食が豊かな街、人がいい街。そんな福岡のイメージに今、付け加えたいのがズバリ「コーヒーの街」。喫茶店からスペシャルティまで、振り幅広く独特のカルチャーが根付くこの街の「コーヒーのある景色」に会いに出かけよう。
オーストラリアからオランダ、そして福岡へ。
やぁ!ここは日本屈指のコーヒータウン、福岡。アイスグリーンの色した私鉄の電車とベビーカーがよく似合う郊外の街、春日原(かすがばる)です。郊外と言っても都内に暮らすあなたが思うよりは遠くなく、中心地までは電車でたったの10分。それでも2021年の春、ここに清潔でハートウォームなコーヒー屋さん「BASKINGCOFFEE kasugabaru」ができると、ついに!と、地元の人はみんなうれしそうです。さもありなん、かの芸人さんの言葉を借りればコーヒー屋さんは「なんぼあってもいい」もの。店主・室本寿和さんはこう言います。
「コーヒー屋さんは地域に根付く存在って言いますけど、本当にそうなんですよね。人はふだんの生活で、移動距離は半径2キロくらい。だからその圏内にあることが重要なんです」
それをつくづく実感したのは、何より自身の海外での体験でした。
さかのぼること2004年、オーストラリア留学をした室本さんは、そこでカフェが日常にある喜びを知ります。
「いつもみんなが集まるカフェがあって、バスで通りがかった時、知っている顔があると降りて行く。僕の中でカフェはコーヒーを飲みに行くというより、友人たちと話をするための場所だったんです」
時空は飛んで2012年のオランダ。当時アムステルダムにある翻訳会社で働いていた室本さんは、ここでスペシャルティコーヒーカルチャーに没入。現地で仲良くなったバリスタさんが出る大会を観に行ったり、コーヒー屋さんを自転車でめぐるツアーに参加したり。「ちょうど僕がいた頃にいろんなコーヒー屋さんがブワーッと増えて。そういう波を肌で感じてたんです」。
さらに運命なのが、コーヒーカルチャー誌『Standart』との出会い。その面白さに衝撃を受け、日本語版ができると耳にするやいなや「関わらせて欲しい」と直談判。翻訳業務を経て、ディレクターに就任することになりました。
さらに飛んで2020年の福岡。結婚し、妻の地元である春日原に暮らす室本さん。世に緊急事態宣言が出され、いよいよ移動ができなくなった時、はたと気づいたのは「自分の街にコーヒー屋さんがない」という事実でした。
「それまで外ばかりで、ここに目を向けてなかったんです。だけど、まずは自分が地域に愛着を持ちたい、持たないと豊かにならないと思って」。じゃあ、自分でお店をやろう。海外で味わったコーヒーカルチャーを、この街で実現させようと決意したのです。
「コンパクトな街なので知ってる人もつながりやすいし、適度に街で、公園もあるし、ちょうどいいサイズ感は、アムスにも似てるなと思っていて。ま、ひいき目かもしれませんけどね」と笑うその表情は、まるっきり地元大好きっ子のそれなのでした。
BASKING COFFEE kasugabaru
スペシャルティコーヒーの名店、千早「BASKING COFFEE」の姉妹店。コスタリカの農園から直接買い付けたフレッシュな豆が揃う。オーナーの榎原さんとは旧知の仲
TEL.なし
住所/福岡県大野城市錦町2-1-18
営業時間/11:00~19:00
定休日/木
PHOTO/SHIN HAMADA WRITING/MITSUHARU YAMAMURA(BOOKLUCK)
※メトロミニッツ2022年6月号特集「おいしいコーヒーの旅」より転載