毎月案内人をお招きし、思い入れのある場所を教えてもらうこの企画。今月の案内人は日中は会社員として働きながら、2000軒以上の純喫茶を巡ってきた東京喫茶店研究所二代目所長・難波里奈さんが純喫茶の巡礼地として高円寺をご案内。ネルケン、ルネッサンスといった名店から、進化系純喫茶まで多彩な純喫茶をご紹介します。
中央線の中でも名純喫茶ぞろいの高円寺
中央線沿線は素敵な純喫茶がたくさん集まっています。特に東京駅から三鷹駅まで、どの駅に降りても名店と言われるような純喫茶が。その中でも私が特に高円寺を愛する理由のひとつが、この「ネルケン」です。お店の入り口の、緑のツタがからまった妖艶な雰囲気。中はどうなっているのだろうというワクワク感。初めて訪れた時は緊張しましたが、いざ入ってみると静かな時間の中にクラシック音楽が流れ、店内には素敵なインテリアがあふれ、そして私にとって“理想の女性”とも言えるマダム…。すぐにこのお店の虜になってしまいました。初めてここの扉を開けた十数年前から今まで、ずっと通い続けているお店です。
「ネルケン」がオープンしたのは1955年。一般の家庭では存分に音楽を聴くことが難しかった時代に「ゆったりとレコードが聴けるように」という思いで作られたお店です。理想の音響を実現するため、内装はマダムのご主人が設計し、天井や壁の造りなどあらゆるところに工夫がされています。そして店内には名画の数々が飾られ、時代を感じさせる彫刻も。「ネルケン」は、まさに「生ける昭和の博物館」なんです。
「ルネッサンス」もそんな博物館のよう。1945年オープンの伝説の名曲喫茶、中野「クラシック」が2005年に閉店した際、そこで働いていた方が調度品などをすべて引き継ぎ、高円寺にオープンしたお店です。こういった贅沢な場所に、1杯のコーヒー代で気軽に行けるのも、ありがたいことだと思います。
そのほかにも、高円寺には素敵な純喫茶がいくつもあります。オープンな雰囲気でレトロなケーキもおいしい「トリアノン洋菓子店」。
カウンターでゆったりとコーヒーがいただける「ポピンズ」。
紫の照明が素敵で、雨の日に外を眺めながら過ごしたい「ブーケ」。
そして2020年にリニューアルオープンした「ぽえむ」は、進化した「新しい純喫茶」として人気を集めています。
このように高円寺にはさまざまな純喫茶がありますが、どのお店も店主との距離感がちょうどよく、放っておいてくれるのだけれど温かく受け入れてもらえて、居心地がよい。バタバタと過ぎ去っていく日々の中で、純喫茶に来ると体の中の空気が入れ替わり、また新たな気持ちで日常に戻ることができます。そんな力を持っている純喫茶。ぜひお気に入りのお店を見つけて、ちょっと贅沢な、リフレッシュの時間を楽しんでみてください。
今月の案内人/難波里奈さん
東京都出身。著書に『クリームソーダ 純喫茶めぐり』(グラフィック社)、『純喫茶とあまいもの 京都編』(誠光堂新光社)など。10月20日に自らが編集長を務める純喫茶のポータルサイト「純喫茶ジャーニー」を立ち上げる
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PHOTO/KENYA ABE TEXT/SHINO KAWASAKI
※メトロミニッツ2021年11月号「東京巡礼」より転載