ローカルに暮らすあの人が教えてくれる、町で生まれた手仕事もの(=民藝ちゃん)の話。今回は東京都・中央区の「木彫りオブジェ」を紹介。イラストレーターとして幅広く活躍するかとまりさんが、「たまらなく好き」と語ってくれた木彫りのオブジェ。独特のゆるさについつい心が和む・・・。そんな民藝ちゃんにまつわるローカルの物語をお届けします。
独特なゆるさが魅力の木彫りオブジェ
もう10年以上も前のこと。図書館で大好きな小説『山月記』を見つけて手に取ると、ダイナミックな虎の絵が目に飛び込んできた。
「なんだ、これは!」――それが下杉正子さんの絵との出会いだった。
イラストレーターを目指して勉強中の私は、当時とても衝撃を受けた。そんな憧れの存在だった下杉さんとは、数年後に東京のギャラリーで知り合い、今では良き友人同士だ。
彼女の作品の中で、いま私が注目しているものがある。片手サイズの木彫りオブジェだ。昔から立体作品を作るのが好きでいろいろと試行錯誤をした末、木彫りに行き着いたのだそう。
モチーフは、好きな動物やキャラクター。どこかで見たことのあるあのキャラも、彼女の手にかかるとクスッと笑えて味わい深いオブジェになるから不思議。「必死になって作れば作るほど、作品は曲がってゆき、予期しないものができあがる。でもそこが面白い」と彼女は話す。
私が迷わず手に入れたのは、この少しとぼけた顔の虎。大胆なカットと筆遣いに作り手の気迫を感じつつも、絶妙なバランスの佇まいに和まずにはいられない。
「傾いていたって、いびつだって、いいじゃない?」
そう思わせてくれる、この独特なゆるさが、私はたまらなく好きなのだ。
PHOTO/MANABU SANO TEXT/KATOMARI
※メトロミニッツ2021年8月号「わたしの町の民藝ちゃん」より転載