稲とアガベ醸造所

日本酒シーンを本気で変える秋田の醸造所/47都道府県 SAKE FILE 01

更新日:2022/01/20

日本酒の製造免許の新規取得が難しい今、「クラフトサケ」という新たなものさしをかかげ、日本酒シーンを本気で変えようと挑む若手醸造家。彼が設立した秋田の「稲とアガベ醸造所」を訪ねました。

〈AKITA/CRAFT SAKE〉稲とアガベ醸造所

稲とアガベ醸造所
醸造所名「稲とアガベ」は、米の酒を意味する稲と、奥様がテキーラ好きなことに由来。写真は「男鹿の風土を醸す」をコンセプトに造られた、クラフトシリーズのひとつ「稲とアガベ」

新規参入が難しい日本酒の世界で、最近、注目度が高まっているのが「クラフトサケ」という新たなものさしを手に、果敢に挑む若手醸造家の存在。

その先頭集団のひとりが昨年11月、秋田県男鹿市、JR男鹿駅の旧駅舎に醸造所「稲とアガベ」をオープンした岡住修兵さんです。

現在、消費量が伸び悩む日本酒業界では、新規の清酒製造免許取得は原則的に認められていません。

酒税法上の「清酒」の定義は、「米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの」。

稲とアガベ醸造所
JR 男鹿駅の旧駅舎をリノベーションした醸造所

一方、こしていないどぶろくや、米、米こうじ、水がベースの限りなく日本酒に近い酒に副原料を加えてこしたものは、「その他の醸造酒」というカテゴリーに属します。

新規で日本酒の製造免許が取れないのなら、新規免許取得が可能な「その他の醸造酒」の免許でお酒を造るという動きが加速しているのです。

岡住さんは2021年にその免許を取得。秋田の自然栽培米と男鹿の湧き水をベースに造るどぶろくや、アガベやホップなどの副原料を加えた「クラフトサケ」をリリースし、早くも話題に。

稲とアガベ醸造所
醸造所を立ち上げた岡住修兵さん(右から2番目)と蔵のスタッフの皆さん。現在総勢8名で造る 

そんな岡住さんの大きな野望は、「新規清酒製造免許の許可が下りない日本酒業界の仕組みを変える」こと。「稲とアガベ」の動きは、現行制度への問題提起でもあります。

「新陳代謝がない業界の未来は暗い。日本酒の消費量が伸びない中で、同じ総量ならば、極端な話、大規模な3軒の蔵で造るより小規模な3万軒の蔵で構成した方がお酒に多様性が出て楽しいですよね」

稲とアガベ醸造所
併設のレストラン「土と風」のシェフは2 名体制でひと月ごとに交代。メニューもそのつど替わる

もともと、大学時代から抱いていた「起業して地方に雇用を生む」という思いと、ある日、秋田の銘酒「新政」を口にして日本酒のおいしさに目覚めたことが重なり、この道へ。

新政酒造で4年半修業した後、原料の米から造る「栽培醸造蔵」を目指し、県内随一の自然栽培米農家で米作りも学びました。

稲とアガベ醸造所
蒸米を手早く広げて冷ます作業。清酒の醸造工程となんら変わりがない光景

出身は福岡県・北九州ながら、お世話になった秋田に恩返しがしたいと、醸造所の設立は秋田と決めていた岡住さん。

それゆえ、地元では雇用を創出すべく酒造り以外の事業も計画し、外からは観光客を呼び寄せ、男鹿のよさを伝えたいと語ります。

「醸造所は地域文化のハブにもなりますから」。併設された限定6席のレストラン「土と風」がまさにその場所。食材も器も秋田のものを使用しています。

「男鹿を、世界中からワインラバーが集まる銘醸地、ブルゴーニュのように」と意気込む岡住さんは、輸出用清酒製造免許も取得。日本酒の明るい未来に向けた、小さくて大きな一歩が秋田で始まっています。

稲とアガベ醸造所 注目の1本 「稲とアガベ ササニシキ」

稲とアガベ醸造所

米を磨かず、技を磨く
精米歩合は90%で統一

秋田県産の自然栽培米ササニシキを使用。副原料としてアガベシロップを加えた「その他の醸造酒」だが、シロップは発酵の過程でアルコールになるため、味わいはほぼ日本酒
※初回出荷分は完売

DATA

稲とアガベ醸造所

TEL.非公開 
住所/秋田県男鹿市船川港船川新浜町1-21 
併設のレストラン「土と風」は完全予約制。コース8000円、アルコールペアリング4000円、ドリンクの単品オーダーも可能

PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI WRITING/NAOKO ASAI
※メトロミニッツ2022年2月号特集「47都道府県SAKEFILE」より転載

※記事は2022年1月20日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります