東京都、大田市場、淀橋市場、青果市場、卸売市場

【東京】青果市場の食堂がおいしいわけ_淀橋市場と大田市場

更新日:2023/07/20

青果の流通の一大拠点である、卸売市場。場内にある食堂は、日々市場で働く人たちの胃袋を支えています。今回訪れたのは、新宿区にある青果市場・淀橋市場で72年の歴史を刻む『伊勢屋食堂』と、日本最大の青果市場・大田市場で33年にわたり愛され続ける『味の店 双葉』。それぞれの店主に、なぜこんなにおいしいのか? その理由を聞きました。

淀橋市場で72年。『伊勢屋食堂』の生姜焼食べ比べ定食の場合

豚バラ・ロースの生姜焼食べ比べ定食1250円。ごはんと味噌汁、お新香付き。小鉢はトマトの酢漬け200円、ゴーヤスライス、冬瓜きんぴら各150円

八百屋さんたちの歴史と
お客想いの真心があるから

淀橋市場は、大田、豊洲に次ぐ、都内3番目の取扱量を誇る青果市場。その南門から市場の熱気を横目に少し歩くと現れる、藍染めの暖簾。それが『伊勢屋食堂』の目印です。

定番の生姜焼は、生姜の風味をまとった肉はもちろん、タレに浸った千切りキャベツでまたごはんが進みます。作り方は少し特殊で、焼くというよりスープで肉を煮て、最後に生姜をすり入れて仕上げます。市場に買い出しに来る八百屋の店主は高齢者が多く、歯が悪いのでやわらかくしてくれと頼まれて、このスタイルに落ち着いたそうです。彼らは野菜にも人一倍厳しいといいます。

「だからサービスで出しているお新香も、国産野菜を厳選しています。このご時世に少し大変なんですけどね」と2代目店主の田中博(たなかひろし)さんが笑顔を見せます。

上/黒板書きのメニューなど昭和情緒が漂う、伊勢屋食堂 下/藍染めの暖簾が目印

時代は移り、今では八百屋に代わって、6年前に舞台になった人気ドラマのファンやSNS を見て訪れる若者の来店が増えました。遠方から足を運ぶ彼らが一度に楽しめるように、こってりとしたバラ肉とあっさりとしたロースの相盛りも開始。当然、手間は増えます。

最近は魚料理にも力を入れていて、仕込みで泊まり込みになることもしばしば。そこまでする理由を博さんに問うと、「一人ひとりのためにおいしい料理を作りたい。私の真心です」。返ってきたその声は、朗らかでした。

伊勢屋食堂

いせやしょくどう 
TEL.03-3364-0456
住所/東京都新宿区北新宿4-2-1 
営業時間/5:00 ~14:00LO 
定休日/日・祝定休 ※休市日に準ずる ※水不定休
伊勢屋食堂 WEB

※淀橋市場へお越しの際は、伊勢屋食堂に近い「南門」からご入場ください。また、市場で働かれている皆さんの通行の妨げにならぬよう十分にご注意ください

大田市場で33年。『味の店 双葉』の生のあじフライ定食の場合

大田区、大田市場、味の店双葉
生のあじフライ定食1000円。長野県産コシヒカリのごはんと味噌汁、小鉢のサラダとお新香付き

市場の皆さんの優しさに
支えられているから

創業は昭和35(1960)年。秋葉原にあった神田市場の閉鎖、移転とともに引っ越して、大田市場の開設の1年後からこの地で営業を続ける『味の店 双葉』。

生のあじフライ定食は、ザクっと粗めの衣に、ふんわりとした肉厚のあじ。そびえ立つ2尾のフライで隠れた千切りキャベツも、小鉢のサラダも、野菜がシャキシャキしています。

場内だから新鮮な食材が手に入るのですか? と尋ねると、2代目店主の佐久間健一(さくまけんいち)さんは「市場の皆さんの優しさに支えてもらっているんですよ」と謙遜します。

大田市場は、青果、水産、花きの3部門が揃う総合市場。先代の頃から付き合いのある場内の仲卸から質のいい野菜や魚を毎朝仕入れているそうですが、それを市場の優しさがあっての味と値段だと言うのです。

上/短冊に書かれたメニューを読むのも楽しい『味の店 双葉』 左下/お店があるのは大田市場の関連棟。店前の黒板には日替りメニューも

お客は農協職員や長距離トラックの運転手が中心。毎日通ってくれる人が飽きないようにと、日替り定食や煮物などの一品も日々内容を工夫します。すべて手作りで、冷凍品は決して使いません。一日5本はすり下ろすという大根おろしは、うれしいサービス。母親の美恵子(みえこ)さん手製のお新香も絶品です。

市場の優しさに支えられている、と健一さんは言うけれど、双葉もまた、その優しさで市場のために働く人たちを支えています。

味の店 双葉

あじのみせ ふたば
TEL.03-5492-2882
住所/東京都大田区東海3-2-7 
営業時間/6:00 ~13:30LO 
定休日/日・祝定休 ※休市日に準ずる ※水不定休

※大田市場へお越しの際は市場で働かれている皆さんの通行の妨げにならぬよう十分にご注意ください

Photo:YUJI IMAI Text:TOMOMI FUKUDA
※メトロミニッツ2023年8月号「野菜と暮らしのディスタンス?」に加筆して転載

※記事は2023年7月20日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります