
唯一無二の個性と洗練された味わいを兼ね備える超人気ブルワリー「ティーンエイジブルーイング」。醸造所併設のタップルームを訪ねて、自然豊かな埼玉県・ときがわ町へ。緑薫る、初夏のビールトリップの始まりです。
2年前に彗星の如く現れ、あっという間にビールファンの心をつかんだ「ティーンエイジブルーイング」。代名詞はホッピー&ダンクなIPA や独創的な副原料使いが楽しいサワー、そしてジャケ買い必至のクールなラベルデザインです。しかも毎月10種近い新作ビールをリリースし、発売後は即店頭から消える人気ぶり。そんなビールを何種類も飲めるタップルームの噂を聞き、足を延ばしたというわけです。
さて歩くこと10分超、見えてきたのは広いテラスとヒップな内装が目を引く建物。店内は心地よい音楽に満ち、壁にはビールのリストがずらり10種類。地場野菜や地元の名店の逸品をちりばめたフードメニューも気になる! わくわくふくらむ好奇心。周囲の里山の景色が、一段と鮮やかに輝き出すのを感じます。
緑豊かな里山で生まれる
パンクでロックでエモなビール
奥秩父山系の森を背にしたときがわ町は、古くから木工産業が盛ん。ここ「ティーンエイジブルーイング」の建物も材木店の元倉庫です。広々とした空間に響くのは、大型スピーカーから流れる新旧の名曲。テラスには初夏の爽やかな風が吹き抜けます。「最初にこの物件を見たとき、『ここだ!』と決めました。まさにこんなビジュアルの場所を思い描いていたから」と語るのは、ブルワリー代表の森大地さん。
「都心部からここまで足を延ばすのは、ある程度パワーが必要じゃないですか。でも、遠いけどわざわざ行くからこそ、印象的な1日になると思って。フェスに行くみたいに来てもらえたら」。ビール片手に音楽に身を委ねるもよし、テラスで風を感じるのもよし。ビールの味わいがいつもよりクリアに感じられるのは、空気がおいしいから? ピースフルで開放的な雰囲気は森さんの言葉通り、まさにフェス感覚!
実は30年以上ミュージシャンとして活動する森さん。吉祥寺や大宮でライブハウスを運営、レコードレーベルも持つなど、「以前は音楽以外の仕事なんて考えたこともなかった」そう。転機はコロナ禍。「業界で売れるより、もっとピュアに、本当に作りたいものを作ろうと思ったら、音楽の仕事にこだわりがなくなって。何か新しいことをしたい、何ができるだろうと考えました」。
興味があると思ったことは1〜2カ月間徹底的に調べてシミュレーション。そんな日々を経てたどり着いたのがビールでした。やるからには世界一をめざそうと、醸造設備も規模も一切妥協なし。資金集めも含め、準備にかけた時間はなんと約2年半。元々相当なビアギークの森さんでしたが、改めてビールと向き合う中で感じたのが、ビールと音楽の共通点でした。
「10代の頃、大好きなバンドのアルバムを発売日に買って聴いたときの感動とか、ものすごいライブを見て、翌日から生活が一変する感覚とか。ものが残るわけじゃないけど体験が残る、ビールもそうだと気付いたんです。好きなブルワリーの新作をどきどきしながら飲んで、おいしさに感動して、誰かに言いたくなったり。音楽でも感動を与えたい、感情を動かしたいというコンセプトでやってきたので、それがビールに変わっただけだったんですよね」。10代の原体験から「ティーンエイジ」と名付けたブルワリーのその後の快進撃は、前述の通り。
森さん含め5人のブルワーで造るビールの特徴は、なんと言ってもその独創性。量も種類も規格外のホップに加え、フルーツやスパイス、ハーブ、時にはウッドチップまで使う副原料の組み合わせは、一見奇抜と見せかけ、実際はビール本来の風味を大切にした筋の通った味わいです。
「バンドセッションやリミックスの感覚」と森さんが表現するコラボビールも次々リリースされ、毎回話題に。ときには地元の農家さんが持ち込む旬の素材から、ビールのアイデアが広がることも。「既存の概念をぶち壊すようなビールを、感動的なおいしさに仕上げたい。それが後発ブルワリーである自分たちの存在意義」と森さん。
今月、ブルワリーは2周年。記念の限定ビールに使ったのは、町のあちこちに自生するヨモギやドクダミなどの“雑草”だとか! 東京から1時間半の小さな旅で出会ったのは、好奇心を刺激する個性派ビールと、ここにしかない幸せな空間。とびきりの高揚感がお土産です。
Teenage Brewing
ティーンエイジブルーイング
TEL.0493-81-5308(「ティーンエイジ タップルーム“ ベッカン”」併設)
住所/埼玉県比企郡ときがわ町馬場435ー1
営業時間/11:00~16:30、土・日・祝~20:00
PHOTO/MEGUMI SEKI WRITING/RIE KARASAWA
※メトロミニッツ2025年7月号より転載