ローカルに暮らすあの人が教えてくれる、町で生まれた手仕事もの(=民藝ちゃん)の話。今回は滋賀県・米原市で生まれた「幾木 -kiki-」のアクセサリーを紹介。滋賀県のローカルメディアで企画・編集に携わる、フリーライターの矢島絢子さんが、民藝ちゃんにまつわるローカルの物語をご紹介。職人技が光る、愛らしいピアスで滋賀への思いをはせて。
作っている人を知ると、もっと尊く愛しくなる
職人気質(かたぎ)という言葉がある。「頑固で偏屈にみえるが、自分の技能を信じて誇りとし、納得ゆくまで手間をかける実直な性質」。そんな意味あいだが、井尻一茂さんは、頑固とか偏屈という言葉からほど遠い、人なつこい笑顔が印象的な木彫職人だ。
社寺装飾や仏壇仏具を手がける彫刻所の3代目。初代の作品は皇室にも届けられているほど。それを受け継いで伝統的な工芸品を手がける傍らで、現代の暮らしに寄り添うものへと発展させてもいる。インプットを大切にし、いろんな場に出向き、いろんな人といろんな話をすることが、ものづくりのエネルギーになる。こんなところも職人ぽくないかもしれない。
「幾木-kiki-」は、滋賀県在住の女性クリエイターによるデザインを、井尻さんが木彫の技で形にしたアクセサリーシリーズ。幾何学的に表現されているのは滋賀の自然。そのなかでもカイツブリモチーフを気に入っている。滋賀の県鳥で、琵琶湖のシンボルともいえる水鳥だ。
このピアスを身につけるとき、シュッと背筋が伸びるような心持ちになる。工房で木に向かい彫刻刀を動かしていた井尻さんを思い出すからだ。実直という言葉がよく似合う職人の姿だった。耳元で、カイツブリが琵琶湖のさざなみに身を任せているようにピアスが揺れる。こんな滋賀の思い方もある。
民藝ちゃんDATA
■教えてくれた人/矢島絢子さん
フリーライター。滋賀県南西部の暮らしの魅力を伝える「REedit North Otsu」で執筆するなど、滋賀ローカルに特化。また、同県発メディアの企画・編集などにも携わる
■作った人/井尻一茂さん
滋賀県の伝統的工芸品「上丹生木彫(かみにゅうもくちょう)」を継承する井尻彫刻所の3代目。ペット仏壇やインバウンド対応の木彫体験など、時代との融合を常に模索
■買えるところ/オリテ米原
PHOTO/MANABU SANO TEXT/AYAKO YAJIMA
※メトロミニッツ2021年10月号「わたしの町の民藝ちゃん」より転載