山梨県で丁寧に作られているリトルプレス『BEEK』。その土地に暮らす人の目線で、山梨という町が温かく切り取られています。そんな『BEEK』はどんな町で生まれたのか? 編集長の土屋誠さんに町を案内してもらいました。
土屋さんが仕事の息抜きや、子供と休日に訪れる愛宕山「こどもの国」。展望台からは甲府盆地や富士山も望める
「山梨の人や暮らしを伝える」をコンセプトに、2013年に創刊した『BEEK』。編集・取材・撮影・デザインまでをひとりで行うのは、山梨県出身の土屋誠さん。地元の出版社を経て、約10年東京でアートディレクターとして働いた後、家族とともに山梨へUターンしました。紙媒体だからこそできる編集や視点で、山梨のいまを伝えたい、という思いから『BEEK』を創刊。「発酵している。」や「写真と日々」、奥信濃発のフリーマガジンとコラボした「鶴と亀」など、毎号テーマをひとつに絞った総特集形式で構成され、これまでに6冊を刊行しています。
創刊当時、山梨での暮らしを伝えるフリーペーパーはあまりなく、雑誌文化も根付いていなかったそう。そのため土屋さんは、興味を持った場所や人に会いに行くことから開始。「本当に伝えたいことだけを抽出するため広告は入れていません。ですが、『BEEK』の制作を通して僕と町が繋がり、デザイナーとしての仕事が広がっている」と言います。「県内外の人を問わず、日々の生活の中で見落としていた発見ができるように、そして長く続けていくことでひとつの“場所”になれたらと思っています」
「自然豊かな北杜市は、移住者が多い町。富士吉田市は織物文化が盛んだし、甲州市は農業やワイン造り、山梨の中心でもある甲府市は商業の町ですね」と土屋さん。山梨県は町それぞれに特徴があり、個性豊かな新旧の店がバランスよく共存しています。例えば、甲府。銀座通り商店街にある1918年創業の「春光堂書店」は、山梨・山・アートなど、ローカルならではの棚づくりや選書にこだわりが感じられます。山梨のコーヒー文化発信地として親しまれているのが、2014年オープンの「AKITO COFFEE」です。「山梨は小さいエリアだからこそ、人と人との距離が近く、結びつきが強い。コーヒーを片手に、新しい企画や仕事が生まれることも多いんです」
その他、山&旅好きの移住者から新たに生まれたアウトドアブランドのアトリエや、夜は山梨ワインと餃子も楽しめる老舗の寿司店も。甲州に足を伸ばすと、2019年にオープンした知る人ぞ知るワイナリーなど、自然に恵まれた山梨ならではのスポットに出会えます。「源泉かけ流しの銭湯温泉が多いのも甲府文化のひとつ。僕も仕事の合間や1日の終わりに『草津温泉』や『喜久乃湯温泉』に通っています。甲府散策の後にぜひ立ち寄ってみてください」
土屋さんイチ押し!山梨で訪れるべきローカルスポット3
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メルシャンや勝沼醸造などで醸造責任者を務めてきた平山繁之さんが開業したワイナリー。鉄の醸造場、石の貯蔵庫、木造りの販売&交流スペースと、3種の素材からなる建物も圧巻。
キュウハチワインズ
TEL.0553-32-8098
住所/山梨県甲州市塩山福生里250-1
営業時間/土・日・祝10:00~ 15:00(時期により異なる)
CHECK POINT
木の塔でワインを楽しんだら、ハンモックが設置された2階のフリースペースへ。ガラス張りのフロアから、富士山を望む甲州の景色をひとり占め
アメリカヤ
韮崎中央商店街のシンボルであったビルを再生し商業施設に。5フロアにはカフェやDIYショップ、輸入壁紙専門店、雑貨店など個性的な店舗が集う。5階には土屋さんの事務所も。
TEL.0551-45-7291(各店舗はHPを要確認)
住所/山梨県韮崎市中央町10-17 ※営業時間と定休日は店舗により異なる
CHECK POINT
5階には開放感抜群のフリースペースがあり、八ヶ岳や韮崎の町を眺めながら寛げる。6軒の飲食店が連なる「アメリカヤ横丁」で、お酒を楽しむのもよい
LONGTEMPS
富士山を望む富士吉田市の本町通りで、3世代にわたって営む家具店。1棟はイギリスや北欧のアンティークとビンテージ家具。隣には、生活雑貨とセミオーダーの日本製家具と2軒並んで展開する。
ロンタン
TEL.0555-22-0400
住所/山梨県富士吉田市下吉田3-12-54
営業時間/10:00~19:00
定休日/火
CHECK POINT
手入れの行き届いた1点ものの家具を、良心的な価格でゲットできるのが魅力。織物産業エリアならではのオリジナリティある雑貨にも出会える
町の案内人/土屋誠さん
- 山梨県生まれ。広告制作、パッケージデザイン、ブランディング、写真撮影、イベントの企画・運営のほか、移住促進ツール制作にも携わる
BEEK
不定期発行 0 円
発行元/ BEEK DESIGN
主な配布場所/アメリカヤ、春光堂書店、AKITO COFFEEほか
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI WRITING/NAOMI TERAKAWA
※メトロミニッツ2021年3月号特集「リトルプレスで旅するローカル」より転載