日本のワイナリーは、年々増加し、2024年9月末時点で約540軒にもなりました。今年、新たに誕生したワイナリーは24軒。その中から特に注目のワイナリーを3軒ピックアップしてご紹介します。
〈北海道・北斗市〉torocco winery
ものづくりを極めるように
ワイン造りを追求
ワイン造りが広がりつつある函館・北斗周辺。ここに2024年誕生したのが、torocco wineryです。オーナーはフレンチレストラン「aki nagao」やワインバーなどの人気店を札幌で経営するシェフの長尾彰浩さん。
きっかけは2007年、ソムリエだった石田幸子さんとの出会いでした。2人は意気投合。夜な夜なナチュラルワインを飲みながら、ワイン造りや夢を語り合いました。
そして、2021年、長尾さんはついに立地のよい畑を入手。当時、東京にいた石田さんも意を決し北海道に移住して、ブドウを育て始めます。2023年までの2年間は10Rワイナリーへ研修に通いながら醸造を委託。
そして2024年、とうとう自社ワイナリーでの初仕込みを迎えたのです。造りを担う石田さんは、あふれんばかりのエネルギーの持ち主。体と頭を総動員して、醸造に向き合っているのが伝わってきます。
2人がめざすのは、最高の食材で料理を作るように、最良のブドウでワインを造ること。料理に添加物を使わないのと同様に、ワインに添加物は使いません。
「“トロッコ”という名前には、ゆっくり走りつつ、ワインに想いをのせて、どこにでも届けたいという願いを込めています」
〈長野県・上田市〉Sail the Ship Winery
待望のワイナリー設立!
造り手の新たなスタート
2024年、秋、田口航(たぐちこう)さんは、長野県上田市に満を持してワイナリーを設立しました。32歳で独立を決心してからすでに10年の月日が流れています。
ブドウを植えたのは2016年。その後6年間、南向醸造などで委託醸造をしてきました。
ワイナリーに足を踏み入れて驚くのは、高く積み上げられた樽。全部で44 樽と新規の個人ワイナリーとしては異例の多さ。彼はワインをすべて樽で熟成させているのです。
「僕が好きなのは、赤も白もこっくりとした味わい。そのために野生酵母で発酵させて、樽でゆっくりと寝かせることで味わいを仕上げていきたい。第一印象だけが強いのではなく、中身がしっかりとあり、時とともに真価を発揮するワインを目指している」と語ります。
だからこそ、ワインのおいしさの本質を決めるブドウには妥協はなし。原料ブドウはすべて自身が育て、化学農薬、化学肥料は不使用。それにもかかわらず、ワインの価格は2000円台からと比較的お手頃。
「日本ワインだから、生産量が少ないから、高いという言い訳はしたくない。誰でもが手に取れるワインにしたくて」。栽培、醸造そして販売まで一貫したワイン造りが始まります。
〈長野県・原村〉kifutato wines
ほぼ前例のない1000m超えの高地で
26歳の若き造り手の挑戦が始まる
2024年の10月、八ヶ岳山麓の原村に小さなワイナリーが誕生しました。ワイナリーとブドウ畑は日本ではまだ珍しい標高1015mの高地にあります。
ブドウ栽培とワイン醸造を一手に引き受けているのは日達桐子(ひたちきりこ) さん。まだ26歳の若き造り手です。
始まりは父の俊幸さんがワイン用ブドウを植えたこと。当時、彼女は高校生でした。大学時代にワイナリーのインターンを経て、両親の畑を引き継ぎ、ワインを造っていこうと決心。両親に思いを伝えました。
卒業後はブドウを育てながら、醸造の技術を貪欲に学びます。ニュージーランド、長野、そして山梨のワイナリーでも研修を受け、彼女が行き着いたのは、「汚さず、磨きすぎず、不必要と思ったものは添加しない造り。冷涼な高地ならではの伸びやかな酸のブドウを素直に表現したい」と思いを語ります。
「やっとスタート地点に立てた」と言う桐子さん。今までは委託した醸造所の都合も加味して決めていた収穫時期も、樽での熟成期間も自由度が俄然上がります。
「仕込み期間はあまり睡眠も取れませんが、自分がめざす造りができると思うと期待しかありません」。彼女のワインのリリースが楽しみです。
PHOTO/KOOMI KIM WRITING/MIYUKI KATORI
※メトロミニッツ2024年12月号より転載