鹿児島県のいちき串木野市は焼酎蔵が集まる地。そこで焼酎好きが高じて「焼酎ツーリズムかごしま」を企画・運営する小林史和さんと、大和桜酒造の若松徹幹さんに焼酎とよく合うローカルフードを教えてもらいました
刺身、鶏刺しだけじゃない。スイーツにだって焼酎は合う
いもくさくて、甘やかな
いちき串木野の焼酎とともに
普段、ほとんど焼酎を飲まないのだけど、鹿児島に行くと、鹿児島の焼酎しか飲みたくなくなる。その土地でできた酒が、その土地の空気や水、郷土食とよく合うことはわかっているものの、普段口にしないものを強烈に欲するほど、人の嗜好を変えてしまうのだからおもしろい。
いちき串木野は、個人経営の蔵が多く、大和桜酒造や白石酒造のように、若手の杜氏が新しい風をとともに酒造りしていることでも注目されている。
8年前、焼酎に導かれるようにいちき串木野への移住した「ALUHI」代表の小林史和さんに、焼酎がおいしく飲める店を教えてもらった。
数ある名居酒屋の中でも小林さんがいちばんに推す「ほり川」は平日でも大変なにぎわい。「素材がよければおいしくなるんですよね」とにこやかに笑う店主の坂下亮太さんが、市場を回って仕入れた近海の魚の刺身や煮付けなどが人気だという。
刺し盛りを頼むと、ホシガツオ、ブリなど、脂がのった魚が登場した。身がぶりんと硬い新鮮な魚を、この土地ならではのねっとりと甘い刺身醤油で食べるのが、いつの間にかおいしいと思うようになってきた。
いちき串木野の醤油は、つけあげ同様しっかり甘い。この醤油の甘さこそが、鹿児島で焼酎を飲みたくなる要因なのではないかと考える。醤油の甘さは、脂がのった刺身のうまみをねっとりと増幅させる。そこに焼酎を流し込むと、いもの風味が刺身と醤油のうまみに同調しながらも、ささっと脂を流してくれるのだ。
「焼酎って、日本酒と違いアミノ酸などの成分がないから、食材のうまみを増やすことはないんです」と、大和桜酒造の若松徹幹さん。「でも、いもの甘さや香りはあるから、焼酎ならではの素材への寄り添い方があるんですよね。刺身に焼酎を合わせると、おいしいじゃんってやっぱりなる。甘い醤油の存在も大きいと思います」
そんな若松さんが、最近注目しているのは、自家配合飼料とともに平飼いで鶏を飼育しているヤブサメファームの鶏刺し。
「薩摩鶏本舗 とり魂 いちき串木野」では、鶏焼きは自社ファームの、鶏刺しではヤブサメファームの鶏を使用。鶏刺しは、新しいブランド鶏「黒さつま鶏」と地鶏「ごいし鶏」の食べ比べができる。
鶏刺しの食べ比べなんて初めてだったけれども、前者はぷりっとした歯応えで、後者はホルモンのような弾力がある。食感はそれぞれ違うのだけど、味わいは両者ともうまみが強く、いもの風味をしっかりと感じられる大和桜のお湯割りがするする進む。
続いて「ぜひ試してもらいたい組み合わせがあるんです」と小林さんに薦められたのが、焼酎×スイーツのペアリング。
連れて行ってくれたのは、町の人から愛されるケーキ店「YANO CAKE TEN MOKU」。ショーケースには、店主・矢野武さんがつくる、見るからにおいしそうなケーキが並んでいる。小林さんは「あっさりしたものよりも、濃厚なケーキがおすすめ。
特にガトーショコラがよく合うんです」と自信満々に言うけど、なにせ食べたことのない未知の組み合わせ。最初は半信半疑だったけれど、口にしてみて驚いた。なんだ、これ、めちゃくちゃおいしい。
合わせたのは、白石酒造の天狗櫻のロック。焼酎とともにある深いいもの味わいが、ガトーショコラの濃厚な甘さをふんわり包み込むかのよう。食べ終えたあと、キレのある余韻までもがすっきりとして美しい。
聞くと、ガトーショコラのチョコレートクリームには、脂肪分の高い生クリームとともに、香り付けでラム酒が使われているという。なるほど、いろいろな食材が呼応して、響き合っているのだろう。
いちき串木野ならではの共演に、うっとり酔いしれた。
取材させていただいたお店はこちら
+SASHIMI◆ほり川
TEL.0996-26-0550
鹿児島県いちき串木野市元町177
営業時間/18:00~22:00(LO) 金・土 ~23:00(LO)
月定休
+CHICKEN◆薩摩鶏本舗 とり魂 いちき串木野
TEL.0996-29-3330
鹿児島県いちき串木野市湊町1-30
営業時間/11:30~14:30、16:30~22:30
月・第1火定休
+SWEETS◆YANO CAKE TEN MOKU
TEL.0996-32-7806
鹿児島県いちき串木野市春日町18
営業時間/11:00~18:00
月・火定休
今回ご案内いただいた方々
▼小林さん>>『ALUHI』代表 小林史和さん
山梨県甲府市出身。2016年「焼酎が好き」という理由で、地域おこし協力隊としてIターン。移住パンフレットとしてフリーマガジン『ALUHI』を作成。自由度の高いの焼酎蔵巡り「焼酎ツーリズムかごしま」を毎年2月に企画・運営。
ALUHIInstagram
▼若松さん>>「大和桜酒造」代表 若松徹幹さん
江戸時代末に創業した「大和桜酒造」の代表兼杜氏を務める。焼酎王国・鹿児島で最も小さな蔵のひとつながら、国内外に多くのファンを持つ。「重く造って軽く売る」をモットーにニューでクラシックな味わいを求めて、今日も社長自ら芋を洗う。
大和桜酒造Instagram
PHOTO/MEGUMI SEKI WRITING/KAYA OKADA
※メトロミニッツ2024年3月号より転載