津軽半島の日本海に突き出た岬にある小泊漁港は、かつては青森県内でも有数のイカの水揚げ地でした。しかし、近年は、全国的なイカの不漁や漁業全般の価格の低迷など簡単には解決できない問題が山積みです。そうした困難にめげることなく、小泊の漁業を未来につなげようと浜のお母さんたちが立ち上がりました。
子や孫のために希望あふれる漁業を。
津軽半島、イカのまちの母たち
小泊(こどまり)漁港の一画にある作業場を訪れると、山盛りのイカ飯が用意されていました。
「食べて、食べて。今朝作ったの。これも商品化したいんだけど」
ほがらかに笑うのは『中泊さかなプロダクツ協議会』、略して『さかプロ』会長の橋本美保子(はしもとみほこ)さん。中泊町で水産物の加工・販売を手がける『さかプロ』の「かっちゃ(お母さん)」たちのリーダーです。
「オラたちは生まれも育ちも小泊で」と橋本さんが言えば「代々漁師の家なの」「旦那も漁師」「生粋の浜の女さ」と笑い声が続きます。
小泊の海は豊かな漁場で、特にイカは、津軽半島はもちろん、県内でも有数の水揚げ地。しかし、ここ数年はイカの不漁が続き、現在はメバルが主力になりつつあります。
「年々イカも魚も獲れなくなるし、値段も安いし。どうにかせねば、という思いを募らせていました」と橋本さん。
2022年9月に、小泊漁協と町などが立ち上がって『さかプロ』が発足。現在は、橋本さんら漁協婦人部を母体とする商品部が、メバルの漬けめしの素や、サラダや味噌汁に手軽に使える刻みわかめといった、付加価値の高い商品を製造。営業部が国内と海外の販路拡大に取り組んでいます。
「注文が入るとみんなでおやつを用意して。試作のアイデアも持ち寄って。楽しいの」と、大ベテランの敦賀美栄子(つるがみえこ)さんもうれしそう。
この日は夏の人気商品、のしイカ作りを見学させてもらいました。乾燥させたイカを軽くあぶってからローラー機で薄く延(の)していきます。肉厚のスルメが瞬く間に巨大のしイカに変身、その手際のよさに痺れました。
間もなく発足から3年目に突入。今は黒字化に向けて「超・正念場よぉ」。でも「浜の女は強いから!」と声を揃えて笑う「かっちゃ」たちは、むちむちしたイカ飯のイカのようにしなやかで、のしイカのように噛めば噛むほど力強いうまみが後を引く。そんなふうにたくましい魅力にあふれていました。
PHOTO/YUJI IMAI WRITING/metromin.
※メトロミニッツ2024年9月号に加筆して転載