メトロミニッツ、北海道東川町、旭川家具

椅子の町・北海道東川町に息づく、木工椅子の記憶をたどる旅

更新日:2023/04/20

旭川空港から車で約10分。北海道のほぼ真ん中、大雪山連峰の主峰・旭岳のふもとに広がる東川町。1985年から写真を切り口に町づくりを行ってきた「写真の町」として、また北海道を代表する米どころとして知られています。そんな東川町のもうひとつの顔が木工家具。町に座りたくなる場所が点在する「椅子の町」でもあるのです

メトロミニッツ、北海道東川町、旭川家具、大雪山連峰旭岳
ロープウェイで登れる旭岳5合目付近はGW頃まで雪景色。東川町ではこの雪解け水が全家庭の生活水に

木工家具に触れて親しめる、座ることが楽しくなる町

北海道でいちばん高い山・旭岳を中心とした大雪山連峰が見渡せる東川町。日本各地で地域おこしがブームになるずっと前から「写真の町」を掲げるなど、独自の町づくりを進めてきました。その成果もあって、移住者は年々増加。1994年に約7000人だった人口が、今では約8500人に。

山岳風景や田園風景など美しい景観を残しながら、若い世代が営むカフェや雑貨店も増えてきて、のんびりしたムードの中に、穏やかな活気が満ちあふれているような、心地いい空気が漂います。

メトロミニッツ、北海道東川町、旭川家具、北の住まい設計社
美しく整理整頓された「北の住まい設計社」の工房。木材は敷地内の倉庫で乾燥を行い、しっかり乾くまで4年を費やす木材も 

そんな東川町に古くから根付くのが木工家具。日本五大家具産地のひとつ、旭川市とその周辺地域で作られるのが旭川家具で、町内には木工事業所が30軒以上。旭川家具の約30%がこの町で生産されています。

メトロミニッツ、北海道東川町、旭川家具、バウ工房
「アートクラフト バウ工房」のショールーム

今から100年以上前、大雪山系の森の樹木を伐り出して、生活道具を作ったことから始まった旭川家具。東川町では、農家の人々の冬の仕事として広まりました。転機となったのは1954年、北海道を中心に大きな被害をもたらした洞爺丸台風。

町に散乱した倒木を有効に活用しようと、家具の生産を本格的にスタート。以来、タンスなど箱型の大きな家具を中心に、家具の産地として発展しました。近年はテーブルや椅子といった生活により密着した家具を、職人たちが思い思いに作っています。

メトロミニッツ、北海道東川町、旭川家具、せんとぴゅあ
「せんとぴゅあ」の図書スペースでは北欧の名作椅子(現行品)にも座れる

そうした木工家具文化の発展を町がサポート。地元の人々の日常にも浸透し、町を歩くと座ることが楽しくなるスポットが次々と現れます。

町の交流施設「せんとぴゅあ」には、東川で手作りされた椅子を町に生まれた新生児に贈る「君の椅子」の歴代シリーズの展示や、椅子研究家・織田憲嗣さんが収集した世界の名作椅子などからなる「織田コレクション」を常設展示するギャラリーが。東川のさまざまな工房が製造した椅子に座って、読書、勉強、仕事をできる図書スペースもあります。

メトロミニッツ、北海道東川町、旭川家具
町中に掲げられた木彫看板

さらに町中には東川の家具を取り入れた飲食店や宿泊施設も。それらを巡りながら、好きなデザインを見つけたり、座り心地を比べたりしてみると、座ることへの意識が目覚めて、いつもはなにげない座るひとときが、特別な時間になっていくようです。

【CHAIRS COLUMN】座りたくなる椅子の話

左上/せんとぴゅあⅡに飾られた歴代の「君の椅子」 右上/「学びの椅子」もせんとぴゅあⅡで見ることができる 左下/隈研吾氏がデザインし町内家具事業者が製作した椅子「スケスケ」 右下/第1回大会で隈研吾賞を受賞した杉原有香さんの作品「Grasp」

■4月14日は「椅子の日」
子供の頃から家具や木工に触れ、自然とともに暮らす文化をはぐくむための取り組みを行う東川町。2021年には4月14日を「椅子の日」に制定。家具や椅子に感謝する習慣と文化を創造していくことを目指しています

■生まれてくれてありがとう「君の椅子」
「君の居場所はここにあるよ」との思いを込め、新生児に椅子を贈呈。製作は町の工房、毎年異なるデザインは美術家や建築家が手がけます

■卒業式は証書と椅子を授与「学びの椅子」
中学校では生徒1人ひとりが東川で作られた自分専用の椅子で学校生活。それぞれが3年間手入れして卒業記念に持ち帰ることができます

■限定10脚!隈研吾氏デザインの椅子
椅子の日の制定を記念して発表されたのがこちら。デザインは東川にも事務所を持つ建築家・隈研吾さん。製作は町の工房が担当しました

■若手家具デザイナー発掘!「KAGUデザインコンペ」
隈氏と東川町がタッグを組んだコンペで世界中の若者たちから新しい家具デザイン作品を募集。若手家具デザイナーの育成にも取り組みます

PHOTO/MANABU SANO WRITING/MIE NAKAMURA(JAM SESSION)
※メトロミニッツ2023年5月号特集「座り心地のいい町」より転載

※記事は2023年4月20日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります