時間をかけて丁寧につくられた、“美学”のある手仕事の道具には、毎日を豊かにしてくれる生活の知恵が詰まっています。使うほどに愛着が湧いて一生使える、姫野作.の「雪平鍋」を作り手の思いとともにお届けします。これさえあれば料理ができる。料理が楽しくなる。お求めはオンラインで!
機械より緻密で味がある。美しい槌目の雪平鍋
昔はどの家庭にも必ずと言っていいほどあったアルミ製の雪平鍋。今では、雪平鍋をつくる鎚起(ついき)職人は全国で10人にも満たず、その中で最高峰の呼び声高いのが大阪府八尾市にある「姫野作.」の姫野寿一さんです。
1924年に姫野さんの祖父が大阪市内で創業し、その後、音を気にせず鍋を叩ける工場地帯の八尾市に移転。高度経済成長期の1970年前後には、同業者が次々と機械化に切り替えるなか、地道に手打ちの技術を守り続けて来ました。
ところが、姫野さんに稼業を継ぐ気はなく、高校卒業後は化粧品会社に就職。営業職を10年経験し、30歳が見えてきた頃、仕事や人生について考え直して、稼業を継ぐ決心をしました。
子供の頃から見ていた鍋打ちの作業も、いざやってみると至難の業。「ひとつの鍋をつくるのに、金づちで400~500回叩くのですが、同じ箇所の2度打ちは許されません。また、鋭角に当たって付いた跡は凹みになるので、これも失敗。リズムよく、美しい槌目を打てるまで10年かかりました」と姫野さん。
最盛期には7~8人の職人で1日100個もの鍋をつくっていたと言い、その経験が最高峰と呼ばれる姫野さんの技術につながっています。
雪平鍋は、鍋の内底の中心から金づちで打ち始め、外側に向けて渦を巻くように槌目を付けていきます。一方、鍋の胴体は外側を叩くため、少しずつ鍋を回しながら槌目を付けるのですが、急がず一定のペースで叩くのが熟練のなせる技です。
「最後に、底と胴の境目の部分を叩くのですが、ここがいちばん重要なところ。調理中に五徳に当たるので傷みやすく、鍋全体に熱を伝える役割もあるので、幅1cmしかないんですけど、ここだけは4周叩いて細かい槌目を付けて、頑丈に仕上げます。機械ではこの部分を叩けないのが、手打ちとの大きな違いですね」
また、注ぎ口を自由に決められるのも人気の理由。オーダーの際は、鍋を時計に見立てて、口の位置を「時間」で表します。
「鍋の柄を6時として、注ぎ口はだいたい9時に付いていますが、3時を希望する方も多いですね。力の弱い方は4時や8時が使いやすいみたいです。うちはどの位置でも対応しているので、手が不自由な方にも喜ばれています」
一般的な雪平鍋は厚さ2mmですが、姫野さんの鍋は昔から3mmが基本。そのわずか1mmが、丈夫で使いやすい鍋を生み出しています。
「母がお嫁に来てから使っている父の雪平鍋は60年経った今も現役。そんな一生付き合える鍋を、私もつくっていきたいです」
雪平鍋/姫野作.(大阪府八尾市)
アルミ板を金づちで叩いて強度を上げ、鍋肌を広げることで熱伝導率もアップ。焦げ付きにくいのも特徴で、汁物を温めたり、煮る、ゆでる、炒めるなど、何かと出番が多い。注ぎ口は好きな位置でオーダー可。雪平鍋6寸(直径18cm)12760 円/姫野作.(TEL.072-949-5174)
PHOTO/SHIN HAMADA WRITING/CHIAKI TANABE(Choki!)
※メトロミニッツ2022年10月号特集「ケの日の美学」より転載