埼玉県深谷市、ベジタブルテーマパーク

【埼玉・深谷】野菜とのトキメキを取り戻す! センチメンタル・ベジタブル・ジャーニー

更新日:2023/08/01

埼玉県深谷市が、まち全体を野菜のテーマパークに見立てて「ベジタブルテーマパーク フカヤ」を名乗りはじめたことをご存じですか? 「ベジタブルテーマパーク」がどのくらい本気のテーマパークなのかを確かめるべく、文筆家のワクサカソウヘイさんが深谷へ。野菜が苦手というワクサカさんが、野菜と遊び、野菜と仲直りする1泊2日の旅に出ました!

トキメキ SPOT01 > 道の駅 おかべ

左/『NOLA 深谷のめぐみ食堂』の煮ぼうとう1580円。煮ぼうとうは、野菜と幅広麺を一緒に煮込んだ深谷の郷土食。カレー煮ぼうとう1880円や、夏季限定の冷たいサラダ煮ぼうとう1880円など、嶋田純喜シェフ考案の創作メニューもおすすめ。いずれもビュッフェ付きで提供 上右/名物は深谷ネギと渋沢栄一のみにあらず! とばかりに地場野菜への愛情とプライドを発信中の『道の駅 おかべ』。初夏~7月上旬はトウモロコシが主力品 下右/地元生産者が毎朝、農作物を納品する直売所。山積みのトウモロコシ「味来(みらい)」は、開店直後からみるみる売れていく大人気商品

もう一度、トキメキたくて!
旅に出たのは野菜のまち・深谷

埼玉県の深谷市にいた。野菜との倦怠期を打破するためである。積極的にベジタブルと関係を結ばなくなった最近の私である。ビタミンとやらが健康維持のために必要不可欠なことはわかっているので、たまにサラダを作ったりはしているが、それは毎度毎度レタスとドレッシングを適当に和えただけのテンションの低い一皿。ああ、私と野菜はマンネリに陥ってしまっている。かつては蜜月もあったはずなのに。

そんな折、深谷市が自らに異称を与えていることを知った。その名も「ベジタブルテーマパーク フカヤ」。なんだかテンションの上がる響きだ。野菜とデートするようにその「ベジタブルテーマパーク フカヤ」を旅すれば、もしかしたら愛の再発見が叶うかもしれない。いつの間にか開いてしまった野菜との切ない距離、それを縮めることができるかもしれない。そんな感傷に走り、深谷市へと足を運んだのである。

最初に訪れた『道の駅 おかべ』。そこでさっそく私は、「ベジタブルテーマパーク」の実力を思い知ることになる。待ち受けていたのは、糖度抜群トウモロコシ、超新食感モヤシ、強い緑に染まったブロッコリー、口当たり大爆発ミニトマトなどなど。

左/特産のネギを活かした『道の駅 おかべ』渾身の新メニュー、深谷ネギソフト480円。粉末ネギの風味と凍らせた刻みネギの辛みが、バニラと意外にも好相性 上右/地元の蔵元をはじめ豊富な地酒が勢揃い 下右/文字通り『道の駅 おかべ』の軒先を借りて、買ったばかりの野菜を使ってピクルスを作る筆者、ワクサカソウヘイさん

キャラ立ちした野菜たちが、エレクトリカル・ベジタブル・パレードといった感じで販売所に高密度で陳列されている。見れば「深谷ネギのソフトクリーム」なんていうクリティカルなアトラクションまで用意されているではないか。熱に浮かされ、珍しい色合いのズッキーニなどを鼻息荒く購入していく。野菜でこんなに気分が高揚したのは、いつぶりだろうか。

併設されたレストラン「NOLA(ノーラ)」でいただいたのは深谷産の野菜をふんだんに使った煮ぼうとう。それは本当に「ふんだん」で、麺に辿り着くまでに野菜の深い森をくぐり抜けていかなければならない。まるでジャングル・ベジタブル・クルーズ。店内には色彩豊かなサラダバーもあって、口を忙しくしながらその多面的なテイストを堪能する。ああ、野菜って、こんなに美味しかったんだな。

サービス精神と栄養価に満ちたグリーン・グリーティングを済ませると、私は持参した瓶にビネガーを注ぎ、そこに先ほど購入したズッキーニなどを漬け込んだ。簡易的なピクルスを作るためだ。今回は一泊二日の旅行。このピクルス瓶と共にデートをしながら「ベジタブルテーマパーク」を巡り、野菜との親密な情緒を取り戻してみたい。

ホテルにチェックインして、部屋の冷蔵庫に瓶を入れる。野菜はゆっくり酢に漬かり、私はゆっくり眠りに就く。見るのはきっと同じ緑黄色の夢。同室での秘め事、野菜と私はすでにただならぬ関係を織りなし始めている。

道の駅 おかべ

朝採れ地場野菜が並ぶ農作物直売所や、郷土料理を提供する地産地消レストラン、地域の特産品である200種以上の漬物や豊富な地酒が揃う物産センターも。深谷の食のワンダーランド

みちのえき おかべ
TEL.048-585-5001 
住所/埼玉県深谷市岡688-1 
営業時間/[農産物直売所]8:30~19:00 [ふるさと物産センター]8:00~19:00 [NOLA 深谷のめぐみ食堂]11:00~17:30(16:30LO) 
定休日/無休
道の駅 おかべInstagram

トキメキ SPOT02 > 深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム

上/ジャガイモだけで6種、ナスだけで9種と年間約100品種以上が育つ『深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム』の体験農園。大量流通する品種や規格とは異なる野菜にふれることで、色、形、大きさ、香り、味…、野菜の多様な個性に気づくことができる 中左/収穫体験は1人500円、予約不要。量や種類は日々変わるが、旬の野菜やハーブなど複数品種を収穫し、持ち帰ることができる。「小さな野菜もおいしいですよ」と農園スタッフに勧められて、小粒のインカのめざめを収穫。知らなかった野菜の魅力を知る機会に 中右/農業プロデューサーの中村敏樹さんが農園を監修。消費者が多様な野菜の魅力を知ることは意欲的な生産者を応援することにつながるという 下左/農園スタッフの飛田昌男さん。常に笑顔で、縦横無尽に畑を走る 下右/珍しい野菜が充実。キャベツやブロッコリーと同じアブラナ科の野菜、コールラビも収穫。丸くふくらんだ茎を食べる

飛び込み参加の収穫体験で
レア野菜とトモダチだ!

あくる日。ピクルスと手をつないで向かったのは、マヨネーズでおなじみのキユーピーが設立した『深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム』。広大な畑が広がり多種多様な野菜が栽培されているここでは、ワンコインで収穫体験をすることができる。予約は不要、手ぶらでもOKなので、思いつくままラフに野菜を土から引っこ抜くことが可能。この気軽さ、野菜との距離がぐっと近くならざるをえない。エクスペリエンス型ベジタブルショーの登場に胸が高鳴る。

畑を見渡すと、スイスチャード、カリーノケール、スティックセニョールなど、日常では見慣れない野菜の姿が目立つ。聞けばここでは「レア野菜」の生産にも力を入れているのだという。そんな中でも目を引いたのは、コールラビという奇妙な作物。なんだかモンスター感のある風貌のそれを、「キミはトモダチ!」とばかりに収穫する。それを片手に携えれば、なんとも愛しいパートナー。本当は肩とかに乗せて歩きたい。

上/『深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム』のレストランのシェフズ サラダ1750円は、最適な調理方法で野菜ごとのおいしさを最大限に引き出す、三品護輝シェフの技に感服! 中左/ゆったりとした空間のレストラン 下左/『深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム』のマルシェの野菜やくだものは、深谷市近隣の農家を中心に仕入れている。ネギは立てたり、ジャガイモは遮光箱に入れたりと、それぞれの野菜に適した方法でディスプレイ 下右/オリジナルのポン酢や焼き菓子、野菜セットのほか、地元生産者が作る調味料なども購入できる

隣接するマルシェ内に展開されているのは、魅惑の野菜ルーム。メジャーベジタブルからルーキーベジタブルまで、幅広い層の野菜たちが工夫を凝らしたディスプレイの中でキラキラと輝いている。

その隣にあるレストランでの一押しメニューは「シェフズ サラダ」。十五種類以上もの野菜によって構築されたそのプレートには、漬ける・焼く・茹でる・揚げる・潰す・煮るなどといった様々な調理法のレイヤーが複雑に絡み合っていて、まるで宇宙。スペース・ベジタブル・マウンテンだ。苦手としているニンジンにフォークを伸ばしてみれば、思わず声を上げたくなるような鮮やかな甘みが口の中に広がる。美味しい、マッシュされたポテトも、深谷ネギのカルソッツ(※)も、美味しい。サラダだけでこんなに満足感が得られるなんて、未知の経験。なんだかドキドキしてきた。

※ スペインのカタルーニャ地方で冬に食べられるネギ。そのネギを使った炭火焼き料理を指すことも

深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム

「野菜にときめく、好きになる! みんなの笑顔を育むファーム」がコンセプト。収穫体験や野菜教室、食を通じて野菜のおもしろさを再発見できる、新感覚の体験型パーク。最新の情報はSNSでご確認を!

ふかやテラス ヤサイななかまたちファーム
TEL.048-580-7550
住所/埼玉県深谷市黒田字上反54 
営業時間/[体験農園]9:00~17:00 [マルシェ]9:00~18:00 [レストラン]ランチ11:00~17:00(16:00LO) ディナー18:00 ~ 21:00(金・土・日、完全予約制) 
定休日/不定休 
深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム Instagram

トキメキ SPOT03 > 畑 to Kitchen Café

上/『畑とキッチンカフェ』のカフェタイムの人気メニュー、農園野菜のマルゲリータ1540 円。生地は知人のイタリアンのシェフによる手作り。自家製トマトソースのうまみと酸味も絶妙 下左/囲炉裏のある部屋で、自家焙煎のコーヒーを堪能しながらオーナー・川田勉さん(左)に農園の歴史を聞く筆者 下右/コーヒーはかまどで沸かしたお湯で1 杯ずつハンドドリップ。かまど炊きごはんと農園野菜のランチも人気(要予約)

江戸時代から続く農園の恵み
生態系を味わう絶品ピザ

野菜の底知れぬ味わいをさらに知りたいと最後に向かったのは、『畑とキッチンカフェ』。そこはオーナーの川田勉(かわたつとむ)さんが地域の農園と連動的に経営しているレストランカフェで、採れたての野菜を使ったメニューが提供されている。

かつて養蚕の作業場所として使われていた蔵を改築した居心地のよい空間で、囲炉裏を前に試したのは、ルッコラやバジル、ミニトマトやベビーリーフがどっさりと乗ったピザ。口に運んでみれば、その野菜たちの軽やかで艶っぽい美味しさに驚く。舌の上で甘露がパッと咲いて、そして瞬間的にスッと溶けていくではないか。湧水を飲んでいるかのような感覚でピザを食べたのは初めてのこと。夢と魔法のテイストがそこにはあった。

上/暖簾が掛かった、白壁と瓦屋根の門が目印の『畑とキッチンカフェ』 下左/蔵を改修した「くらンピング」施設も準備中。完全なるプライベート空間で、サウナや中庭でのアウトドア料理を楽しめるほか、オーベルジュ利用も。年内開業を予定 下右/軒先では、朝に『豊土の里農園』で採れた新鮮な野菜を販売。野菜作りは、義兄の浅見正之さんの担当 

こうした野菜の魅力から、どうして長いこと目を逸らしていたのだろうか。ごめんよ、ベジタブル。切なる情動を揺らしつつ、カフェの庭に飛んでいるミツバチに別れを告げて、私は東京へと帰路についた。センチメンタル・ベジタブル・ジャーニーはこれにて終了である。

自宅に戻り、一泊二日を共にしたピクルス瓶を開ける。ズッキーニたちはちゃんと酢に漬かっていた。甘酸っぱい風味が口の中に広がる。好きだ、野菜。

やり直せる、私と野菜は、やり直すことができる。互いの距離を近づけて、生活を新たに紡いでいける。それが旅の終わりの感慨だった。

畑 to Kitchen Café

築100 年超の蔵を改修した古民家農園カフェ。手がける『豊土(とよと)の里農園』は江戸時代から7代続く農家。貸し農園や食育、農育にも取り組み、畑と台所と人を結ぶ、コミュニティ的な存在

はたけとキッチンカフェ 
TEL.なし
住所/埼玉県深谷市成塚231
営業時間/10:30 ~ 17:00 ランチ11:00 ~ 14:00(予約優先) カフェ14:00 ~ 17:00 エンジョイタイム18:00~ 21:00(金・土、要予約) 
定休日/水・木・第4金 ※予約はWEBから
豊土の里農園 Instagram

旅人・文 ワクサカソウヘイさん

作家・脚本家。1983 年、東京都練馬区の農家の孫として誕生。文筆業のほかに舞台やコントライブの構成作家としても活動。最新刊は『出セイカツ記』(河出書房新社)。好きな野菜の食べ方は浅漬け、ピクルス

PHOTO/KAZUHITO MIURA
※メトロミニッツ2023年8月号「野菜と暮らしのディスタンス?」より転載

※記事は2023年8月1日(火)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります