【にっぽんタコの旅】積丹半島・タコの海岸物語/北海道神恵内村
タコ好きの皆さんのためにとっておきの逸品を探してまいりました。タコの水揚げ日本一は北海道。函館から車でおよそ3時間、積丹半島の西部にある神恵内村(かもえないむら)は、村民800人に満たない道内でも2番目に人口が少ないという美しき小さな村。4代続く漁師の山森さんのタコ漁に同行させてもらいました。なにしろこの海で獲れるミズダコが絶品なのです。
更新日:2024/08/20
タコはいたかと鴎に問えば 今日も大漁、みな笑顔
積丹(しゃこたん)半島の西岸、神恵内村(かもえないむら)の漁師の家に生まれ、小学生のときから「祖父や父親と同じ漁師になる」と決めていた山森昴(やまもりすばる)さんは、32歳の今、村で最年少の漁師。妻の山森美紀(みき)さんと一緒に『山森漁業部』を名乗り、活動を発信しながら、季節ごとの海の幸を“漁師直送”で販売しています。漁師になろうと決めた理由は、船が好きだから。「父親の手伝いをしていておもしろかったし、自分も沖に行きたいと思ったんです」
アイヌ語の「カムイ· ナイ(美しい神の沢)」に由来する神恵内村は、文字通り、神が住むかのような美しく険しい山々に抱かれた入り江沿いに開けた集落。山森さん夫妻が3人の子どもと暮らす家から「雄飛丸」が停泊する港まではおよそ30秒。まさに船と海とともに生きているのです。
神恵内村はタコ漁が特別盛んというわけではありませんが、数軒の漁師がいて、昴さんと父· 淳(すなお)さんもタコ漁を続けています。美紀さんは半島の付け根にある共和町の農家の出身で、漁師の妻歴約10年。漁に出るのは、昴さんと淳さんのふたりだけれども、水揚げしたタコを加工して出荷したり、SNSで発信したりするのは美紀さんの役割です。
最高にうまいタコしゃぶは、家族の愛が支えている
タコ漁は6月から10月。山森さんたちは、カゴを使ったカゴ漁という漁法でミズダコを捕獲します。この日は午前5時に出航して、4日前に仕掛けたカゴを回収しに行くことに。100個あるカゴに5~6匹しかかかっていないこともあるそうですが、「海が凪(な)いでいて、潮の流れが緩やかだといいことが多い」という昴さん、さて今日はどうでしょう。
淳さん、手伝いの米田豊作(よねたとよさく)さんとともに乗り込んだ船を走らせること10分。カゴを引き上げ、タコが入っていたら袋に入れて水槽へ。船を操りながら、作業をする3人の息の合った動きは荒々しくも無駄のない美しさがあって、海で生きているんだなぁと見惚れてしまいました。
出航から1時間半後、ふたたびカゴを仕掛け、港へと戻ると笑顔の美紀さんが待っています。「漁獲がいいときは連絡するんです。たくさん獲れたところを見たいそうなので」という昴さんも笑顔。つまりこの日は大漁でした。
ささっとしゃぶしゃぶにしたミズダコを口いっぱいに頬張ると、甘さとうまみが広がります。そして、噛みしめるごとに神秘的な山が迫る入り江や積丹ブルーの海の色、山森さんたちの笑顔がじわじわ体に染み入っていきました。
【取材風景】
エサを入れて海底に仕掛けていたカゴを引き上げていく山森昴さん。エサに使うのはフクラギ(ブリの幼魚)やホッケ。
カゴから取り出したミズダコを、米田さんが待ち構えたネット状の袋の中へ素早く移していく。
袋に入れたタコは船上の水槽へ。タコが弱らないよう凍らせた海水を浮かべて水温を低く保っているそう。
せっかくカゴにかかっていても、3kg以下と判断したら資源保護のために躊躇なくリリースしていく。
タコが食べ残したエサの残骸や、ちぎれたタコの足(腕)など、漁のおこぼれを目当てに海鳥が寄ってくる。
港に着いてすぐにタコを運び出す昴さんと淳さん(左)。加工・出荷時まで漁港の水槽で袋に入れたまま飼っておくそうだ。
取材風景その2
『山森漁業部』の漁師、山森昴さん(右)と妻で加工・広報を担当する山森美紀さん(左)。長男の一生(いっせい)くんと次男の大嘉(たいが)くんも一緒に。
山森漁業部のタコしゃぶを試食。さっとしゃぶしゃぶにしたらすぐに引き上げて、ぽん酢醤油でいただく。もちもちとして、タコの甘みとうま味が豊かに広がって、最高にうまい!
山森漁業部のタコしゃぶ。美紀さんがしっかりと手作業で下処理をしたあとに、足(腕)は生のままアルコール急速冷凍している。臭みや水っぽさは微塵もない。
「山森漁業部のタコしゃぶ、タコ刺し、おいしいよ~!」とタコしゃぶ(冷凍)を手にアピールしてくれた一生くん。明日から夏休みが始まるのでウキウキだ。
保育所から帰ってきた長女の、のんちゃん。おやつ(?)にタコしゃぶをいただきます! うしろに映るのは兄・大嘉(たいが)くん。とうきびを食べるのに夢中で振り向いてもらえず。
青い海に抱かれた美しい神恵内村。近海では春から秋にかけてはホッケやソイ、ヒラメ、秋から冬はアンコウが獲れる。夏はウニ漁が盛ん。
PHOTO/FUMINARI YOSHITSUGU WRITING/KAYA OKADA
※メトロミニッツ2024年9月号より転載