宮城県をはじめとする東北地方では「おこわ」のことを「おふかし」と呼ぶそうです。その響きがなんだか温かくて、ありがたみも増す気がして、おこわを愛する「ごはん同盟」のふたりを誘って旅に出ることにしました。行先は気仙沼、松島、そして米どころの富谷〈とみや〉と登米〈とめ〉。旅の様子を綴るのも「ごはん同盟」のシライジュンイチさんです。
宮城県で出会ったもち米を使った絶品と気仙沼・亀山展望台から気仙沼の絶景を望む、ごはん同盟のふたり(右下)
【気仙沼市・武山米店】
「おふかし」を求めて老若男女がやってくる
「手づくりの栗おこわをつくってもらえたなら、それは愛の証!」と熱く語るごはん同盟のしらいのりこさん。彼女を気仙沼〈けせんぬま〉で出迎えてくれたのは、ホクホクの栗おこわでした。
ごはん好きのフードユニット「ごはん同盟」として活動中の私たちは、もちろん、もち米を使った米料理も大好物。宮城で愛される「おふかし」こと、おこわをめぐる旅で最初に訪れたのは、気仙沼の湾に向かって伸びる道沿いにある『武山米店』です。
東日本大震災で1階部分が津波で大きくさらわれてしまいましたが、被災した建物を解体して同じ場所に再建。その一角で、季節の食材を使ったおこわを販売しています。
「春はたけのこ、夏はホヤ。今の時期ならやっぱり栗おこわかな」と、話してくれたのは、武山米店の武山陽子〈たけやまようこ〉さん。気仙沼ではハレの日におこわを炊く風習がありましたが、震災でほとんどの家のふかし器は流されてしまったといいます。そこで気仙沼で慣れ親しまれてきたおこわの販売を始めると、たちまち街の人たちが集う憩いの場所となりました。
いつもは数種類のおこわが店頭に並ぶのですが、栗の季節だけはどうやら趣が別のよう。「気仙沼産の栗の皮をひとつずつ丁寧にむいて下ごしらえをしているので、正直、ほかのおこわまで手が回らないんです」と陽子さん。のりこさんも「栗の鬼皮を一度でもむいたことがあれば、その作業がどれだけ大変かわかるはず」と目頭を熱くします。愛にあふれた栗おこわに感激しきりです。
武山米店
たけやまこめてん
TEL.0226-22-0266
住所/宮城県気仙沼市魚町1-1-13
営業時間/月~土9:00~17:30
定休日/日
※おこわの販売は毎週火~木10:00~、売り切れ次第終了
【松島町・浅野商店】
豊かな食材を受け止める「おふかし」の包容力
もち米でつくるおこわは、ハレの日に欠かせない料理。全国各地にさまざまなおこわがあり、赤飯ひとつとっても多種多様です。たとえば、北海道では甘納豆を使ったり、高知では豆を甘く煮て、その煮汁を振り水として使ったりしていて、地域による赤飯の違いを比べてみると実におもしろいもの。私たちの故郷・新潟県長岡市はどうかといえば、醤油で色付けした茶色の醤油赤飯が定番で、これを話すと多くの人にびっくりされます。醤油の香ばしい香りにあまじょっぱさが加わって食べ進めると止まらないので、機会があればぜひお試しを!
そんなおこわの多様性を考えながら訪れたのは、日本三景のひとつ・松島にある創業百年のお米屋さん、『浅野商店』です。こちらでは、もともと地元のホテルで行われる冠婚葬祭用に赤飯や白ぶかし(※)をつくって卸していましたが、震災後に週末限定でおこわの一般販売を始めました。
※宮城県や福島県北部など、東北地方を中心に仏事のときにつくられる白いおこわ。白いんげん豆を使って白く仕上げる。地域によっては黒豆や小豆を使うこともある
「松島にはおいしい食材がたくさんあるからね。それでおこわをつくりたくなったのよ!」と笑顔で話すのは、店主の母親で、おこわづくりを担当する浅野恵子〈あさのけいこ〉さん。使うもち米は、粘りがあって甘みも強い宮城県産の「みやこがねもち」です。米屋がつくるおこわですから、お米に妥協はありません。
この日のお品書きは、穴子、栗、たこ、舞茸、赤飯の計5種類。なかでも東松島産の穴子をふわっと炊いて、煮汁といっしょに蒸し上げたおこわは格別です。「脂のりがよい穴子のふんわり感ともち米のもっちり感のコントラストもお見事!」と、のりこさんも大満足の様子。
「おこわは、しとをうつタイミングが大事!」と恵子さん。「しと」とは、おこわをふかすときに加える振り水のこと。ふかしている途中にもち米の水分が足りなくなってくるので、水を加え、おこわ全体をほどよい硬さに調整します。このときに豆の煮汁や調味料などを加えて色付けや味付けも行いますから、この工程はとても重要です。おこわ名人の道を目指すならば、「しとうち」は必修科目といえるでしょう。
「次はみょうがを使ったおこわを考えているんだけれど、何かよいアイデアはないかしら?」という恵子さんの相談に、ノリノリで答えるのりこさん。おこわ取材がいつの間にかメニュー会議に変わっていました。
浅野商店
あさのしょうてん
TEL.022-354-3388
住所/宮城県宮城郡松島町松島町内131
営業時間/8:30~18:00 日8:30~おこわが売り切れ次第閉店
定休日/不定休
※おこわの販売は週末と祝日のみ
【富谷市・餅よし】
切っても切れない餅と宮城のおいしい関係
「宮城のもち米文化をめぐるなら、お餅も外せませんね」と、浅野商店さんに紹介されて訪れたのが、富谷市〈とみやし〉にある餅専門店の『餅よし』です。いろとりどりのお餅がショーケースに並びますが、なかでも目を引くのは、枝豆の緑色が鮮やかなずんだ餅です。
「宮城県では、古くから餅が頻繁に食べられていました。餅は最高のごちそうで、行事があるときはもちろん、かつては各家庭で月に3~4回は搗〈つ〉いていたようです」と教えてくれたのは店主の伊東武史〈いとうたけし〉さんです。ずんだ餅も、昔から受け継がれてきた宮城の餅の食べ方のひとつ。
「でも、その由来は未だに定かではないんです。文献を調べてみると、どうやら『ずんだ』の原型のルーツは、北陸地方にあるんじゃないかと私は考えているんですけどね」
餅よしのずんだ餅のあんは、粒が残る粗挽き仕上げ。食べる直前に餅と和えるので、枝豆のシャキシャキがより強く感じられます。「こしあんとつぶあんみたいな関係だね。なめらかなずんだもいいけれど、これは新鮮!」と、その新たな食感に驚きを隠せないのりこさん。
【登米市・管源だんご】
半世紀にわたって愛され続けている名物だんご
宮城の餅食文化は、まだまだあります。登米市〈とめし〉にある創業50年の『管源〈かんげん〉だんご』の一番人気は、こしあん、ずんだ、くるみ、ごま、みたらしが並んだ五色だんご。どれからいただこうか迷ってしまう魅惑の布陣です。
「もちもちしておいしいでしょ! これ、ひとめぼれやコシヒカリを搗いてるのよ」と、管源だんごの管野紘子〈かんのこうこ〉さんがだんごのつくり方を教えてくれました。もち米を使わずに、こんなに粘りが出せるなんて驚きです。
続いて、杵〈きね〉つき餅もいただきます。数あるお餅のなかで気になったのが、エビ餅。県内陸部、田園地帯にある登米市では、田んぼの用水路や沼などで獲れる沼エビが大切なたんぱく源として昔から重宝されていたそう。ひと口食べると、醤油でほんのり味付けされたエビの塩気がクセになります。「エビ餅のようなしょっぱいお餅と甘いあんこのお餅を交互に食べたら、こりゃ止まんないね」と、のりこさんもうれしそう。
おこわ屋さん、餅屋さん、だんご屋さんが当たり前にある宮城の日常に、もっとからめ取られてみたいと思った旅でした。あー、まだまだ食べ足りない! もち米LOVE!
PROFILE:ごはん同盟さん
しらいのりこ(写真右、調理担当・料理研究家)、シライジュンイチ(企画担当・ライター)夫妻によるフードユニット。ともに新潟県出身。近著『ストウブで米を炊く』(誠文堂新光社)が好評発売中!
PHOTO/TARO OTA TEXT/JUNICHI SHIRAI