時代を超えて生きる、民藝のうつわの町へ。愛知県・瀬戸焼、本業のひと皿を知る旅

瀬戸焼の長い歴史をはぐくんだ、焼き物の技と民藝を守り継ぐ

今から約250年前に創業した「瀬戸本業窯」。江戸時代の製法をベースに実用的な陶器を作り続けている窯元です。例えば、陶土や釉薬は一から手作り。陶土は地元の土を水と混ぜて3～5カ月寝かせることで微生物が増え、粘りの強い土質に。釉薬は植物の灰から灰の粒子を抽出し、鉄釉は鉄、緑釉は銅、白釉は藁灰を加えるなどして、仕込みます。作業は昔ながらの分業制。ろくろの職人は生地を作ることに専念し、絵付けをする職人はひたすら絵付け。しかも、馬の目、麦藁手などの文様それぞれに専門の職人がいて、同じ文様だけを描き続けます。

「本業焼の最後の生き残りという思いが強いんです。瀬戸で培われた焼き物の技術を大切にしていけたら」と8代目後継の水野雄介さん。その思いには、6代目の祖父が出会った「民藝運動」も影響しているそう。

「高度成長期の瀬戸は磁器の海外輸出が盛んで、陶器から磁器への転業や機械化が進む一方でした。でも祖父は本業焼一筋に手仕事に徹していました。きっと周囲や時代から取り残されたような孤独を感じていたと思います。そんなとき、民藝運動の中心人物、陶芸家の河井寛次郎、濱田庄司、バーナード・リーチが祖父のもとを訪れ、手仕事を高く評価してくださった。すごく励みになったでしょう。今の私たちの大きな支えにもなっています」

庶民のための手仕事の美しさ、日常にある素朴な美しさを見いだし広めた民藝運動。そんな民藝の品が、暮らしを見つめ直し、ものを大切にするきっかけになればと、水野さんは話します。

白く焼きあがる瀬戸の土で作られた瀬戸本業窯のうつわは、釉薬や文様も発色がよく存在感たっぷり。それでいて、どんな料理でも引き立ててくれるさりげない美しさを感じます。ずっと愛用したくなる使い勝手のよさこそ、民藝の真髄です。

瀬戸本業窯では、2022年4月下旬のオープンに向けて、瀬戸・ものづくりと暮らしのミュージアム「瀬戸民藝館」の開館準備が進行中です。民藝館の開館は、民藝運動とかかわり、瀬戸のものづくりと日本の工芸品を愛した6代目の夢でもありました。建物は６代目が約70年前に作ったという資料館を改装。資金の一部はクラウドファンディングで集まった支援を活用しました。そんな瀬戸民藝館がめざすのは、瀬戸のものづくり、焼き物の魅力を発信していくこと。

1階には瀬戸本業窯の江戸後期から昭和までの品々を展示し、焼き物がどのように、どんな道具で作られているかを紹介。自社の製品のほか、木工、ガラス、染色、型絵染といった日本各地の民藝の品々を扱うショップも併設します。2階は民藝のある暮らしを提案する空間に。６代目の書斎が再現され、民藝運動にまつわる品や愛読書などを公開。瀬戸の焼き物の文化、民藝を感じられるスポットとして注目です。