りんごの生産地で、国産りんごを使って造られる日本のシードルは、畑から生まれた“農産物”。全国のりんご生産量の実に6割以上を担う青森県では、りんご産業が人々の生活や文化を支えてきました。今から65年前、国産シードルが誕生したのも青森県弘前市。そんな弘前市で、革新的なシードルを造る「もりやま園」の森山さんに話を聞いてきました。
〈青森県・弘前市〉もりやま園
未熟りんごの可能性が溶け込む
革新的シードルが目指すもの
「テキカカシードル」という不思議な名前のシードルがあります。「テキカカ」は漢字で書くとするなら「摘果果」。
弘前市のりんご園「もりやま園」による造語で、果物が立派に育つよう、大きな実を残して幼果を摘み取る摘果作業で出る未成熟果のこと。
そしてその未熟りんごを使った前代未聞のシードル造りを実現させたのが、当主の森山聡彦さんです。
このシードルの誕生物語は、まず日本一の“りんご県”青森が直面する厳しい現実から始まります。
「青森のりんご農家は高齢化と労働力不足が深刻で、大半が65歳以上かつ後継者も不在です。そもそもりんご栽培は非常に手間がかかり、自然災害があれば大打撃。それなのに低賃金で、若者からしたら就職先としてあり得ない」と森山さん。
明治から続く老舗りんご園に生まれ、家業を継がざるを得なかった森山さんが発揮したのが、逆転の発想力でした。
「どうやったら面白く、みんながやりたい仕事になるか。りんごを作ることより、農業のイメージを変えることこそ自分の仕事だと思ったんです」。
2015年、法人化を機に父から農業資産を引き継いだ森山さんが着手したのは、徹底的に無駄を省いた持続可能な園地作り。
広大な園地内のりんごの木をすべてデータ化、独自の管理システムを作り、作業効率や生産性を検証。そんな中で目を留めたのが、摘果りんごでした。
おいしいシードル造りで
“捨てる”を“生み出す”に変換
「捨てるもので加工品を作れば、生産性がぐんと上がるはず」。転機は、視察で訪れたフランス。シードル加工用のりんご品種をかじってみたら、驚くほど酸っぱくて渋くて……
あれ? 何かに似ている。そう、青くて未熟な摘果りんごの味わいです。当時日本で手に入るシードルの多くは甘口。
「造るなら、ビールのように食事と楽しめる、ドライで飲み飽きないシードルにしたかった。結果、タンニンが豊富な摘果りんごは目指す味にも最適だったんです」
2017年、世界初の試みとして発売された「テキカカシードル」は、かわいいラベルと印象的な名前、そして何より独特の複雑味で話題に。年々生産量も増加中です。
「今後は共感してくれる農家から摘果りんごを買い取る計画も。ともにその可能性を広め、市場を開拓していきたい」。
自社の代名詞だった「テキカカ」が、シードルの新ジャンルとしてりんご産地を支える。森山さんの目に映るのは、そんな青森の将来です。
夏に飲みたい1本 「テキカカシードル」
渋みを生かした世界初のシードル
未熟りんごに成熟りんごを30%ブレンドし、爽快でバランスのよい味わいに。2019年「ジャパン・シードル・アワード」大賞受賞。森山さん曰く、「きりっと冷やして、BBQなど屋外で楽しむのが最高」
アルコール:5.0%
容量:330ml
価格:627 円
もりやま園
見学不可、直売あり。その他、東京都港区「AoMoLink赤坂」、台東区「Wine Styles」などで購入可能
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI WRITING/RIE KARASAWA
※メトロミニッツ2021年8月号特集「シードルのある夏」より転載