2020年から未曾有の事態に直面した東京の街。しかしそんな中でも東京はどんどん進化を遂げていたのです。食を中心としたキーワードで2020から2022年を一気に振り返り、東京の“今”をキャッチアップできる内容をぎゅっと濃縮してお届けします。
【2020/KEYWORD】イノヴェーティブ×各国料理
革新的なプレゼンテーションで繰り出される各国料理は、世界的なトレンドに。2020年、日本でもエポックとなるレストランのオープンが続きました。それまで表面的にしか知られていなかった一部地域のローカル料理が持つ想像以上の奥深さは、新鮮な驚きにあふれています。今後も止まりそうにない、意欲的なシェフたちの勢いに注目です。
五感で味わう“旅する”料理で
まだ見ぬネパールと出会う
昨今、存在感を増すネパール料理。その先陣を切り、ネパール料理を美食の域に引き上げた立役者こそ店主の本田遼さんです。料理の核となるのは、民俗学者ばりのフィールドワークから学んだ現地のリアルな食文化。2020年の開店当時はローカル色の強い日常の料理がベースでしたが、現在は趣向を変え、民族やエリアをテーマにしたストーリー性のあるコースを提供。
「ネパールは30以上の民族が暮らす多民族国家。隣同士の村でまったく違うくらい、食文化も多様なんです」と話すのは、遼さんの妻・真理さんです。例えば、現在提供する西ネパール・ドルポ地方がテーマのコースなら、標高4000mの山岳地帯を4日かけて歩いた2人の旅程を、料理を通して追体験。息を飲むほど美しい青い湖は、全粒粉で打った麺「テントゥク」の1皿に。
その場で摘んでハーブティにした満開のヒマラヤンローズは、花びらが浮かぶ爽やかなカクテルに……。「現地でしか感じられない香りや空気を、料理から感じてもらえたら」。遼さんが開店時から掲げる目標は、ネパールに店を開き、ネパール料理を世界から注目される存在にすること。あふれるネパール愛を原動力に、料理人の枠にとどまらない探求の旅を淡々と続けます。
OLD NEPAL TOKYO(オールド ネパール トウキョウ)
TEL/03-6413-6618
住所/東京都世田谷区豪徳寺1-42-11
営業時間/11:00~14:00(LO)、18:00~22:30
定休日/火・水(祝を除く)、不定休あり
※要予約、ディナーはコースのみ、内容は3カ月ごとに変更。予約はTableCheck から受付
【2021/KEYWORD】立ち食い寿司
高級店とカジュアル店の二極化が進んだ寿司業界。高級店は予約が取れない、おまかせのみ、1人3万円以上、となっていく一方、好きなものを自由に、気軽に味わえる立ち食い寿司が支持を集めています。江戸のファストフードとして庶民に愛された寿司の再現かのように、有名店がセカンドライン的にオープンする立ち食い寿司が都内に続出。
行列必至の人気店の立ち食い寿司
“呑める寿司”を日本酒とともに
白金高輪「鮨 龍尚(しょうりゅう)」の店主・田島尚徳さんが、「気軽に江戸前の味が楽しめる立ち食い寿司を」と2021年2月にオープン。使う魚のクオリティは「鮨 龍尚」とまったく同じ。本格的な江戸前寿司をリーズナブルに味わえるとあって、連日1~2時間待ちの行列は必至。インスタで並び状況を確認して行くのがおすすめです。
つまみは真鯛の酒盗1 品で、そのほかは握り(440円~)のみ。1回オーダー制で、伝票に注文を書き込むスタイルです。かために炊いたしゃりを、甘味を抑えた赤酢でキリッとした味わいに仕上げ、お酒に合う“ 呑める寿司” を提供。日本酒は20種以上用意しています。
立喰い寿司 あきら
TEL/070-3293-7491
住所/東京都港区新橋業3-8-5 ル・グラシエルBLDG13号B1F
営業時間/12:00~15:00、17:30~21:00
定休日/不定休
※予約不可
熱き若手が握り込む
遊び心満載の本格立ち食い寿司
目黒の名店「鮨りんだ」の姉妹店。店名は、野球場で投手がマウンドへ出る前に、球を投げ込みウォームアップする「ブルペン」から。寿司職人になって間もない若手たちがこの店で“ 握り込み”、一人前になって羽ばたいていくための場となっています。さらに立ち食いのため、おまかせ5000円、7000円(夜は7000円のみ)とリーズナブル。
本店と同じネタを使った寿司を気軽に堪能できます。おまかせに追加できる「終盤戦」には、隠し球(遊び心のあるスペシャル握り)、満塁(その日のおすすめ握り3 貫)が登場するなど、メニューもユニーク。ペット(テラス席)やベビーカーOKなのも嬉しい。
ブルペン
TEL/03-6426-7970
住所/東京都品川区荏原4-6-1
営業時間/11:30~、13:00~、18:00~、19:30~
定休日/水・木
※電話で予約を推奨
【2022/KEYWORD】フランス料理のクラシック回帰
一部のグランメゾンを除き、モダンフレンチ一辺倒の時代が続いたフランス料理界に変化が。“ド”が付くほどクラシックな料理を提供する店が次々登場しています。目立つのは、しっかりとキャリアを積んだ実力ある若手シェフの活躍。堅苦しくないカウンターの店が多いのも特徴です。
1皿ごとにじわりと滲む
クラシックの揺るぎない底力
「辻調理師専門学校」フランス校を卒業後、日仏双方の名店で経験を積んだシェフ・廣田駿さん。アラン・デュカス氏や「ロオジエ」初代シェフのジャック・ボリー氏がプロデュースする店で働き、巨匠たちのもと腕を磨きました。「特に影響を受けたのがボリーさん。一見なんの変哲もないレシピが、実はグラム単位で研ぎ澄まされ、自分の力以上のクオリティを引き出してくれるんです。しっかり基盤があるからこそおいしく、みんなに愛される。僕にとって、クラシックなフランス料理は“親しみやすいもの” なんです」。
初見の人にアラカルトは難易度が高いからと、提供はコースのみ。が、予約時に分量や好みを丁寧にヒアリングし、緩急付けた構成で、フレンチらしい食べ応えと心地よい余韻を両立させます。6席のみの新店ながら上質な食材を贅沢に使えるのは、長く培った仲卸との関係性の賜物。シェフの堅実なキャリアが結実した小さな隠れ家です。
LA CIOTAT(ラ シオタ)
TEL/080-3073-0179
住所/東京都文京区音羽1-22-18 東急ドエルアルス音羽2 1F
営業時間/18:00 ~ 22:30(22:00LO)
定休日/日・祝、不定休あり
※要予約
フランスの伝統的郷土料理に
現代的な感性をプラス
現在36歳のシェフ・野中靖幸さんが提供するのは、フランスの地方で脈々と受け継がれる古きよき郷土料理。「クラシックの一番のよさはおいしいこと。それは毎日食べ続けられてきた家庭料理の延長だから。きちんと手間を重ねてできたての料理を出したいし、雰囲気や会話も楽しんでほしいんです」。
代官山の名店「レストラン パッション」で副料理長を務めた後、フランスの「ポール・ボキューズ」などを渡り歩き、若くして独立した野中さん。クラシカルな中にも、フレッシュな感性がきらりと光ります。ボリュームのある料理には、水分量の多い野菜でみずみずしさを加えて。バターや生クリームを使い分け、満足感の中に軽やかさを忍ばせるのもお手の物。おいしさに舌鼓を打つお客さんのすぐ向こうで、シェフが生き生きと手腕を発揮する。毎夜のそんな光景はコンセプトに掲げる「食べる幸せ、作る楽しさ」そのものです。
N'onaka(ノナカ)
TEL/03-6421-0825
住所/東京都港区西麻布2-8-11 西麻布ビル1F
営業時間/16:00~23:00(22:00LO)
定休日/不定休
※席料1,000 円
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI,KAZUHITO MIURA,MIHO NORO Text/RIE KARASAWA,SHINO KAWASAKI
※メトロミニッツ2023年6月号特集「TOKYO CITY JOURNAL 2023」より転載