
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ここ「テ~ハンミング」のオモニもそう。韓国有数の食の宝庫・全羅道(チョルラド)の出身で、宮中料理も家庭料理も得意なのに、トレンドの料理にも研究熱心。いつ訪れても新たなメニューがあるし、オモニのいる店が減ってきている街の中で本場の家庭料理が味わえる貴重な存在です。そんな韓国料理の古きも新しきも体験できるこの街では、オモニのいる店で家庭料理を味わうもよし、トレンドグルメを食べ歩くもよし。日本で韓国旅行の擬似体験を楽しんでいただけたら。
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今月の案内人/八田靖史さん
コリアン・フード・コラムニスト。慶尚北道および慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。韓国料理の魅力を伝えるべく、雑誌、新聞、WEBで執筆活動を行う。トークイベントや講演のほか、韓国グルメツアーのプロデュースも。韓国料理が生活の一部になった人のためのウェブサイト「韓食生活」を運営
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PHOTO/NAOKI SHIMODA, AYA MORIMOTO TEXT/MAKI FUNABASHI
※メトロミニッツ2021年12月号「東京巡礼」より転載