あなたにとって、東京ってどんな街? 毎月案内人をお招きし、東京の街を巡る連載「東京巡礼」。それぞれの視点で東京を見つめ、思い入れのある場所(=巡礼地)をご紹介します。今号は曽我部恵一さんが神田・神保町エリアをご案内
東京は今でも「楽しい街」と話す、曽我部恵一さん。今月の巡礼地は、神田・神保町エリアです
香川県から上京して今年で約30年。僕にとって東京は今でも「楽しい街」です。東京には、お店もモノもあふれている。僕が育った田舎では、本やレコードを買いにお店に行っても誰もが知っているようなものしか置いていなくて。
欲しかったレコードは、日本で100人くらいしか知らないものだったので、そこにはなかったんですよね。ただそういうものは、東京にはいっぱいあったから、早く都会に行きたいなあと思っていました。だから、大学進学とともに上京した当時は、欲しかったレコードやどうしても手に入らなかったものが歩けば見つかるというのが、本当に楽しかった。
あと、東京は人が多いから「少数派」もいっぱいいるじゃないですか。それがとっても魅力的でした。例えば、とてもマイナーな映画とかも、「少数派」がたくさん集まれば成立して映画館で見られるでしょう。そういうところがいまだにとても好きなんです。
今回、巡礼地として選んだ「神田・神保町エリア」は、上京した頃から今も変わらず巡る「大人な街」。老舗の書店や喫茶店が並ぶこのエリアには、おじいちゃんたちもいっぱいいるし、お店も割と早い時間に閉まったり、そういうのがかっこいい街だなと思います。このエリアを訪れるときは、レコードを見たり、書店に立ち寄ったり。あとは、カレーや豆花をいただいたり、喫茶店でホッと一息。ギターリペアでお世話になっている楽器屋さんもこのエリアにあります。
なかでも喫茶店 神田伯剌西爾(かんだぶらじる)さんの「神田ぶれんど」を味わいながら、リラックスする時間は特別。元々、深煎りのコーヒーが好きで、こちらのブレンドはベスト。味が好きなんです。そして僕にとって喫茶店という場所は、“緊張を解く場”。喫茶店に来たら、とにかくリラックスする。余裕があるときは毎日でも喫茶店に行きます。
たまに購入した戦利品のレコードを持って行くことも。聴く前にまずジャケットを見て、解説を読み、どんな曲か想像する…曲を聴く前にそういう楽しみがあります。配信などが当たり前になった今、物を手にする前にいきなり曲を聴くのが当たり前になってしまい、そういう時間って省略されつつあるけど、素敵な時間です。
あと、喫茶店に行くと、若い男女がコーヒーを片手になんのためにもならない無駄話をする姿を見かけます。僕はその姿がとてもいいな、と思っていて。最近はいろんなものが効率化され、リモートで済むようになりましたが、そういう“いい無駄な時間”がなくなってしまったら寂しい。喫茶店はそういう“場”という意味でも一つの文化として成立しているし、東京にはそういう場所がこれからもずっとあってほしいですね。
今月の案内人/曽我部恵一さん
1971年、香川県出身。サニーデイ・サービスのボーカリスト/ギタリストとして1994年デビュー。2001年からソロ活動開始。音楽以外でも、俳優業や文筆業、カレー店のオーナーを務めるなど活動は多岐に渡る
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/EMMA MATSUI
※メトロミニッツ2021年2月号「東京巡礼」より転載