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【特集・SAKESTAY】注目の6蔵をバスで巡る「焼酎ツーリズムかごしま」/鹿児島県・いちき串木野市&日置市

更新日:2023/01/20

焼酎蔵の数が日本一の鹿児島県。中でも注目は東シナ海を望む西海岸のいちき串木野市と日置市。この地の6つの焼酎蔵をバスで巡って楽しむ「焼酎ツーリズムかごしま」が2月25日に開催。仕掛け人と焼酎の造り手、3人の鼎談から旅の醍醐味が見えてくる!

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(左)LOCAL STANDARD 代表 大木貴之さん/山梨県生まれ。2000年に甲府市に「Four Hearts Cafe」を創業。2008 年に「ワインツーリズムやまなし」を立ち上げ、ワインを飲む文化と産地を散策する楽しみを提唱。鹿児島の焼酎を軸にツーリズムを行う今回はアドバイザー的な立場
(中)大和桜酒造 杜氏 若松徹幹さん/鹿児島県生まれ。広告代理店勤務を経て、2005年より家業の蔵で焼酎造りに従事。「大和桜」の長年のファンの小林さんとは旧知の仲。大木さんの店を10年以上前に電撃訪問し話し込んだことも。今回は見学や試飲ができる焼酎蔵として参加
(右)地域編集者・ディレクター 小林史和さん/山梨県生まれ。「大和桜」はじめ鹿児島の焼酎好きが高じ、2016 年にいちき串木野市地域おこし協力隊として鹿児島移住。現在は地域の魅力を伝える冊子『ALUHI』の発行などで活動。今回のツーリズムでは蔵や地域を結ぶ主導的な役割を担う

焼酎ツーリズムは最強の鹿児島旅

若松徹幹さん(以下若) 焼酎蔵に来ると、芋焼酎がフルーティな香りを持っているのがよくわかるでしょ?

大木貴之さん(以下大) まさにまさに! 今もすごい香ってるよね。

若 実は焼酎の99.8%は、水とエタノール。飲んだときに感じる香りや味はすべて、残りの0.2%に存在し、造り手はみんなそこで切磋琢磨してるんだよね。芋はたくさんの香りのカプセルを含有し、香りの構成が複雑で原料として面白い。あと鹿児島の芋焼酎は単式蒸留だから、芋の味がストレートに出る。芋が傷むと焼酎の味に直結します。

小林史和さん(以下小) 徹幹さんが芋をひとりで洗い、質を自分の目で確認しているのも理由があるんですね。

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【焼酎ツーリズムかごしまで巡れる焼酎蔵01/大和桜酒造】
県内最小に近い規模で、杜氏の若松徹幹さん1人で芋を手洗いし、麹も手造り。「昔ながらの酒造りには不確定要素が多い。でもね、洗練と複雑さの両立が目指す酒質」と若松さん。世界中から上質な酒を選び抜くパリの老舗店「ラ・メゾン・デュ・ウイスキー」が「大和桜」をセレクトするなど高い評価を集めます。博学で熱くて軽妙な若松さんの語りは今回のツーリズムの最大の魅力のひとつかも!

若 鹿児島は火山灰の土地で水はけがよすぎて、平坦なところも少なく、米が栽培しにくかった。でも不利は利でもあって、芋を作り、知恵を絞ってできたのが芋焼酎。火山灰地層は天然のろ過装置でもあり水が綺麗です。だから蒸留酒を水や湯で割って飲む。焼酎って理にかなってるでしょ? この土地に来て飲むと、おいしさがよくわかる酒なんです。

小 鹿児島には112の焼酎蔵があり、その数は全国一。鹿児島と焼酎は切り離せないですよね。地元の方は夏でもポットから注いでお湯割り。

大 小林くんは鹿児島の焼酎に惹かれて移住したぐらいだもんね。

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【焼酎ツーリズムかごしまで巡れる焼酎蔵02/濵田酒造】
最新設備を導入する「傳藏院蔵」、金鉱山の坑洞内で焼酎を熟成貯蔵する「金山蔵」など特色ある3蔵のうち、伝統製法にこだわる「伝兵衛蔵」が今回のツーリズムに参加。刷新したばかりの木桶蒸留器などを見学できます。「チャレンジ精神旺盛で開発も活発」と「伝兵衛蔵」杜氏の原健二郎さん。独自技術で熟成した芋でライチのような香りが広がる「だいやめ~ DAIYAME ~」が大ヒット中。

小 地域おこし協力隊として働いていたとき、県外から来たお客さんをよく、いちき串木野市にお連れし1日ガイドしていました。僕が行って楽しかったところを紹介すると評判がとてもよかったんです。そのときに感じたことが今回の企画の発端かも

若 結局、それなんだよね。友達に紹介してもらいながら旅行するのが最強。インスタなどのSNSが普及して、いちばん欲しい情報はそういうことなんだって、みんな肌感覚で気付き始めているよね。でもツーリズムをやる地元からしたら、闇雲に突っ走るのも怖いから、目標をみんなで共有したい。そこで先生として来てもらったのが、大木さん。

小 大木さんは「ワインツーリズムやまなし」をプロデュースし、15年間も成功させていますよね。参加者が自分で計画を立てて、循環バスを使って、自由に酒蔵を巡るワインツーリズムの手法が、このエリアにも向いているんじゃないかなと思って

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【焼酎ツーリズムかごしまで巡れる焼酎蔵03/白石酒造】
戦後すぐに建てられた風格ある瓦屋根の蔵は、入るとほのかに芳しい香り。代表の白石貴史さんが今、最もこだわるのは芋作りで、15年ほど前から自社で芋を栽培し始め、4年前に無農薬・無肥料に切り替え。「自然な芋のよい味をそのまま焼酎にできるよう苦心。飲めばその土地と、過去や未来も想像できる焼酎が造れたら」と白石さん。多彩な芋の特性を活かした小仕込みシリーズも人気。

大 視察や講演で何度か来たけど、このエリア、めっちゃ楽しいよ(笑)。

小 ワインツーリズムと同様、今回も参加者には「焼酎蔵の資料」や「地域案内冊子&バス時刻表」などが届き、事前に自分で当日の蔵巡りのプランニングをする楽しみがあります。

大 事前の計画中はもちろん、帰った後も「ああすればよかったかも」と思い返し、この地域のことで長い時間、脳内がジャックされるんだよね。

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【焼酎ツーリズムかごしまで巡れる焼酎蔵04/田崎酒造】
初代当主が名水を探し当て、田園に囲まれた風光明媚な地に蔵を建てたのが始まり。建物内は麹造りのドラムやもろみ用タンクなどの大型設備が整然と配され、フューチャーなイメージに驚き。「甕や樽での貯蔵など熟成焼酎にも力を入れています」と製造部門の田代義弘さん。近年は飲み応えを追求した「ツン」や「みとら」、「ぷう」など杜氏入魂の限定流通の銘柄にも注目が集まります。

小 普段は見学が難しい蔵もツーリズムなら行ける。製造現場で試飲したり、造り手と直接会話したら、それぞれの焼酎の細かな違いを強く感じられます。五感で風土を知る体験としても濃厚。蔵を基点に、グルメや地域散策も満喫できますよね。

大 普通の旅行ってサーッと通り過ぎがちだから解像度が低い。でもこのツーリズムの方法だと滞留するでしょ。そうするとスピードが落ちて、旅行の解像度が格段に上がり、土地のおもしろさに気付くんだよね。

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【焼酎ツーリズムかごしまで巡れる焼酎蔵05/小正醸造】
香りの成分を回収するため改造を加えた、県内唯一の横型の蒸留器がある「日置蒸溜蔵」に、手作業で極上の焼酎を生み、地下の甕で多彩な焼酎を寝かせる「師魂蔵」が隣接し、見どころ満載。「遊び心と創意工夫は小正の伝統です」と杜氏の大牟田和宏さん。日本初の樽貯蔵焼酎「メローコヅル」や白ワイン酵母を使った「小鶴 the Banana」などユニークな焼酎でファンを増やし続けています。

若 2月なら焼酎を飲みつつ旬の柑橘を一緒に食べてほしいね。芋焼酎の香りの中に柑橘に似たアロマがあるから。この時期はポンカンが出回り、水割りがよく合う。あといちき串木野が発祥のつけあげも。オイリーな料理とお湯割りは相性抜群。

小 魚介をはじめ食べ物がおいしいし、いちき串木野市には僕も大好きなJAZZ喫茶の名店「パラゴン」やよい温泉もあります。理想は宿泊して、ゆっくり観光してもらえたら。

大 食べて飲み、日を浴び、海や山を見たりするのでも十分。ワインや焼酎はきっかけで、人間の原始的な欲求を刺激して心を震わせられる。

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【焼酎ツーリズムかごしまで巡れる焼酎蔵06/西酒造】
庭を草木が彩り、黒を基調とした純和風の蔵は内部も広く、圧倒されるほど美しい。樽熟成焼酎「天使の誘惑」の1000もの樽が並ぶ貯蔵所も圧巻。蔵全体に8代目現当主・西陽一郎さんの哲学が貫かれています。「焼酎は香りの飲み物。目指す風味から逆算し、多種の芋や酵母、13の蒸留器を使い分けます」と製造部長の田之頭賢二さん。造り手は1~7月は芋と米を栽培し、農にも重きを置きます。

小 造り手も自分のお酒の感想がもらえると刺激になるし、お客さんとお互いに刺激を交換する感じです。

若 このエリアの焼酎蔵の造り手は全員、本当に酒造りが上手。意欲がある蔵元が多く、お互いをライバル視して磨き合っている感覚です。

大 中でもやる気の炎を燃やして焼酎を造る徹幹さんみたいな人の話を聞けるのは最高だからね(笑)。

若 ツーリズムで来てもらうたび、自分が伝えたい話も蓄積されると思うし、それが楽しい。ずっと続けていきたいね。

焼酎ツーリズムかごしまとは?

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「焼酎ツーリズムかごしま」の参加者は当日の試飲用お湯割りグラスと、グラスを収納できる大漁旗をリメイクしたホルダーがもらえる

鹿児島の焼酎と地域を満喫するツーリズム。当日は焼酎蔵、市来駅、伊集院駅、人気物産館「江口蓬莱館」を循環バスが走ります。参加者には事前に、蔵や地域の案内冊子、バス時刻表が届き、蔵巡りの計画を立てるところから旅が始まります。

焼酎ツーリズムかごしま

日時/2023年2月25日(土) 9:00~17:00
開催場所/鹿児島県いちき串木野市&日置市
チケット/7700円(バスチケット・ガイドマップ・お湯割りグラス・オリジナルホルダー込み)
定員/200名
問い合わせ/焼酎ツーリズムかごしま実行委員会 TEL.050-3690-1402
主催/鹿児島県酒造組合 令和4年度焼酎トレイル検討事業/伊集院地区酒造協議会

Photo/ MASAHIRO SHIMAZAKI Text/ ATSUSHI SATO
※メトロミニッツ2023年2月号特集「SAKE STAY」より転載

※記事は2023年1月20日(金)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります