高知県の東の端。世界ジオパークにも認定された室戸半島に、廃校になった小学校の校舎をまるごと活かした水族館があります。展示されているのは、地元の定置網にかかった海の生き物たち。プールやとび箱、理科室など学校設備をフル活用した展示方法も楽しく、子供から大人まで多くの人の心をとらえています。今回はこのユニークな水族館を中心に、ありのままの室戸の日常を旅してみましょう。
【高知県・室戸市】とび箱やバケツが水槽に!? 廃校が水族館に変身した「むろと廃校水族館」
主役は廃校と定置網にかかった魚
地域の資源をフル活用した水族館
廃校舎に地元で穫れる魚やウミガメを展示するなど、とことんローカルにこだわりながら、地域の新たな可能性を切り拓いている「むろと廃校水族館」。その成り立ちとこれからを、館長の若月さんに伺いました。
太平洋に突き出した高知県東南端の町・室戸。若き日の弘法大師が「空海」の法名を得るきっかけにもなった美しい空と海に囲まれたこの町に、4年前、一風変わった水族館が誕生しました。「むろと廃校水族館」はその名の通り、廃校舎を利用して作られた水族館。かつて子供たちが使っていた学び舎に、地元の定置網にかかった海の生き物たちが展示されています。例えば、とび箱は金魚が泳ぐ水槽に、理科準備室はクジラやウミガメの骨格標本室に、といった具合。「大水槽」という名の25mプールでは、ウミガメやサバが悠々と泳ぐ姿も観察できます。「展示されている魚のほとんどは地元の漁師さんから譲り受けたものです。なので、基本そのへんの魚ばっかり。目玉がないのが目玉です」
自虐的な笑いを次々と繰り出すこの人こそ、この水族館の仕掛け人であり、館長でもある若月元樹さん。施設の運営管理を行うNPO法人「日本ウミガメ協議会」の一員で、長年室戸を拠点にウミガメの調査を行なっている研究者です。「自治体から廃校になった小学校を有効活用したいという話を聞いた当初は、カメの資料や標本を展示する場所にしたいと考えていました。ですが、豊かな漁場を持つ室戸の海には、ウミガメ以外にも珍しい魚が生息しています。せっかくなら、そうした生き物を紹介する水族館にしようと方向転換したんです」
とは言え、もともと室戸市は県庁所在地の高知市からも車で1時間半以上かかる、言ってみれば四国の最果て。オープン前は各方面から「運営に苦労するのでは」と心配されていたそうです。しかし、蓋を開けてみれば初年度だけで全国から17 万人が来校。子供たちの声が消えた校舎に、再びにぎわいが戻ってきたのです。
水族館スタッフ・杉浦さんの1日に密着して見えた! 町を歩けば魚にあたる、室戸の豊かな日常あれこれ
6:00
水族館の魚たちも おいしい魚も 漁港から
室戸半島の周辺海域は栄養豊富な海洋深層水が湧き上がる好漁場。「大敷」と呼ばれる、アジ、サバ、ブリなどの回遊魚を対象とした大型定置網漁が盛んで、町の飲食店では朝獲れの魚が年間を通じて味わえます。水族館の魚たちも大半が定置網にかかったもの。周辺には椎名、三津、高岡と3つの漁港がありますが、珍しい魚がかかったときは漁師さんから連絡が入るのだそう。取材当日も、杉浦さんに「定置網にコバンザメが入った」との知らせが。すぐに駆けつけ、水揚げの様子を見守りつつ、魚をいただいて帰ります。漁師さんたちの協力で日々展示する魚が変わっていくのも、むろと廃校水族館の魅力です
12:00
ランチで訪れた食堂には魚の“超”目利きがいました
むろと廃校水族館から車で5分ほどの国道55 号沿い。館長の若月さんや杉浦さんもお昼ごはんによく訪れるお店がここ「ドライブイン夫婦岩」です。元漁師の山下元伸さんと妻のイツ子さんが二人三脚で営む食堂で、「刺身が室戸一新鮮。魚を知り尽くした人ならではの料理が楽しめます」と若月さん。この日の日替わり定食1,000円の主役は朝獲れピンピンのカツオとビンチョウマグロの刺身。土佐醤油を付けてほお張れば、魚のうまみ・甘みが口の中いっぱいに広がり、幸せな気持ちに。イツ子さんお手製の小鉢もほっとする味わいで、白米がもりもり進みます。なお、地元のお客さんにはラーメンやカツ丼も人気とのこと。
【和食】ドライブイン夫婦岩
ドライブインめおといわ
TEL.0887-27-2005
高知県室戸市佐喜浜町3
営業時間/9:30 ~ 15:00
金定休
14:00
「港の上」の懐かしい路地で漁師町の風情を感じる
地震で大地が隆起するたびに港の底を掘り下げていたら、地面と海面の高低差が8m 以上に。いつしか「港の上」と呼ばれるようになった室津港周辺は市内一の繁華街で、酒豪揃いの水族館スタッフもよく遊びに行くそう。入り組んだ路地に居酒屋やスナックが建ち並び、室戸が遠洋漁業で栄えた時代の面影が感じられます。夕暮れどき、茜色に染まった路地をあてもなく歩くのも旅の醍醐味。
16:00
美しい恵みの海にはウミガメが産卵に来ていました
「ご近所の方から近くの浜にウミガメの足跡があると連絡がありまして。これから確認に行きますが、一緒にどうですか?」と杉浦さん。むろと廃校水族館の運営母体である「日本ウミガメ協議会」には、近隣のウミガメに関する情報が随時入ってきます。この日は通報の内容を確認するため、水族館から車で数分の浜へ。そこには産卵を終えたウミガメが残した、神秘的な足跡がありました。室戸の海岸ではこのように年間4 ~ 5 回ほど産卵が確認できるそうで、杉浦さんたちはその都度、調査を行っています。きれいな砂浜を求めて産卵し、またそこに帰ってくると言われるウミガメ。この日出会った貴重な光景は、室戸の海の豊かさを象徴しているようでした。
19:00
魚料理も中華も。町の居酒屋はまるでファミレス!
「港の上」の飲食店の中でも、水族館スタッフのイチオシが、30 年以上続く居酒屋「蘭萬」。メニューを見てびっくり、新鮮なお造りやウツボの唐揚げ、ナガレの煮付けといった港町らしい料理から、オムライス、カレー、中華まで100種類以上が並んでいます。「お客さんの要望を聞いているうちにどんどん増えちゃって」とご主人。お品書きにびっしり書かれた文字は、優しさの表れなのです。
【居酒屋】蘭萬
らんまん
TEL.0887-22-4212
高知県室戸市室津2638-2
営業時間/17:00~ 21:30
日・祝定休
まだある! 室戸の日常旅で訪れたいスポット04
【01】室戸の海をイメージした手作りジェラート
太平洋を展望する道の駅で食べたいのが、自家製ジェラート400 円~。牛乳ジェラートと海洋深層水、食用藍を使った「ムロトブルー」など、地元の旬の食材を活かしたフレーバーが揃う。
道の駅 キラメッセ室戸
みちのえき キラメッセむろと
0887-25-2918
高知県室戸市吉良川町丙890-11
営業時間/直売市場8:30 ~17:00(ジェラート販売9:00 ~16:00)
月定休( 祝の場合は翌日休)
【02】歴史ある商店街に誕生した新たな集いの空間
地元食材が味わえるカフェとダンススタジオ、ピクルス加工場がひとつに。古戸商店街の空き店舗をリノベーションした風通しのいい空間で、ローカルと旅人が集い、交流できる場を目指す。
AozoLight
アオゾライト
TEL.なし
高知県室戸市浮津395-1
営業時間/11:00 ~ 15:00(14:30LO)、17:00 ~21:00(20:30LO) 日・祝11:00 ~20:00(19:30LO)
月・火定休
【03】室戸の自然を肌で感じる、全室個室のゲストハウス
海のそばの古民家を改装し、2020年にオープン。地元の食材をふんだんに使った身体に優しい食事や、光がたっぷり差し込む客室など、室戸の恵みを感じながらゆったりとくつろげる。
スカイ アンド シー・ムロト
スカイ アンド シー・ムロト
TEL.0887-98-7017
高知県室戸市室戸岬町2752-1
料金/1泊1名4950円~(1室2名利用)
【04】室戸ジオパークを楽しむヒントが見つかる場所
世界的に貴重な地質遺産として「ユネスコ世界ジオパーク」に認定された室戸の大地の成り立ちや、そこで育まれた人々の暮らしを紹介。カフェでは炭を使ったソフトクリームも楽しめる。
室戸世界ジオパークセンター
むろとせかいジオパークセンター
TEL.0887-23-1610
高知県室戸市室戸岬町1810-2
営業時間/9:00~17:00
無休
PHOTO/SAORI KOJIMA , WRITTING/NAOKO OGAWA
※メトロミニッツ2022年9月号特集「海街ステイケーション」より転載