今、最も熱くジャパニーズウイスキー旋風が巻き起こっている場所が鹿児島。焼酎造りで培った技術を武器に、鹿児島の焼酎メーカーが続々と参入。なかでも注目の、嘉之助蒸溜所とマルス津貫蒸溜所を巡るウイスキーツーリズムへ
〈鹿児島県・日置市〉嘉之助蒸溜所
海風香る蒸留所で生まれる世界で唯一の美酒
扉が開いた瞬間、カウンターの向こうに広がる水平線に、言葉を失いました。
ここは嘉之助蒸溜所のテイスティングバー「THE MELLOW BAR」。蒸留所見学を終えた人しか入ることができない場所です。
嘉之助蒸溜所は東シナ海に面し、南北に約50㎞の砂浜が続く吹上浜の海辺にあります。砂浜をイメージしたベージュ色の建物はハイセンスなリゾートホテルのような雰囲気。
もとは小正醸造二代目の小正嘉之助が焼酎のテーマパーク「メローコヅルの里」構想のために用意していた土地に建てられました。
「メローコヅルとは60年以上前から続く小正醸造の樽熟成米焼酎です。シェリーやバーボン樽など以外にメローコヅルで使われていた樽を活用し、世界に類を見ない熟成を行っています」と所長の中村俊一さん。
さらに世界的に見ても珍しいのが、小規模の蒸留所ながら、ラインアームの角度を変えた3基ものポットスチルを備え、多彩な原酒の造り分けを行っていること。
加えて、雑味が多い部分はカットしてきれいなニューポットのみを残す繊細な仕込みも。
蒸留と樽熟成、焼酎造りで培ってきた技術で第1弾商品から高い品質を実現しました。
試飲で用意されたのは、その「シングルモルト嘉之助2021 FIRST EDITION」と構成原酒2種に、樽詰め前のニューポット。
特にFIRST EDITION で際立つのが、まさにメローな甘さ。熟したブドウのような香りとのバランスも抜群です。
「この場所は夏は38℃を超える日もある一方、冬は0℃を下回り、さらに風も強く、体感温度はもっと低い。蒸留所本棟の貯蔵庫はすぐ横を風が吹き抜けるため、ダイナミックに気温と湿度が変化。これにより熟成が速く進み、3年でも円熟味のある甘みが生まれたと考えます」と中村さん。
ニッキのようなスパイシーでオリエンタルな香りと甘みは、おそらく焼酎の樽由来のもの。
後味にほのかに塩気を感じるのはミネラルを含んだ潮風が仕込み中や熟成中の原酒に作用するから。
中村さんの話を聞き、視線の先には海。そしてウイスキーをまたひと口。時間を忘れ、長居したくなる人が多いのもうなずけます。
TOURISM DATA
嘉之助蒸溜所
TEL.099-201-7700
住所/鹿児島県日置市日吉町神之川845‑3
営業時間/10:00~16:30
定休日/月(年末年始休、臨時休業あり)
●見学時間:10:00~11:00、13:00~14:00、15:00~16:00
●所要時間:45分~1時間
●参加費用:1000円
●テイスティング:シングルモルト嘉之助やその構成原酒、ニューポットなど3~4種
●ショップ:Webでは抽選販売の「シングルモルト嘉之助 蒸溜所限定ボトル」を購入できるほか、オリジナルTシャツやバッグ、コースターなどを販売中。ショップのみの利用は予約不要
●予約方法:WEBサイトより要申し込み。1 回最大10名程度。1カ月先までの予約が可能
〈鹿児島県・南さつま市〉マルス津貫蒸溜所
南国での熟成に拮抗する力強い原酒を求めて
スコットランドに似た冷涼な自然環境がウイスキーには最適。そんな常識を覆したのが台湾など南国産のウイスキーです。
高い気温で樽での熟成が速く進む利点を活かし、世界中から高い評価を得ています。
長野を拠点にウイスキーを生産していた本坊酒造も2016年に鹿児島の薩摩半島南西部の山間の町、津貫でウイスキー製造を開始しました。
マルス津貫蒸溜所が建つのは田園とみかん畑が広がる盆地。近くの蔵多山から豊富に湧く水は甘みがある軟水で酒造りに適し、津貫はもともと本坊酒造の発祥の地でした。
1949年にウイスキー製造免許を取得、ニッカ創業者の竹鶴政孝の上司だった岩井喜一郎が顧問に就くなどスキー造りの長い伝統を誇ります。
南国とは言え、津貫は盆地のため夏は暑いが冬は寒く、雪が積もることも。
寒暖差は激しく、結果、樽熟成はダイナミックに進んでいきます。
「樽の風味を強く利かせるのは南国でのウイスキー造りにみられる手法ですが、津貫では樽の個性と拮抗するエネルギッシュな原酒を追求しています。そのためポットスチルのラインアームも、風味が残るよう下向きに設計されています」と、教えてくれたのはチーフディスティラー兼ブレンダーの草野辰朗さん。
その味を確かめに本坊家旧邸を改築したカフェバー&ショップ「寶常」へ。蒸留所限定のレアなウイスキーも揃い、飲み比べも満喫できます。
まずフラッグシップ第1弾、「シングルモルト津貫 THE FIRST」を注文。
メープルシロップのような香りで口に含むと重厚なボディがあり、ふくよかな余韻も。3年熟成とは思えない豊かな味に驚かされます。
「津貫の開設と同じ年に、鹿児島本土よりさらに南の屋久島に樽貯蔵庫を新たに設置しました。安定した高い温度帯で熟成が進み、非常に面白い酒ができあがります。屋久島エージングも少しずつ商品化を始めました。もうひとつ、最近こだわっているのが原料です。試行錯誤する中で、地元の麦芽で仕込んだ新酒が青々とした風味があり、とてもよかった。原料を含めオール南さつま産のウイスキーを、いずれ必ず出したいですね」
TOURISM DATA
マルス津貫蒸溜所
TEL.0993-55-2121
住所/鹿児島県南さつま市加世田津貫6594
営業時間/9:00~16:00
定休日/12/29~1/3休※そのほか臨時休業あり
●見学時間:9:00~16:00の間、予約に応じて
●所要時間:約45分(見学30分、試飲・買い物15 分)
●参加費用:無料
●テイスティング:寶常のバーで有料試飲あり。「シングルモルト津貫」のほか、マルス信州蒸溜所の珍しい1本が味わえることも
●ショップ:津貫蒸溜所限定ウイスキーやニューポット、さらに焼酎のほか、地元特産品などを販売
●予約方法:WEBサイトより要申し込み。またはサイトにある専用用紙でFAX(0993-55-2110)にて要申し込み
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI WRITING/ATSUSHI SATO
※メトロミニッツ2021年12月号特集「日本のウイスキーツーリズム」より転載