毎月案内人をお招きし、思い入れのある場所を教えてもらうこの企画。今回ご登場の塚本さんは、東東京の盛り上がりの中心地・中央区東日本橋、馬喰町のキーパーソンですが、今は浅草橋、鳥越エリアに事務所を構えているそう。蔵前や馬喰町に挟まれ、いま注目されつつあるこのエリアの魅力とは?
どんどん面白くなっている街、浅草橋・鳥越エリアの魅力とは?
幼少期を江戸川区南小岩で過ごした僕は、賑やかな下町情緒のある雰囲気がとても好きです。しかし今の東京で、“下町感”を感じることができる街は数えるほどしかないのではないでしょうか。
僕が鳥越に来る前にいた馬喰町も、引っ越した2007年当初はとても静かな街でした。いわゆるプロユースの街。しかし、そこで雑貨店を始めたり、イベントを開催してみたりすると、街が持つ魅力に共感してくれる人たちが集まり、だんだんとカフェやギャラリーなども増え、馬喰町が纏う空気に変化が生まれました。そんな風に僕は“街に新たな生態系を作る”ことが面白いと思っているんです。
この鳥越・浅草橋も、そういう意味で、どんどん面白くなってきているところ。馬喰町と蔵前の間にあるこのエリアは、もともと人の流れが程よくあり、毎年5月に行われている鳥越祭にはたくさんの人で賑わいます。でも、本来のこの街はすごく静かで、製本屋さんや町工場、ベルトのバックルだけを売っているようなパーツ屋さんみたいなお店がいろいろあって、それも魅力のひとつ。夜8時くらいにはほとんどの店が閉まってしまうので、東京なんだけれどローカルな感じなんですよね。
僕がこのエリアに越してきたのは4年前で、その頃は古いお店がちらほらある普通の住宅街でした。でも、今では新しいお店も増え、新旧それぞれが横でつながり、少しずつ盛り上がりを見せてきています。
例えばここ「torigoe T」は、近隣の人たちが集まれる拠点になればと思ってスタートしたフレンチスタイルのカフェで、蚤の市などのイベントも企画しています。
また「めしと、さけanno」はお食事がおいしいのはもちろんですが、界隈の面白い人が集まる場所だったり。
そして忘れてはならないのが、街に根付く老舗。「柳ばし 鳥茂」は大衆的な焼鳥の店で、ちょっと前まではメニューに焼鳥しかなかったくらい古風な店。名物のつくねはもちろんレバーも絶品で、よく友達を連れて行ったり。
そのあとによくハシゴするのが、大人気の「フジマル」。清澄白河の醸造所で作られたフレッシュな生樽ワインがもう絶品で、併設しているショップでもワインが買えます。
そんな風に、古くからある店と新しい店とのバランスがよくて、どんどん街としての熟成度合いが増している鳥越・浅草橋エリア。今回ご案内したお店を巡っていただければ、きっとこの街の魅力をわかってもらえるはずです。今はまだ、蔵前や馬喰町とセットで語られることが多いですが、今後は社会情勢を見つつ、鳥越・浅草橋単独のイベントも仕掛けていきたいと思っています。
今月の案内人/塚本太朗さん
東京都出身。デザイン事務所「リドルデザインバンク」代表。2007年、馬喰町にドイツ雑貨店「マルクト」を開業し東東京が盛り上がるきっかけを作った人。現在は鳥越に事務所とカフェ「torigoe T」を構える
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/RYO ISHII
※メトロミニッツ2021年7月号「東京巡礼」より転載