独特な世界観を持つ、大阪・西成の気鋭ブルワリー「ディレイラブリューワークス」。唯一無二の世界観×自由なクラフトスピリットで、ハイレベルなビールを続々と生み出す彼らの想いとは。
〈OSAKA/BEER〉Derailler Brew Works
〈1990年10月、i-reen 特区で勃発した第22次ニシナリ暴動。ホフピンスキ兄弟はアメリカからやってきたエミリーと出会い、麦酒の密造を始める。2017年、当時の麦酒の再現を目的に、ある集合体が結成された・・・・・・〉。
公式サイトにこんなミステリアス過ぎる物語を掲げる(一度ご覧あれ!)「ディレイラブリューワークス」。
もちろん秘密結社にあらず、その独特な世界観が話題の気鋭ブルワリーです。造るビールも挑戦的。
例えば「新世界ニューロマンサー」なるビールは、大阪名物のミックスジュースを模して黄桃やバナナを使ったヘイジーIPA。
「Suika」はスイカ果汁やマシュマロに塩味を加えたゴーゼスタイル。名作映画のパロディ満載のラベルと相まって、とにかく気になるものばかり!
運営は大阪随一のディープエリア、西成・あいりん地区で介護医療や就労支援を行う会社。
就労者のおっちゃんから「酒造るんやったらなんぼでも売ったる」とハッパをかけられたのがブルワリー設立のきっかけとか。
とは言え「『生活保護の街』的イメージを利用するのも全否定するのも違う。まだ誰もやっていない世界観を作りたくて。西成は、既存の価値観に対して自由に生きることを教わる場所。それを表現してこそ、ここで造る意味があると思います」と話すのは、代表の山﨑昌宣さんです。
2018年以降、80種近いビールを送り出してきた「ディレイラ」。昨年には新醸造所が誕生し、若手ブルワー3人がレシピ開発を行う体制に。
「対外的には僕がヘッドブルワーですが、3人の立場は並列」。そう語る中村託也さんは、スコットランドの大学で醸造学を学んだ31歳。
東京農業大学出身の伊藤将広さん(28歳)、アルバイトからセンスを買われてブルワーとなった栁漠さん(27歳)と醸造に励みます。
「話し合いでレシピを決めることもあれば、匿名のコンペで決めることも。特定のブルワーの顔が見えないのが、うちの面白さ」。
今後は長期熟成用の貯蔵庫を作る計画もスタンバイ。ビールの多彩さに磨きがかかりそう。
「今の時代、単に王道のビールをおいしく造っても能がない」と山﨑さんが言えば、「だから振り切れるだけ振り切るのが僕らの使命」と中村さん・・・・・・が、「技術を試すには、定番スタイルの醸造も大切。山﨑にダメ出しされても、チャンスがあれば王道をねじこみます(笑)」とも。
よき仲間でありライバルでもある彼らの言葉に宿る、並々ならぬ熱量。その結晶であるビールに詰まるのは、クラフトビールの醍醐味そのものです。
Derailler Brew Works 注目の1本 「THE GIRL OF PLANET PISTACHIO999」
冬のナイトキャップにしたい
インペリアルスタウト
「ディレイラ」には珍しい正統派スタウトながら、隠し味にピスタチオを使用。骨太な焙煎香とバニラ香の後、深い余韻が尾を引く。夜寝る前、暖かな部屋でゆるりと楽しむのに最適
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI WRITING/RIE KARASAWA
※メトロミニッツ2022年2月号特集「47都道府県SAKEFILE」より転載