ローカルの日常を訪ねる「ステイケーション」。滞在中に出会える、その町ならではの朝の風景をフォトグラファー嶋崎征弘さんの一枚の写真と文でお届けします。今号は、東京都世田谷区にある23区内唯一の渓谷「等々力渓谷公園」を訪ねました。朝の涼やかな空気と新緑の渓谷の様子をご紹介します
朝6時半。等々力駅から目と鼻の先、大きなケヤキを目印に奥へ進むと、渓谷を見下ろせるゴルフ橋。2つ設置された温度計には、地上9℃、渓谷7℃と朝晩はまだひんやりとする。
橋のたもとにある階段を降りると、すぐさま音と景色が切り替わる。
両側の斜面に生い茂った緑が、トンネルのように谷沢川を覆い、穏やかな水面にゆらゆらと隙間なく映り込む。さっきまで聞こえていた地上の音は薄れて、鶯(うぐいす)や四十雀(しじゅうから)の鳴き声が、幾重にも重なり耳に心地よく響く。
少し奥へ入るとシュロや湿生植物も多く生息し、入口付近とはまた違う湿度と空気。遠くの電車の音が耳に入り、ふと橋の上を見上げると足早に駅へ向かう人々。
昨年も同じ頃、緊急事態宣言の最中に、自宅からずいぶん長い距離を歩いてここを訪れた。都心に住みながら、朝の時間を使って渓谷まで歩けることが、とても贅沢に感じられた。
来年こそは、この閉塞感漂う生活とは訣別して、また歩いてここを訪れたい。
今回訪れたスポット:東京都世田谷区「等々力渓谷公園」
東急大井町線等々力駅より徒歩3分、東京23区内唯一の渓谷。谷沢川沿いの散策路を歩けば、シラカシやケヤキなどの林、湧水といった都心とは思えない豊かな自然に触れ合える。横穴古墳や等々力不動尊などの立ち寄りスポットもある
PHOTO&TEXT/MASAHIRO SHIMAZAKI
※メトロミニッツ2021年5月号「ローカルモーニング」より転載