「ローカル」という言葉を感じさせる街_ローカリズム~編集長コラム【連載】

更新日:2021/09/20

神奈川県・茅ヶ崎市
人に個性があるように 街にも違いがあって、それは人によって作られる

海辺までの散歩のおとも
甘くてやさしくて健康なおやつ

 「この人といると安心する」とか「あの人がいると会議のムードが悪くなる」といった具合に、人には目に見えないオーラのようなものが存在します。そして僕たちはそれが目に見えないばかりに、知らずに地雷を踏んだりしながら、ジタバタと毎日を生きています。

 でもそういう可視化できない空気というのは「街」にもあって、それは場所によって当然のように違ってきます。沖縄には沖縄独特の空気があり、東京には東京のそれがある。東京の中でも六本木と八王子は違うし、平日と休日で空気が変わる街もある。全国を旅するような暮らしの中で、僕はその「空気」にとても敏感になりました。そしてその空気を作っているのは、たいていそこにいる「人」でした。

 そういう意味あいにおいて、僕は茅ヶ崎という街がとても好きです。
 近年では日本の地域の呼称として使われる「ローカル」という言葉ですが、もともとはサーファーの言葉で、地元の海に日常的に入っている人たちをさすものでした。茅ヶ崎のローカルも、たとえば千葉の一宮では一宮のローカルに敬意を持って波に乗る。ローカルは日常的にその海のごみを拾い、秩序を保ち、海を護っているからです。

 そして茅ヶ崎ほどその「ローカル」という言葉を感じさせる街を、僕は知りません。裸で自転車に乗っている人(けっこういる)。駅前の魚屋さんで夕飯のおかずの刺身を買っている主婦。海辺でぼんやりと一人本を読んでいる人。そのすべてがこの街に護られている。なにかそういう「大きなもの」の存在を、この街では感じます。

 僕はもちろん茅ヶ崎のローカルではありません。でも僕はそれに内包される感覚が好きで、毎日に少し疲れると、意味もなくこの街を歩き回っています。

 いちばん好きなのはBONBONS DE Kで焼菓子を買ってから海まで歩き、冷えたアイスコーヒーと一緒に食べること。店主の永島さんのつくる35種類のフィナンシェはすべてグルテンフリー。北海道産のバターで風味を出し、その日販売する分だけを焼いています。そして永島さんと話していると、この街が持つおおらかさがわかります。

 「街は人でできている」とはよく言ったものですね。その焼菓子には、彼女の明るさや街の空気みたいなものまで入り込んでいるようで、おやつを食べ終わったころ、いつも僕は少し元気になっているのです。

 旅のできない日々が続いています。茅ヶ崎まで行くことが旅なのかは意見が分かれるところだと思いますが、もしあなたが少し疲れていたら、それはおすすめできる休日の過ごし方です。

BONBONS DE K

神奈川県茅ケ崎市東海岸北3-15-34

Illustration/YOSHIE KAKIMOTO
※メトロミニッツ2021年10月号より転載 

※記事は2021年9月20日(月)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります