ローカルに暮らすあの人が教えてくれる、町で生まれた手仕事もの(=民藝ちゃん)の話。今回は小笠原諸島・父島で作られる「はぷーちゃ硝子」の前浜コップを紹介。父島でフリー文化誌「ORB(オーブ)」を手がけるルディ・スフォルツァさんが、民藝ちゃんにまつわるローカルの物語をお届けします。
使いやすさを大切にした、台風のビーチのコップ
我が家では晩ごはんの担当が僕なのだが、料理を作りながら酒を飲むのが僕の習慣だ。そのとき必ず1杯を「はぷーちゃ硝子」の前浜コップで飲む。少し大きめのちょうどいいサイズ。淡い青のトーンはどんな色の飲み物も馴染む。そして口当たりのよさが気に入っている。「前浜」とは島で多くの人が訪れるメインビーチ。「台風の時の前浜をイメージした」というこのコップを僕は日常的に使う。
はぷーちゃ硝子を手がけている奥原圭さんは小笠原で育った「島っ子」だ。琉球ガラスを島の縁日で見かけたのがガラスとの出会い。島で活動する唯一のガラス職人の影響を受け、やがて沖縄や京都などの工房で経験を積み、数年前に故郷の父島に戻ってきた。今は自分が培ったものを込めた、自分が好きだと思う形の作品を、自分の工房を建てながら島で制作している。手に取る人が使いやすいと思うような作品を心がけ、材料は廃瓶などを利用して無駄をなるべく減らす手法を大切にしている。
短くて複雑な歴史を持つ小笠原には伝統的な民藝品が決して多くない。だから、はぷーちゃ硝子のような小笠原出身の人間が作るクラフトは貴重な存在だ。「使いやすく、自分が好きだと思う作品を創りたい」という純粋な気持ちが込められたはぷーちゃ硝子は、そのような島の新しい文化的価値をも秘めている。
民藝ちゃんDATA
■教えてくれた人/ルディ・スフォルツァさん
小笠原諸島、父島在住。小笠原のフリー文化誌「ORB(オーブ)」を制作。翻訳、英語講師、そして小笠原の文化企画などもフリーランスで行なっている
■作った人/はぷーちゃ硝子
2020年1月から本格的に制作開始。使いやすさを大切にしたガラス作品を父島で制作している。「はぷーちゃ」は小笠原の昔の言葉で島に棲むウグイスの呼び名
■買えるところ/Lulu Lani
TEL.04998-2-2225
住所/東京都小笠原村父島東町
営業時間/9:00~18:00、おがさわら丸出港日8:00~14:00
定休日/おがさわら丸入港前日
PHOTO/MANABU SANO
※メトロミニッツ2022年1月号「わたしの町の民藝ちゃん」より転載