1934 年、“日本のウイスキーの父”が北海道の日本海を望む地に設立した余市蒸溜所。一方、今年10月にオープンしたばかりのニセコ蒸溜所。ジャパニーズウイスキーツーリズム、まずは新旧ふたつの蒸留所を巡る北海道の旅へご案内します。
〈北海道・余市町〉ニッカウヰスキー余市蒸溜所
四季の風情が彩る日本ウイスキーの夢の国
JR余市駅を出ると、正面にはスコットランドの中世城郭をイメージした正門が見えます。
冬には白い雪が周囲の現代的な建物を覆い、赤い屋根と石造りの蒸留所が際立ち、異国情緒満点。
古風なアーチの門をくぐれば、4万坪の広大な敷地に歴史的な建物が並び、シラカバをはじめとした多くの樹木や草花が彩る、美しい光景が目の前に広がります。
「春夏秋冬、趣が異なる風情が楽しめるため、見学のリピーターの方も多く、年間90万人の来場者を迎えた年もあるんですよ」とニッカウヰスキーの柿崎友良さんは言います。
見学で訪れる製造現場で印象的なのが、炉で石炭が燃え上がる蒸溜棟。創業から続く石炭直火蒸留は今や世界でも珍しく、今でも人の手により、スコップで石炭をくべて、1200にもなる炎でポットスチルを熱しています。
続いて、原酒が眠る第一貯蔵庫へ。幅が10mで奥行き50m。熟成中の数多くの樽が収められ、ひっそりとした室内にウイスキーの香りが満ち、神秘的な雰囲気を醸し出していました。
そのほか、蒸留所のシンボルの第一乾燥塔や、昔、研究室だったリタハウス、旧竹鶴邸など主要な建物9棟が国の登録有形文化財に指定され、1934年の創業から続く長い歴史を感じさせます。
今年10月には敷地内のウイスキー博物館が刷新され、ニッカミュージアムが誕生。
竹鶴政孝がスコットランドでの経験をまとめた竹鶴ノートなどの展示に加え、ブレンダーズ・ラボなど新たな展示も。
蒸留所限定商品を含む数十種類が味わえる有料試飲コーナーも設置されました。
見学の最後にはウイスキーの試飲を。「シングルモルト余市」をひと口飲めば、蒸溜棟で見たあの炎が適度な香ばしさを生み、この酒に独特の味わいを加えていることが頭の中にパッと閃き、続いてさまざまなイメージが浮かんできます。
清涼な香気に、雪解け水が流れる近くの余市川の透き通った水を。
豊かなコクに、熟成に適した余市の冷涼で湿潤な気候を。
どこか潮のような香りに、石狩湾から吹く海風を。
蒸留所現地でウイスキーを飲むことでしか味わえない、心地よい連想が広がります。
TOURISM DATA
ニッカウヰスキー余市蒸溜所
TEL.0135-23-3131
住所/北海道余市郡余市町黒川町7-6
営業時間/9:00~16:30
定休日/12/25~1/7休
●見学時間:9:00から15:00まで30 分ごとに開催(12:30 を除く。12:00 の回はランチ付き有料ツアー)
●所要時間:約55分(見学40 分、試飲15 分)
●参加費用:無料
●テイスティング:「シングルモルト余市」の試飲あり。そのほか、蒸留所限定商品などはニッカミュージアム内で有料試飲ができる
●ショップ:蒸留所限定商品をはじめ、ニッカのウイスキー商品、チョコレートや海産物加工品など幅広く揃え
●予約方法:WEBサイトより要申し込み。1 回最大9 名
〈北海道・ニセコ町〉ニセコ蒸溜所
ニセコアンヌプリの森で伏流水を繊細な1滴に
世界的なスノーリゾートとして知られるニセコ町。羊蹄山と並ぶ町のシンボルの山・ニセコアンヌプリの麓にあるのがニセコ蒸溜所です。
カエデやナラが立ち並ぶ、しんとした森の中に現れる、モダンな建造物。まるで北欧のミュージアムのような、静謐でスタイリッシュな美しさに魅了されます。
「地域の木材を有効活用した建物です。赤みのあるカラマツが暖かな雰囲気を与えてくれます」と所長の鈴木隆広さんが教えてくれました。
ここを手がけたのは日本酒・八海山で知られる新潟・八海醸造が立ち上げたグループ会社です。
「まず重視したのは水。井戸を掘って湧き出た、ニセコアンヌプリの伏流ニセコアンヌプリの森で伏流水を繊細な1滴に水が最高の軟水でした。水質を化学的に分析すると八海山の仕込み水と似ていて飲んでも抜群においしい」
蒸留施設の中で異彩を放つのが、3つある大きな木製の発酵槽。
「北米産のダグラスファーを使った発酵槽です。麦汁に酵母を入れて発酵させる際に、中に乳酸菌が棲み着き、深い味わいになります。微生物を上手に管理するのは、日本酒造りにも豊富な経験を持つ私たちの得意とするところ。豊かな香りや味を含みながらも、繊細できれいに調和したウイスキーを目指しています」
今年稼働のためウイスキーの製品はまだありませんが、見学では樽に詰める前の“ニューポット”と呼ばれる無色透明の原酒を試飲できます。
荒々しいアルコールの刺激の中に麦由来の甘みが潜み、青いフルーツのような香りも。この酒がニセコの冷涼な気候の中でゆっくりと熟成。
カラマツが使われた貯蔵庫には木の香りと酒の香り、さまざまな樽の香りが混和した芳しい香気が充満していました。どんな熟成を遂げるのか、期待に胸が高鳴ります。
「妥協したくないですね。10年物を出せてからが本番です」と鈴木さん。
所内では、ウイスキーと同じく時間が価値を深める逸品として新潟・燕三条の伝統工芸品やニセコ地域の産物、日本酒なども販売。
そのほか、ジンやビールなど豊富な酒も味わえます。新たなニセコの人気スポットになるのは間違いありません。
TOURISM DATA
ニセコ蒸溜所
TEL.0136-55-7477
住所/北海道虻田郡ニセコ町ニセコ478-15
営業時間/10:00~17:00
定休日/12/31~1/3休
●見学時間:10:00~、11:30~、14:00~、15:30~
●所要時間:約90分(見学30分、試飲・買い物60 分)
●参加費用:無料
●テイスティング:ニューポットの試飲あり。そのほか、魚沼ウイスキーやジン、ビール、日本酒などは有料
●ショップ:「ohoro GIN」のほか、伝統工芸品やニセコ特産品、日本酒などを販売
●予約方法:WEBサイトより要申し込み。1 回最大10 名。毎月15 日と月末の正午にその先の2週間分の予約日が公開
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI WRITING/ATSUSHI SATO
※メトロミニッツ2021年12月号特集「日本のウイスキーツーリズム」より転載