メトロミニッツ、東京、日本ワイン

30時間あったらめがけて訪れたい私的美味名店

更新日:2024/02/22

日々、多忙を極める東京の料理人たち。そんな彼らに、もし30時間あったら、わざわざ行きたい美食の名店をお聞きしました。日本各地の完全予約制のレストランから、タコスやお好み焼きがおいしいローカルな店まで。訪れたときの体験記をお届けします

東京で活躍する料理人に聞いた「30時間あったらわざわざ訪れたい“私的美味名店”」

料理人 脊戸壮介さんReccomend
京都府「じき 宮ざわ」

(左上)直前に訪ねた美術館で見た魯山人の写しの器で出されたお椀(右上) 鰻の焼き物にきゅうりの漬物、発酵玉ねぎを合わせた逸品。酸味とうまみのバランスが絶妙(左下)街中にひっそりと佇む趣
■Profile 脊戸壮介(右下)。デンマークの名店「Kadeau」で経験を積んだ後、紀尾井町「MAZ」にて、オープン時から1年間スーシェフとして店に立つ。現在は、自身の店の開店準備中

伝統的でありながら新しい
学びが多い日本料理の名店

高校卒業後からざまざまなジャンルの料理に携わってきました。海外での経歴は、イタリアとデンマーク。特にデンマークでは、その土地の風土や自然から生まれる恵みを皿の上に表現する技法が学べ、料理との向き合い方が変わったいい経験でした。

今は自分の店を開く準備をしながら、日本料理店で腕を磨く毎日。なにかと多忙ですが、もし30時間あったら再訪したいのが京都の「じき宮ざわ」です。日本料理に興味を持ち始めた頃、料理人仲間によくすすめられたことがきっかけで訪問しました。

基本は伝統的な日本料理ですが、発酵などの手法も使いこなし、新しさを感じさせてくれます。味が素晴らしいのはもちろん、器や盛り付けも美しい。そんなこちらでは嬉しい偶然も。お店に伺う前に美術館へ立ち寄り、北大路魯山人の一閑塗日月椀に感動しましたが、お店でこの器の写しが出てきたのには驚きました。

さらに、料理のプレゼンも圧巻。コースの最後の白ご飯は煮え端の状態から少しずついただくことができ、これが感動するおいしさ。当時は日本料理店で働いたことがなかったので、日本料理を学ぶ今、改めて訪ねてみたいです。

〈京都府〉
じき 宮ざわ

TEL.075-213-1326 
住所/京都府京都市中京区堺町通四条上ル東側八百屋町553-1 
営業時間/12:00~13:30、13:45~※ランチは二部制。いずれも一斉スタート 18:00~(19:00 最終入店) 
定休日/水
※完全予約制

uguisu/organオーナーシェフ 紺野真さんReccomend
佐賀県「料理屋 あるところ」

(左上)築約130 年の古民家を改装した店内には、美しい厨房が (右上)料理には唐津湾で獲れる新鮮な魚介をはじめ、地場の旬の食材をたっぷり使用 (左下)竃と釜で炊いたごはんで作るおにぎり 
■Profile 紺野真(右下)。三軒茶屋のワインビストロ「uguisu」と、2011 年に西荻窪「organ」を開店し、自然派ワインブームを牽引。麻布台ヒルズ「Orby」のヘッドシェフも務める

店主夫妻が生み出す世界観に
ただただ圧倒されます

唐津市の鏡山の麓に立つ「料理屋あるところ」。僕はこのお店に行くためだけに唐津へ出かけます。心惹かれる理由は、店主の平河さん夫妻が自分たちで古民家を改装し、作り上げた空間。そして唐津の食材を自ら自然の中に取りに行く姿勢と、丁寧な手作
業から生まれる美しい料理。ここで食事をするすべての時間に
夫妻の想いと手間が詰まっていて、その世界観に圧倒されます。

厨房はあたかも舞台セットのよう。平河さんの無駄のない動きを見ながら料理を心待ちにする時間が愛おしい。食事の締めに必ず提供されるおにぎりも特別なおいしさです。そんな体験を妻にプレゼントしたいと思い、誕生日に2人で訪れました。今では夫婦そろってこのお店の大ファンです。ここは東京のように物がなんでも揃う場所ではありません。自分のリクエストがかなわなかったとしても、その状況を楽しみつつ、夫妻の作り出す世界観に浸ってください。

まだ訪れたことはありませんが、雲仙の「Beard」にも行ってみたい。シェフの原川さんはずっと一緒に働いてきた、いわばファミリー。彼が雲仙でどんな店を作り上げたのか、見てみたいです。

〈佐賀県〉
料理屋 あるところ

TEL.0955-58-8898 
住所/佐賀県唐津市鏡732
営業時間/11:00 ~ 15:00 17:00 ~ 22:00 
定休日/不定休 
※完全予約制(2名様より)

タイ料理みもっと/MOTオーナーシェフ みもっとさんReccomend
富山県「御料理ふじ居」

(左上)美しい八寸。料理には富山の旬の食材がふんだんに盛り込まれている (右上)客たちの目の前で大きなブリをさばく、大将の藤井寛徳さん (左下)富山湾冬の味覚、雌のズワイガニ・香箱ガニの醬油漬け 
■Profile みもっと(右下)。タイ料理教室「おいしみ研究所」主宰。2019 年、目黒にタイ料理の本格コースを提供する「タイ料理みもっと」、昨年5月には京都に「MOT」をオープン

ここでしか楽しめない料理と空間
まさに唯一無二の1 軒です

これまで、仕事や旅で全国各地を訪れてきました。なかでも富山は大好きな場所のひとつです。好きになったきっかけは、富山市北部の岩瀬にある日本料理店「御料理ふじ居」。ほかには真似できない豪快なプレゼンテーションで表現される、大将・藤井さんの美しくおいしい品々にすっかり魅せられて、たびたび出かけるようになりました。

旬のおいしさがそのまま伝わるような、鮮度の高さにもはっとさせられるんですよね。年に4回ほど通っていたときは、富山の旬の味覚を季節ごとに味わえて、毎回、本気で感動していました。特に真夏のとうもろこしごはんのおいしさは忘れられません。

庭園を眺めながら食事できる和の空間も素晴らしく、料理も空間も唯一無二です。御料理ふじ居を訪ねがてら、ほかの市内の店を巡るようになると、好きな店が増えていき、富山にすっかりハマってしまいました。また、「Wine Bar Alpes」もお気に入りの1 軒。地元の楽しい面々と、東京からのナチュラルワインラバーが集う最高の店です。御料理ふじ居と同じ岩瀬地区の酒スタンド「満寿泉」も角打ちがでしいですよ。

〈富山県〉
御料理ふじ居

TEL.076-471-5555 
住所/富山県富山市東岩瀬町93
営業時間/12:00~15:00※一斉スタート 18:00
~22:00(19:00 最終入店) 
定休日/月・第3火定休 
※完全予約制

nopeシェフ高木祐輔さんRecommend
長崎県「pesceco」

(左上)pesceco に設えられた横長の窓。島原の海の眺めもごちそう (右上)料理には海の幸がふんだんに盛り込まれている。多比良ガネ(ワタリガニ)の手延べ素麺 (左下)地元産の鮑を使った1皿 
■Profile 高木祐輔(右下)。高校卒業後、ザ・ペニンシュラ東京の広東料理店「ヘイフンテラス」へ。7 年にわたって腕を磨き2020 年に退社。現在、「nope」にてシェフを務める

島原の海沿いに立つレストラン
井上シェフの仕事への姿勢に感動

これまで訪ねたお店のなかで強く印象に残っている一軒が、長崎県島原市の「pesceco」。オーナーシェフの井上稔浩さんと私は、2019 年の料理人コンペティションRED U-35でともにゴールドエッグ賞を受賞。このとき初めて井上さんとお会いし、中華以外のジャンルの一流シェフの考え方、島原や地方ガストロノミーに対する思いに感銘を受けて、いつか食べにいきたいと思うようになったんです。

そして3年前、連休を取って、料理の勉強のため九州へ。pesceco にも訪れることができました。井上さんの仕事は、毎朝山に島原の水を汲みに行くところからスタート。料理の素材には島原近郊の海の幸、山の幸を選び、“ここでしか味わえない感動”を与えてくれます。これは東京で働く私にとって衝撃でしたし、“東京だからこそ体験できる店”を作りたいと考えるきっかけにもなりました。

井上さん夫妻の心温まる接客も魅力。心地いい時間があっという間に過ぎていきます。車でも来店はできますが、できれば島原鉄道で。車窓の風景が素晴らしく、お店に着くまでの気分が上がります。列車なら、アルコールのペアリングも堪能できますしね。

〈長崎県〉
pesceco

ペシコ 
TEL.0957-73-9014 
住所/長崎県島原市新馬場町223-1 
営業時間/12:00入店※一斉スタート
定休日/日・月定休、不定休あり
※完全予約制

ACIÉ coffee and wine代表 岩井悟さんReccomend
静岡県「キャラバン」

(左上)フランスの街角にあるビストロを思わせる店構え (右上)野菜のうまみを堪能できる野菜のテリーヌ (左下)鹿の炭火焼きとガルニチュールの熟成ジャガイモ。やわらかい赤身と芋の甘味が相性抜群 
■Profile 岩井悟(右下)。麻布台のフレンチ「Restaurant Florilège」から独立し、中小企業レストランのコンサルタント業を営む。2023 年4 月、神楽坂に「ACIÉ coffee and wine」を開業

食べた瞬間、ときめいた
野菜のテリーヌが絶品のビストロ

昨年、神楽坂に「ACIÉ coffee and wine」をオープンしました。コンセプトは「カウンターでお客さんから話を聞き、セッション
をして、好みにあったドリンクを“処方する”」。お客様との会話から好みを探っていき、信頼できるお店から仕入れたナチュラルワインやコーヒーを提供しています。

私が選ぶ名店は、ACIÉの常連さんに紹介してもらった静岡のビストロ「キャラバン」。新鮮な食材と丁寧な料理、それに合わせる繊細なナチュールワインが魅力です。

なかでも日々忘れがちな野菜のおいしさに感動! 昨年6 月に初めて伺いましたが、“ 野菜のテリーヌ”をひと口食べて、その瞬間に心を奪われました。

肉料理もおすすめで、素材は時期によって変わりますが、特に鹿肉が絶品ですね。あと、締めのリゾットも最高。実際にお店を訪ねてほしいので、詳細は秘密にしておきます。

時間があれば、キャラバンの近くにある「創作珈琲工房くれあーる」にもお立ち寄りを。日本のスペシャルティコーヒーの権威である内田一也さんのお店で、スタッフと相談しながら最高品質の豆を購入することができます。ACIÉ でもここのコーヒーをお出ししているんですよ。

〈静岡県〉
キャラバン

TEL.054-255-3539 
住所/静岡県静岡市葵区鷹匠2-25-17 チサンクロスロード鷹匠102 
営業時間/17:00 ~ 23:00(LO) 
定休日/月定休

Sincèreオーナーシェフ 石井真介さんReccomend
北海道「ELEZO ESPRIT」

(左上)料理には手塩にかけて育てられた食材が目白押し (右上)佐々木家の子供たちと遊んで過ごしたことも旅の思い出 (左下)周囲には海と平原。なにもしない休日を楽しむ非日常な旅に癒やされる 
■Profile 石井真介(右下)。「オテル・ド・ミクニ」「ラ・ブランシュ」などの名店で経験を積み、渡仏。帰国後「レストラン バカール」でシェフを務め、2016 年に「Sincère」を開業

命のありがたさを教えられる
ジビエがおいしいオーベルジュ

Sincère では僕自身が可能な限り生産地を訪れ、現地の風景や空気を肌で感じたうえで料理をして、それをお皿の上に再現したいと考えています。

そんな僕が昨年家族と訪れたのは、北海道豊頃町のオーベルジュ
「ELEZO ESPRIT」。全国の有名レストランにジビエを卸していて、Sincère には主に鹿肉を届けていただいています。代表は、ご自身で狩猟から生肉処理、食肉加工までをトータルで行う、料理人でもある佐々木章太さん。

周囲に広い海と平原が広がる大自然の中にあるオーベルジュは、東京ドーム2 個分の敷地にレストラン、宿泊棟、ラボラトリー、豚や食鳥を育てるファームなどが備えられています。食事はフレンチをベースにしたコース料理。食材はジビエやELEZO社の放牧豚
が中心で、食事しながら命のありがたみや、食のあり方についていろいろと考えさせられました。

都会のレストランでは味わえない何かを感じられる場所と言えます。波音を聞きながら何もしないで過ごす時間も心地よかった。息子は佐々木家の子供たちと遊んでいて、ずっと帰ってきませんでしたけど(笑)。前回は夏に訪れましたが、すべての季節を体感してみたいですね。

〈北海道〉
ELEZO ESPRIT

エレゾ エスプリ 
TEL.070-1580-1010 
住所/北海道中川郡豊頃町大津127 
営業時間/18:30~※一斉スタート 
定休日/無休 
※完全予約制

WRITING/MIE NAKAMURA
※メトロミニッツ2024年4月号より転載 

※記事は2024年2月22日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります