旅,ローカリズム

VOL.51_長野県・小諸市編_ローカリズム~編集長コラム【連載】

更新日:2025/03/20

24時間と3万円
永遠なんてどこにもないと
考えるきっかけ

旅,ローカリズム

昼間からワインを飲んで
本を読んでぐっすり眠る旅

「明日世界が終わるとしたらなに食べる?」「無人島に1冊だけ本を持って行けるとしたらどんな本?」。誰もが誰かとそんな話をしたことがあると思います。ある人は高級なお寿司が食べたいと言い、また別の誰かは母親の作った豚汁といった具体的な回答だったりするアレです。

どうしてそれが盛り上がるかというと、人は制約とか抑制の中においてこそ個性が際立つからなのだと思います。言い方は難しいですが、それだけ平時のわたしたちの毎日は制約の少ないのっぺりとした日々なのだとも言えるのかもしれません。もちろん時間やお金は暮らしを制約しているもののひとつで、その制約を受けているだけでも「制約の少ない日々」というのは少し乱暴かもしれません。でも一方でわたしたちの日々を限定しているのは、ときどき自分自身だったりもしませんか? 「上司にこう言われたから」「物価が高いから今は」…云々。そんなふうにわたしたちの日々はなんとなく「ぼんやりとして姿のとらえづらい制約」に縛られていると言えるかもしれません。わたしたちは制約が嫌いなふりをして、それの居心地のよさも知っている。

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「24時間と3万円で」。それが今回の特集のタイトルです。24時間前に自分がなにをしていたか思い出すと、1週間前だって昨日のことのように思える毎日です。3万円を財布に入れても、気付いたらなくなっていることもしょっちゅう。だからそれを区切ることで、それぞれの制約の中でのその時間の使い方を知りたいと思って特集を考えました。ひいてはそれは僕らののっぺりとした毎日のすぐ外側におもしろいことは広がっているのだということを思い出せる企画になるのではないかと思ったのです。

そう言うからには自分はと考えたときに、最初に「ずいぶん忙しい1月と2月だったな」という感想が浮かびました。まったく完全に自由な24時間のことが思い浮かばなかった。だいぶまずいですね。自分で偉そうなこと書いておいて、すでに自分で自分を制約していました。だってみんな忙しいですよね。生きているだけで忙しいのなんて当たり前です。

そこで財布から3万円を出して別の財布に入れ替え、カレンダーに丸をつけました。そしてぼんやりと目を閉じて、素直にやりたいことを考えました。

昼前に家を出て、新幹線と在来線に乗って長野県の小諸という街をめざします。お腹を空かせて。駅に着いたらNOVELS というブックホテル(お宿の中に本屋さんがある)に荷物を置いて、ビストロアオクビへ。そこで小諸で採れた新鮮な野菜やお肉を使った料理をいただきます。ごく控えめに表現してびっくりするくらい食材の強さを感じます。お供はもちろん小諸のワイン。グラスであれこれ飲もうか、ボトルにしようか迷います。いずれにせよ、その日は明るいうちからからワインでだらだらと酔っぱらいます。24時間のメインイベントです。

お腹がいっぱいになったら小諸の街を歩いて酔いを醒まし、ホトトギスで明日の朝食のパンを、それからホテルに戻って本を買います。その本を持って部屋に戻ったら部屋着に着替えて本を読みながら眠ります。

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漠然とした不安やなかなか解決できない悩み、いつも肌身離さず持ち歩いている悲しみなんかも、その日は東京に置きっぱなしにできたらどんなにいいだろう。でもそれさえもこの自分で作る新しい制約で違う見え方が見つけられるかもしれない。そんな想像をすることも、24時間と3万円がくれる副次的なよきことかもしれません。

僕たちは誰も完璧ではありません。この世界に生まれ、誰もが誰かに育てられ、今日に至ります。でも人生という日々を行く「生き方」を誰かから体系的に学んだことなんてありませんよね? 僕たちは程度の差こそあれ、みんな自己流で生きることを強いられている。それならばもっと誰かのことを知りたいし、誰かに生き方のヒントをもらってみたい。そして僕たち雑誌にはそれができるかもしれない。おこがましいですが、そんなふうにも思うんです。

※メトロミニッツ2025年4月号より転載 

※記事は2025年3月20日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります