沖縄本島から南西に約430km、飛行機で約1 時間と距離があるゆえに、島独自の食文化を育んできた石垣島。優しくてどこか懐かしいこの島のリアルな日常を求めて市街地へ。八重山そばをはじめ、日中に出会える定番中の定番ローカルフードを、島暮らし10年の早坂妙子さんの案内で巡ります
おやつを買いに、さしみやへ!?
毎日でも食べたい島フードとは
「えいこ」「はるみ」「りょうこ」「よしみ」。実はこれ、さしみやさんの名前。さしみ店、通称「さしみや」は魚屋のことで、鮮魚そのままではなくパック詰めしたおさしみを店頭に並べることから、この名が定着したとか。石垣島の市街地には100mに1軒くらい、まさにコンビニ並みにあちらこちらに点在しています。
さしみやのもうひとつの顔は、みんなが大好きなおやつ、「天ぷら」の販売。石垣の天ぷらはほんのり甘いふわっふわの衣で、芯と呼ばれる具材には島の魚やイカが使われます。買い方は、「天ぷら300円分ください」。しばらく待つと揚げたての天ぷらが紙袋にたっぷり入ってやってきます。
意外と知られていないのですが、石垣島は黒潮の影響でよい漁場があり、マグロやカツオ、ソデイカ、近海ではイラブチャー(ブダイ)、グルクン(タカサゴ)をはじめ、多種の魚が1年を通して水揚げされます。
石垣島近海で獲れた魚は八重山漁協で行われるセリにかけられ、そこから地元のさしみやや飲食店などに運ばれます。さしみやの店名に女性の名前が多いのは漁師の奥さんが営んでいることが多いから。この島では漁師も農家もすぐ身近にいて日々の食とダイレクトにつながっています。
あちこーこー(アツアツ)の内にビールと楽しみたいときは、テラスのある離島ターミナル脇の「マルハ鮮魚」がおすすめ。天ぷらと島魚のさしみで至福の島時間が過ごせます。
島の昼ごはんと言えば「そばか、たまにはそば以外か」というくらい島の人は八重山そばが大好き。人口5万人弱のこの小さな島に製麺所が4社あり、八重山そば選手権には島内30店舗以上が参加して熱い戦いが繰り広げられる、というだけでも十分にそば愛が伝わるのではないでしょうか。
八重山そばの定義は所説ありますが、一般的には丸麺が現在の主流でスープは豚骨かカツオ+昆布、またはそのミックス。そしてその最大の特徴と言えば、食べる直前にかける島胡椒、ピパーツの香り! 沖縄そばでいう紅ショウガの代わりのような存在で、ひと振りすればスパイシーでほんのり甘い芳醇な香りが一気に食欲をかき立てます。
今回訪れた「具志堅そば屋」は、豚骨ベース。4時間かけて煮込んだ味わいスープは「小さい頃食べた母の味」と、店主の具志堅恵美子さん。地元の方に懐かしい味と喜ばれることも多いそう。基本の八重山そばのほかにも坦々風など独自メニューを次々と開発していて目が離せません。
午後遅くに「とも豆腐」が開店すると、地元の人たちがひっきりなしに店頭にやってきました。「今夜のチャンプルー用の島豆腐と明日の朝のゆし豆腐、それと近所の人の分」と、できたてアツアツの袋をいくつも抱える常連さん。
伝統的な島豆腐は、大豆をすり潰した呉汁を生の状態で濾してから煮る「生搾り」が特徴で一丁500g超えと、かなりズッシリ。朝ごはんの定番、ゆし豆腐は豆腐を固める前のやわらかい状態のもので、薬味を添えたり、汁物に入れたりしていただきます。タクシーに乗ると運転手さんとどこの豆腐がうまい、という話になるくらい、朝、昼、晩、豆腐は島の日常食なのです。
天ぷら、そば、豆腐。これらは1年中いつでも食べることができる島の超定番フードですが、この島のローカルフードのもうひとつの側面は、“どこかの旬”ではなく、この島の旬が明確にある、というところだと思います。5月には本マグロが水揚げされ、夏にはトロピカルフルーツが市場に山積みに。ひとたび旬を迎えると瞬く間にその喜びが島中にあふれます。
一方で、離島であるがゆえ、台風が来れば農作物は被害を受け、島外からの物品も届かなくなる。海が荒れれば魚は獲れない。だけど島の人にとってそれは「この天候だからなくて当然でしょう」と。そんな本来のあたりまえに気付かせてくれるのが島の生活であり、そこにある豊かさに私も日々、感謝をしながら暮らしています。
SPOT LIST
■マルハ鮮魚
TEL.0980-82-0557
沖縄県石垣市美崎町1-13
営業時間/9:00~19:00 無休
■ヤエスイ直売所
TEL.0980-87-7443
沖縄県石垣市石垣3-1
営業時間/11:00~18:30 火定休
ヤエスイ直売所HPはこちら
■具志堅そば屋
TEL.なし
沖縄県石垣市新川2423-3
営業時間/11:00~ 15:00 日定休・土不定休
■とも豆腐
TEL.0980-82-4554
沖縄県石垣市字大川157
営業時間/16:00~18:30※なくなり次第終了 日定休
石垣島の案内人はこちら
早坂妙子さん
編集者。取材で訪れた石垣島の暮らしに魅了され『足元にある、大切なもの。石垣島ハーブ暮らし』(ジャパンライフデザインシステムズ)の出版を機に東京との2拠点居住を始めて10年目。好きな泡盛は白百合。
PHOTO/MICHI MURAKAMI WRITING/TAEKO HAYASAKA
※メトロミニッツ2022年12月号特集「ローカルフードとステイケーション」より転載