ローカルに暮らすあの人が教えてくれる、町で生まれた手仕事もの(=民藝ちゃん)の話。今回は山口県・萩市で生まれた「岩川旗店」の布ぞうりを紹介。萩のリトルプレス「つぎはぎ」の編集部員である石田洋子さんが、民藝ちゃんにまつわるローカルの物語をお届けします。気持ちよい履き心地の布ぞうりに込められた、職人の真心を感じて。
愛おしい手仕事。染め物屋さんのやさしい布ぞうり
岩川旗店は、山口県萩市で100年続く染め物屋さん。伝統技術を活かし「のれん」や「大漁旗」、神社の「のぼり」を作ってきた。職人たちが色鮮やかに染め上げた布製品が、「おめでたい」を届けてくれる。
移住して仲間と出会い、念願だったリトルプレスを創刊して編集部の名刺を作った際は、迷わず岩川旗店で名刺入れを新調した。店のシンボル、真っ赤な鯛の模様に染められた生地は、パッと心を明るくして、名刺を取り出すたび励まされる。
岩川旗店の商品のなかでも、布ぞうりは特に愛おしい逸品。風呂上がりに履いた時の気持ちよさといったら! 木綿のさらりとした肌ざわり。スリッパ以上、靴下未満のフィット感。手仕事のやさしさが、足元に心地よい刺激と高揚感を与えてくれる。
なぜ、こんなに惹かれるのだろう? 製作過程を知って納得した。かわいいだけじゃない理由がある。岩川旗店で染め損じた布を編んで作られる布ぞうりは、すべて一点物。作っているのは、長年針仕事をしてきた86歳の佐久間和子さん。履き心地よく、長持ちするよう研究を重ね、全ての布にアイロンをかけ丁寧に作っているから、仕上がりがきれい。染めの魂が宿る生地に、几帳面な和子さんの真心が編み込まれて、履く人の心までじんわりあたためるのだ。
PHOTO/MANABU SANO
※メトロミニッツ2021年11月号「わたしの町の民藝ちゃん」より転載