徳島のアアルトコーヒー_ローカリズム~編集長コラム【連載】

更新日:2021/02/20

徳島県徳島市

コーヒーを買ったつもりが
その人から励まされている
激励の言葉は、どこにもない

孤高のコーヒーロースター、徳島のアアルトコーヒー

 こんなことをこの場所で書くのが正しいかどうかは意見の分かれるところだと思いますが、僕は食に対してあまりこだわりのない人間で、なにを食べてもおいしいし、食べるものに気を遣うということもほとんどありません。でも、僕は毎日飲むコーヒーの珈琲豆を、徳島から取り寄せて、ハンドドリップで淹れています。
 それがコーヒー業界にとって何回目のウェーブなのか? どんな豆なのか? もちろん僕にはまったくわかっていません。200gで900円。どれだけ世の中のコーヒーの価格や豆の原価が上がっても、そのお店のコーヒーの値段は変わらない。でも当然僕は、それが安いから買っているわけではありません。僕がそのコーヒーを買うのは、そのコーヒーを焙煎している人が好きだからです。もちろんそれがおいしいからなのはいうまでもありませんが(このタイミングで書いても説得力がないな…)。
 アアルトコーヒーの庄野さんと出会ったのは一昨年で、「名前は知っているけど会ったことのない人」の1人でした。僕をその場所に導いてくれたのは、かつての会社の先輩でした。20年前に僕が編集者を目指して営業の仕事をしているとき、僕は彼女に憧れていました。その彼女が徳島出身で庄野さんと知り合いだった縁で、僕はその場所へ辿り着くことができました。
 徳島という地方都市は、駅前にあったそごうの撤退で、47都道府県で唯一の「百貨店のない県」になりました。最初に訪れたときの印象は「人気のない町だな」ということ。でも僕らは百貨店に行くために旅をするわけじゃない。僕はその先輩や庄野さんと徳島を歩くたびに、この町のことが好きになり、いつしかそこは、特別な町になりました。

 コロナ禍で移動が制限されています。でも身体が移動することだけが旅じゃなくて、そこに会いたい人がいるというだけで、僕らは同じ世界に住んでいると思うことができる。なにか別のものに託して、心を運ぶこともできる。
 慌ただしい日々の中で心が少し乱れたときに、カバンから水筒を取り出して、深煎りのアルヴァーブレンドをひとくち。それはコーヒーという名前のついた魔法のようなもの。庄野さんの人となりをここで語ることはやめておきます。それはあくまで僕という人間の目を通して見ている彼なのですから。
 僕らはそれぞれ、同じに見えても違うものを見ています。僕たちがひとつじゃないということは、なんと豊かなことでしょうか。

[アアルトコーヒー]

徳島県徳島市佐古二番町18-12 ※コーヒーは通販も可 

Illustration/YOSHIE KAKIMOTO
※メトロミニッツ2021年3月号より転載 
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2021年2月20日(土)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります