今月のテーマは「薬味の街」。料理の味を引き立てたり季節感を演出したり、香りを添えることで食欲を増進したりとさまざまな役割をもつ薬味は、日本では古くから重用されてきました。薬味の隠れた効果として、その鮮烈な香りや風味がひとの記憶を刺激し、忘れていた思い出を呼び起こさせるとしたら・・・? 果たしてそんなパワーがあるのか。薬味好きの5人に、薬味と結びついた街の思い出とレシピを聞きました。
スープ作家 有賀薫さん
【大分県×かぼす】エリンギとかぼすのスープ
大分県生まれの母の食卓を思い出す
爽やかでほろ苦いシンプルスープ
母の出身が、かぼすの産地の大分県臼杵(うすき)市です。私が高校生の頃でしょうか。祖父母の面倒を見るために母が里帰りするようになって、お土産で持ち帰ったかぼすが食卓に上るようになりました。母はよくお味噌汁に入れてくれました。炊き込みご飯に果汁をかけることも。柑橘の酸味、苦み、甘みで料理の味がグッと引きしまるんですね。今回のスープも、エリンギ1種のだしで少し単調になりそうなところに、かぼすのスライスを入れたらピタリと味が決まりました。
材料と作り方
○材料(2人前)
エリンギ ・・・ 1 パック
かぼす ・・・ 1 個(スライス6 枚)
ほうじ茶 ・・・300ml(ペットボトルでも可)
塩 ・・・ 小さじ1/2
醤油 ・・・ 少々
○作り方
1. エリンギは1/2 の丈に切り、食べやすく手で割くか、細切りにする
2. エリンギを鍋に入れ、ほうじ茶300ml と水200ml、塩を加え15分煮る。味を見て、醤油で味をととのえる
3. 食べる直前にかぼすの薄切りを浮かべる
※かぼすは長く入れると苦くなるので、食べる直前に入れること
※複数のキノコを組み合わせても、もちろんおいしい
プロフィール
ありがかおる 東京都出身。2011年から毎日、朝のスープ作りをSNSで発信し、世のスープ好きを魅了。『朝10分でできるスープ弁当』(マガジンハウス)が料理レシピ本大賞入賞
料理家 今井真実さん
【千葉県×青唐辛子】青唐味噌と牛タン焼き
夫の実家を初めて訪ねた夏
舌先がしびれる辛さとの出会い
千葉県佐倉(さくら)市の出身の夫の実家に訪れた時、初めて目にしたのが、たっぷりと盛り付けられた「青唐辛子」の輪切りです。それを瓜の塩漬けの上にざっとのせ、お醤油をかける。私はというと、瓜の塩漬けも青唐辛子の輪切りも初体験。恐る恐る口にすると、しゃきっとしたみずみずしい瓜は優しいのに、後から舌先に感じる青唐辛子の辛さは想像以上! 急いで麦茶をがぶ飲みしたのでした。結婚してしばらく経ち、今ではなくてはならない夏の味です。
材料と作り方
○材料(1人前)
青唐辛子・・・ 小 10 本
ニンニク ・・・ 1かけ
砂糖 ・・・ 大さじ1
味噌 ・・・ 大さじ2
ごま油( 作り方2) ・・・ 小さじ2
牛タン ・・・ 120g
塩 ・・・ 適量
ごま油( 作り方5) ・・・ 適量
○作り方
1. 青唐辛子のヘタを取り、みじん切りにする。目に染みやすく、手も痛くなってしまうので、ビニール手袋をつけましょう
2. フライパンにごま油を入れ、青唐辛子のみじん切りを入れ弱めの中火で熱する
3. 青唐辛子に油がまわったら、ニンニクのすりおろしを入れる
4. 弱火で焦げないように熱していき、ニンニクの刺激臭がなくなったら、砂糖と味噌を入れる。弱火で水気が飛ぶまで熱していき、練りあげぽってりとしたら完成!
5. 牛タンは水気を拭き、よく熱したフライパンにごま油を引き、牛タンをのせ、塩をパラパラと振る。焦げ目がこんがりとつくまで両面焼きあげる
6. 皿に盛り付け、青唐味噌を添える
※青唐味噌は冷蔵庫で3カ月保存可能
プロフィール
いまいまみ 神戸市出身。雑誌、WEB媒体でレシピ考案やスタイリングを担当。都内で料理教室を主宰。毎日ご飯を作る人が嬉しくなる「新しい家庭料理」を提案。大の肉好き
ブロガー 酒徒さん
【中国雲南省×ミント】薄荷炒牛肉
ミントと牛肉の意外な相性が
ビールを呼ぶ夏のひと皿
中国南西部では、ミントを料理に多用する。生のままサラダにしたり、つけダレの薬味にしたり、鍋やスープの具として煮たり、肉や卵と炒めたり…。今回の薄荷炒牛肉は、雲南省南部の少数民族・ダイ族の名物料理だ。ミントの爽やかな香りとほろ苦さが、ミッチリした赤身の牛肉に驚くほどハマる。シンプルな味付けが食材の個性を引き立て、生唐辛子の刺すような辛さが絶妙のアクセントになる。冷えたビールを激しく呼ぶ夏のひと皿だ。
材料と作り方
○材料
牛の赤身肉(サシがないもの)
ミント
下味:塩、醤油、酒、片栗粉
薬味:ニンニク、生唐辛子
調味料:塩、油
・・・上記、すべてお好みの量で
○作り方
1. ニンニクはみじん切り、生唐辛子は斜め薄切りにする。牛肉はひと口大の薄切りにする。切った牛肉に塩・醤油・酒をよくもみこみ、片栗粉を加えてさらにもみこむ。ミントは洗って水気を切り、太い茎を除く
2. 中華鍋を強火で熱し、鍋から煙が出たら、多めの油を入れて鍋全体によくなじませる。ニンニクを入れてジャーっと香りを立たせたら、すぐに牛肉も入れて、牛肉の色が変わるまで炒める
3. ミントと生唐辛子を炒め合わせる。ミントに火が通ってちぢんできたら、すぐに塩で味をととのえて、できあがり
※牛肉は、切り落とし肉やひき肉で作ってもおいしい
※牛肉もミントも炒めすぎないこと。終始強火でサッと仕上げる
プロフィール
しゅと 北京・広州・上海に在住し、2019 年に帰国。note「おうちで中華」、ブログ「吃尽天下」、Instagram、Twitterで、本場で知った中華料理を中心に作って食べて飲む喜びを発信
フードライター・料理家 白央篤司さん
【宮崎県×香味野菜各種】シーチキン冷や汁
香味野菜が活躍する伝統料理の
自由な発想が楽しい薬味使い
郷土料理を調べていて印象的だったのが、宮崎県の冷や汁。ミョウガ、大葉、ごまと豊富に薬味が活躍する料理だが、塩もみしたキュウリも薬味的な存在になる。焼いた魚をほぐすことが多いけれど、現地では「そんな面倒なことしない。おかかやシーチキンで簡単にやる」という人にも多く出会い、伝統料理が時代に即して受け継がれていることに感じ入った。ごまの代わりにピーナッツを砕いて加える人もいて、ナッツの薬味的利用もおもしろかった。
材料と作り方
○材料
シーチキン
キュウリ
ミョウガ
すりごま
木綿豆腐
大葉
麦味噌
いりこだし
・・・上記、すべてお好みの量で
○作り方
1. いりこだしで味噌をとき冷やしておく
2. キュウリはスライスして塩もみする
3. ミョウガはたて半分に切ってから細切り、木綿豆腐は手で食べやすくくずしておき、大葉は千切りに。シーチキンは軽く油を切っておく
4. 器に味噌汁を入れて、具材をおのおの加える。汁を濃いめに作って氷を入れてもよい
プロフィール
はくおうあつし 東京都出身、仙台市育ち。「暮らしと食」や郷土料理をテーマに活動。メトロミニッツ連載「行ってきました、農家さんの台所。」執筆。『オレンジページ』ほかで連載中
編集者 佐藤政人さん
【アメリカ×パセリ】タブーレ, ヨーグルト・タヒニソースがけ魚フライサンドイッチ
たっぷりパセリが主役の
中東風オリジナルサンドイッチ
日本でパセリといえば料理の端にちょこっと置かれた飾りみたいなもので、ほとんどの人は食べないし、「片づけたらキッチンで洗ってもう一度使うんだぜ」みたいなあらぬ噂が立てられるほどの情けない存在である。
そんなパセリなのだが、アメリカに来て印象が一変してしまった。肉や魚にかけるソース、サラダ、スープ、パスタ、サルサなどなどあらゆる料理に使われているのである。どれだけ使われているかはスーパーに行けばすぐにわかる。日本でなじみのちりちりパセリも、平べったい葉のイタリアンパセリも、パクチーも茎付きの束で売っている。重量はたぶん60gくらい。しかも3ドルほどと安い。この量はハーブとか薬味とかという概念をはるかに超えている。
究極はアメリカのスーパーならどこでも売っている中東のサラダ、タブーレ(英語ではタブーリー)だ。このサラダの主役はパセリ、つまりパセリのサラダである。タブーレを作るにはアメリカンサイズの1束パセリが必要なのだ。タブーレはピタブレッドかなんかにのせて食べると最高にうまい。
材料と作り方
○材料(2人前)
魚のフライ・・・80〜100g 程度のもの2切れ(白身魚、アジ、サバ、サーモンなど)
フラットブレッド ・・・2 枚(ナーン、ピタなど。なければバゲットなどでもOK)
ルッコラ ・・・適量
ブルグルなし簡略タブーレ(A)・・・ 好みの量(※1)
ヨーグルト・タヒニソース(B)・・・ 好みの量(※2)
(A)ブルグルなし簡略タブーレ
パセリ(可能ならイタリアンパセリ)・・・みじん切り大さじ5
生ミントの葉(オプション、なければパセリを増やす)・・・大さじ3
トマト・・・小1/2個(小さなサイコロ)
キュウリ・・・1/4本(小さなサイコロ)
玉ネギ・・・小1/4個(みじん切り)
レモンまたはライム果汁・・・少々
オリーブ油・・・大さじ2
オールスパイス、ナツメグパウダー(オプション)・・・少々
塩、こしょう・・・適宜
(B)ヨーグルト・タヒニソース
パセリ・・・みじん切り大さじ4
オリーブ・・・2 ~ 4 個( みじん切り)
ケーパー・・・小さじ1( みじん切り)
ヨーグルト・・・ 大さじ4
タヒニ(芝麻醤、すりごまでもOK)・・・ 大さじ4
レモンまたはライム果汁・・・少々
塩、こしょう・・・少々
○作り方
1. タブーレの材料(A)をボウルに入れてよく混ぜる
2. ヨーグルト・タヒニソースの材料(B)を別の器に入れてよく混ぜる。塩辛いオリーブ、ケーパーが入るので塩加減に注意
3. 皿にパンを置いてルッコラを敷き、魚のフライをのせてタブーレとソースをかける
4. 具をパンで包んで食べても、そのままオープンサンドイッチのようにナイフとフォークで食べてもよし
※1 ブルグル…ヨーロッパや中東で食べられている挽き割り小麦。タブーレにはブルグルを入れるのが基本だが、今回は軽くするために省略した
※2 タヒニソース…地中海沿岸や中東を中心に広く愛用されているごまペースト。中華料理の芝麻醤で代用可能
プロフィール
さとうまさひと 東京都出身、アメリカのボストン在住。アウトドア関連の編集者、著書として活躍。著書に世界77 カ国、355 のサンドイッチ・レシピを紹介する『世界のサンドイッチ図鑑』(誠文堂新光社)など
PHOTO/SACHIE ABIKO, YUJI IMAI, SHUTO, ATSUSHI HAKUO, MASAHITO SATO
※メトロミニッツ2021年9月号特集「薬味の街」より転載