自分のルーツに根を張り、育てていくこと_ローカリズム~編集長コラム【連載】

更新日:2022/04/20

群馬県・太田市
生まれた町に根を張り そこに誇りを持って 静かに活動する若者たち

衰退産業だった町のニットが再び芽吹き、枝を伸ばしはじめる

仕事の性質上、僕たちは日本中の町を訪れ、その町の人たちと関わりながら本を作っています。そして気づけば知らない町に縁が広がり、日本中に仲間が増えていきました。言うまでもなくそれは得難いことであり、僕らのかけがえのない財産になっています。

 でもときどき、地域の仲間たちのことがうらやましくなることがあります。僕はいつもそこを「通り過ぎ」、彼らはそこに「とどまって」いる。別の言葉で言うと、自分の町で活動する彼らの思いは積層され、僕はいつも明日は違う場所にいる。僕は埼玉県の神川という小さな町で育ちましたが、僕の根がそこに張られることはないし、残しているものもありません。もちろん良い悪いではなく、客観的な事実として。

 でも自分のルーツに根を張り、育てていくことの価値や意義を、全国にいる仲間や先輩たちから教えてもらえたことは、確実に僕たちがこの雑誌をつくる思いの起点になっています。日本にはほんとうにたくさんの素晴らしい産業や伝統があり、それに携わる人がいる。だからメトロミニッツが、読んでくれる方の視野を広げるきっかけになりたい。そういう気持ちでいます。

 僕が通っている場所のひとつに、群馬県の太田という町があります。日本3大焼きそばのひとつ「太田焼そば」と、自動車メーカーの「SUBARU」で知られる地方都市。僕はその町の地域情報誌制作の外部講師(編集長)として、そこに通っています。その生徒のひとりが、かつてこの町で栄え、今は衰退の一途をたどるニット産業を再興すべく、ブランドを立ち上げ、奮闘しています。ファミレスにこもってコンセプトを決め、工場に飛び込んで制作を依頼し、仲間とビジュアルを完成させる。そしてクラウドファンディングでファーストコレクションを完売させる。

 そのすべてが既存の「枠」に囚われることなく、そこには彼らの情熱がストレートに込められています。控えめに言葉にしても、僕にとってそれは眩しくて純粋で軽やかなな表現です。
22歳と23歳の青年が産み出したこのMebuki というブランドは、ここから「芽吹いていく」という願い。太田という地方都市に芽吹いた小さな種は、やがてこの町のみんなが見上げる大きな木になり、いつかきっと全国から注目される。そしてその木がいくら大きくなろうとも、2人はその木の下で変わらず静かにモノづくりをしている。

 日本の地域にはそういう宝物のような「思い」がたくさんあります。「人生のストーリーは一生じゃ足りない」とハイロウズのヒロトが歌っていましたが、至言としか言いようがありません。

Illustration/YOSHIE KAKIMOTO
※メトロミニッツ2022年5月号より転載 

※記事は2022年4月20日(水)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります