ローカルに暮らすあの人が教えてくれる、町で生まれた手仕事もの(=民藝ちゃん)の話。今回は鹿児島県・与論島で作られる「ゆんぬ・あーどぅる焼」の器を紹介。20年近く与論島に通っているというフリー編集者の田辺千菊さんが、民藝ちゃんにまつわるローカルの物語をお届けします。
サンゴ釉の美しい青で描く、幻の浜に思いを馳せる
与論島には、大潮の干潮のときにだけ沖合に現れる「百合ヶ浜」という幻の浜がある。白い砂浜はサンゴでできていて、まわりにはグリーンからブルーにグラデーションしていく海が広がり、まさにこの世の楽園だと思った。この海に魅せられてしまった私は、もう20年近く与論島に通っている。島唯一の窯元「ゆんぬ・あーどぅる焼窯元」には、この百合ヶ浜をイメージした器がある。窯の名前は島の方言で、ゆんぬは「与論」、あーどぅるは「赤土」を意味し、島の自然素材を使った器作りに取り組む。
20年前は、サンゴの釉薬で作った器と聞いても、「きれいだな」としか思わなかった。ところが、取材で全国の窯元を訪れるうちに、ゆんぬ・あーどぅる焼の稀少さに気付き、改めて窯元を訪れてみた。作り手の山田幸子さんに話を伺うと、サンゴは焼いてから細かく砕いて釉薬にすること、割れやすい島の赤土を使うときは、鹿児島に送って粘土にしていたことなど、その手間ひまは想像以上。さらには、「灯油窯の煙突は台風のたび飛ばされちゃうのよ」と笑う山田さん。その朗らかさが明るい作風にも表れている。
また、島の人には「焼き」の響きだけでドーナツ屋と勘違いされたり、あーどぅるをヌードルと思い込んで訪れる人もいたとか(笑)。この器を見ると、美しい海とともにおおらかな島人のことも思い出し、優しい気持ちになる。
民藝ちゃんDATA
■教えてくれた人/田辺千菊さん
フリー編集者。旅雑誌やライフスタイル誌、相撲の専門誌まで、幅広い分野で活躍。奄美大島にも拠点を持ち、離島ライターとしても活動。年2回、与論島を訪れ、島人たちと交流する生活を10年以上続けている
■作った人/山田幸子さん
京都府出身。結婚を機に与論島へ移住。一時、島を離れて鹿児島にいた時代に陶芸を習う。1997年に与論島に戻り、「ゆんぬ・あーどぅる焼窯元」を開窯。島の自然素材を使った焼き物を制作
■買えるところ/ゆんぬ・あーどぅる焼窯元
TEL.0997-97-5155
住所/鹿児島県大島郡与論町古里909
営業時間/9:30~16:00
定休日/金(祝の場合営業)
※12月末日まで、期間限定で「代官山 蔦屋書店」で作品を販売中
PHOTO/MANABU SANO
※メトロミニッツ2021年12月号「わたしの町の民藝ちゃん」より転載