メトロミニッツ、沖縄、コーヒー

コーヒーの街・沖縄で、口福の1杯を探す旅 ~OKINAWAN BEANS TRIP~/沖縄県・那覇市

更新日:2022/05/20

アメリカ文化の影響を受け、老いも若きもコーヒー好きが多い沖縄。舌の肥えた人たちが実力派のロースタリーを育て、コーヒーショップも個性派揃い。独自のコーヒーカルチャーが盛り上がりを見せる沖縄で、運命のコーヒーに出会う旅へ。

メトロミニッツ、沖縄、コーヒー、COFFEE potohoto

沖縄と世界をつなぐ2坪半のロースタリー

迷路のような路地に約120もの店舗がひしめき合う那覇の栄町市場。その一角に佇むわずか2坪半の店が、沖縄を代表するロースタリー「COFFEE potohoto」です。店主の山田哲史さんは25歳の時に沖縄へ移住。将来を考えていた矢先にスペシャルティコーヒーと出会います。

「それまではインスタントコーヒーしか知らなくて、正直、苦手でした。それがある時、スペシャルティコーヒーを飲んでみたら、知っていたはずのコーヒーとは味も香りも全然違って、それはもう衝撃的でしたね。いい豆は甘いということや、同じ豆でも焙煎によって味が変わることを知り、扉が開いた感じがしました」

仕事としても、コーヒーは世界に市場があり、人生も広がる可能性を感じたという山田さん。そこから独学でコーヒーを学び、2006年に栄町市場に店を構えました。

「ドリンクも提供するスタンド式の店ですが、あくまでもメインは豆の販売。まず興味を持ってもらうために、豆を入れた瓶をカウンターに並べて、目の前で一から作るお寿司屋さんのようなスタイルにしました。お客さんとの距離が近い市場だから、コーヒーを体験できる場にしようと。当時は画期的なスタイルでした」

ところが、観光客もまばらなディープな市場の中では、開店から1年が過ぎても外からのお客さんはほぼ皆無。そんな時、支えてくれたのは市場で働く人たちでした。

「もともと市場の人たちに“栄町にはコーヒー屋さんがないからここでやりなさい。応援するよ”とは言われていましたが、本当にみなさんが毎日2杯も3杯もコーヒーを飲んでくれて・・・。その支えのおかげである意味開き直れて、本当にやりたいことを突き詰めてこられました」

メトロミニッツ、沖縄、コーヒー、COFFEE potohoto

店が軌道に乗ってからは、ヨーロッパを巡ってカフェ文化を研究。コーヒーの生産国にもできる限り足を運び、信頼できる生産者から良質な豆を仕入れられる確かな関係値を築いてきました。その結果、山田さんは2014年にコーヒー豆の焙煎技術を競う「ジャパン・コーヒーロースティング・チャンピオンシップ」で5位入賞を果たし、全国にも名を知られる存在に。2019年には「沖縄コーヒーフェスティバル」を主宰し、今では名実ともに沖縄のコーヒーカルチャーを牽引する存在です。

オープン当初から山田さんが大切にしているのは、アフターテイスト。「おいしさはジャブで、アフターテイストはボディブロー」という考えのもと、飲み終わった後も余韻がじわじわと効いてきて、少し経つとまた飲みたくなるような、記憶に残るコーヒーを目指しています。

「うちでは常時6種類以上の豆を扱っているので、まずお客さんに好みを聞くようにしています。よくおすすめを聞かれますが、こちらがいくらおいしいと思っても、その人の好みに合わないと“おいしくない”になってしまうんです。そこで最適なマッチアップができれば、私みたいに1杯のコーヒーで世界が変わるかも知れない。そのためには、おいしさを超えた感動のあるコーヒーを出すことが使命だと感じています」

世界を意識して良質なコーヒーを提供できれば、どんな場所でも必ずお客さんは来てくれる――。地道な努力が実を結び、全国からたくさんの人が訪れるようになった「COFFEE potohoto」。客足が絶えない人気店になった今も、山田さんの店には市場の人たちが毎日のようにコーヒーを飲みに来て、ゆんたくを楽しむ幸せな光景が広がっています。

COFFEE potohoto

中南米をはじめ、インドネシアや台湾などアジアの豆もラインナップ。コーヒーはフレンチプレスやネルドリップなど、さまざまな抽出方法で楽しめる。エスプレッソにも定評あり

TEL.098-886-3095
住所/沖縄県那覇市安里388-1栄町市場内
営業時間/10:00~18:00
定休日/日

メトロミニッツ、沖縄、コーヒー、YAMADA COFFEE OKINAWA chapteR

素材への敬意が生んだ上質なコーヒーの普及基地

宜野湾にあるコーヒー専門店「YAMADA COFFEE OKINAWA」の製造拠点として、2022年2月、那覇にオープンした「YAMADA COFFEE OKINAWA chapteR」。作業場が約8割を占める店内は、“見せる焙煎所”という造りで、新鮮な豆の販売をメインに、淹れたてのコーヒーも飲める空間が誕生しました。

店主の山田浩之さんは、日本のスペシャルティコーヒーの草分けである東京の「堀口珈琲」で9年修業。その後、故郷の沖縄に戻り、父親が営んでいたコーヒー店を引き継いで、2015年に「YAMADA COFFEE OKINAWA」を開業しました。当時より扱うコーヒーの種類も増え、今後は焙煎能力が向上した新店舗で、豆の管理から焙煎まで製造のすべてを担います。

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もともと、山田さんは世界でもトップクオリティの豆だけを扱ってきましたが、経験を積めば積むほど、“コーヒーは素材ありき”ということを痛感。新店のオープンに合わせて作ったTシャツにも、「SOZAI NIMASARU GIJYUTSU NASHI」という言葉を刻むほど、豆の品質に人一倍こだわりを持ちます。

「コーヒーの味は生豆で決まります。“焙煎でおいしくする”わけではなく、いくら技術が高くても素材がよくなければおいしいコーヒーにはなりません。これを肝に銘じたうえで僕らがすべきは、素材のよさをできる限り理解するよう努めること。そして、そのよさを引き出すために、安定的な焙煎技術が求められるのです」

山田さんが焙煎するコーヒーは、豆自体の香りがよく、深煎りでも後味はすっきり。焙煎度合や風味が違う9種類のブレンドを軸に、好みの味を探していけるのも醍醐味です。

「焙煎に集中できる拠点を作ったことで、やっとスタートラインに立てた感じ。ここまでは師匠の堀口さんの足跡をたどることで到達しました。これからはYAMADA COFFEE OKINAWA のオリジナリティをどう出すか。そのためにも日々焙煎に努め、素材と向き合っていきたいです」

YAMADA COFFEE OKINAWA chapteR

店内で焙煎した新鮮な豆の販売がメインのコーヒーショップ。店頭には常時9種類の定番ブレンドと季節のブレンド、10種類のシングルオリジンが並ぶ。ドリップコーヒーは500円

TEL.098-975-5590
住所/沖縄県那覇市泊2-15-6
営業時間/10:00~19:00
定休日/月・木

メトロミニッツ、沖縄、コーヒー、Humming Coffee

飲み手も作り手も幸福になるコーヒーを目指して

2022年1月から「Humming Coffee」という屋号で活動を始めた末吉業人(なりひと)さん。父親が創業したコーヒー豆専門店「沖縄セラードコーヒー」に12年在籍し、昨年40歳の節目を迎えたのを機に独立を決めました。

「昔からコーヒーを飲む人だけでなく、作り手の幸福度も上がるようなスタイルを模索していました。コーヒーができるまでにはたくさんの人が関わっていて、素晴らしい仕事が1杯に凝縮されている・・・。今までもストーリーを大切にしてきましたが、より自由に、自分らしく発信していく時が来た、という思いです」

ブームではなくカルチャーとしてコーヒーを浸透させるには、コーヒーの生産国や農園、生産者まで知ってもらうことが必要という末吉さん。その思いは、コーヒーのパッケージからも伝わってきます。

「シングルオリジンのエチケットは生産国単位で作っています。まずパッケージに興味を持ってもらって、そこをフックに産地や生産者のことを伝えられたらなと。ゆくゆくは銘柄ごとのエチケットを作るのが目標です。そして最終的には、コーヒーを選ぶ時に農園や生産者も選択理由のひとつになるのが理想ですね」

メトロミニッツ、沖縄、コーヒー、Humming Coffee

一方、オリジナルブレンドのエチケットは、風味や味わいを色で落とし込んだデザインに。浅煎り、中煎り、深煎りの違いを視覚化することで、味わいがより印象に残ります。

ようやく店舗も決まって、現在オープンに向けて準備を進める末吉さん。若い頃いつも聴いていて、屋号の由来にもなったアルバム『Humming Jazz』を久しぶりにかけながら、初心に返って焙煎を楽しんでいます。

「最近は自分のためにコーヒーを淹れる時間が増えて、日常にコーヒーがあることの素晴らしさを改めて感じています。僕はどんな職業でも楽しめた人生だと思いますが、それがコーヒー屋でよかった。心からそう言えるほど幸せな仕事です。これからはもっと、コーヒーを通じていろいろな挑戦をしていきたいです」

Humming Coffee

さまざまな産地のスペシャルティコーヒーを生豆から焙煎。現在は豆の通販のみで、沖縄市内で開業準備中。開業情報については「Humming Coffee」のInstagramアカウントにてお知らせ

PHOTO/MANABU SANO WRITING/CHIAKI TANABE(Choki!)
※メトロミニッツ2022年6月号特集「おいしいコーヒーの旅」より転載

※記事は2022年5月20日(金)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります